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61.逃亡失敗

「なっ、何で……同じ勇者なのに!?」


 俺は地面に叩きつけられた衝撃の痛みに耐えながら、タケルに向かって叫んだ。

 しかしタケルはニヤニヤ笑うだけで答えない。


 逝ってしまった――あまりにもあっけなく、突然に。さっきまで話をしていたのに。マリーゴールド……良いオカマだったのにっ!

 遺体は光の粒子になって消えた。俺の予想通り、元の世界に帰れたのならそれはそれでいいけれど、そんなことを確かめる術は俺にはない。


 今言えること、はやはりこのタケルという男は、人の命を虫けらのように扱うくそ野郎だということだ!


「お前っ!」


 俺は怒りに震えながら、スキル“魅了”と“誘惑”を使った。

 もちろんニッコリなんて笑顔にはなれなかったから、完全にかかるとは思っていなかった。しかしタケルも男だ、少しくらいかかればいいとそう思ったのだ。

 しかし――。


『タケルにスキル”魅了”と”誘惑”が0%発動しました。相手の性癖と一致しません』


 脳内アナウンスは初めての内容を告げた。


 何だこのアナウンスは!? 

 今まで相手の意思が強くてスキルが打ち消されたことは何度かあった。ヴィンセントやソウタ、スティーブがそうだ。そして脳内アナウンスが流れなかった時は、相手の性別が女だったから。オークのメスやルーファスのように。


 なのに、『相手の性癖と一致しない』って何っ!?

 かなり化粧崩れしているとは言っても、今の俺は美しいセクシー小悪魔系美少女のレイラだ。それに1%たりともクラっと来ないってどういうこと!?


 タケルはアヤカと付き合っているような雰囲気だった。

 アヤカに俺のレイラが負けるはずがない。性癖が違うってどういうことだよ!?


「あれ? 今何かスキル使おうとしましたか?」


 そう言ってタケルは目を細める。


「へー、魅了系スキルですか。それで私を篭絡しようと? まったく無意味なことを……私はお前みたいな女には興味がない。そんなスキルにかかるわけがない」


 多分突然気配もなく現れてマリーゴールドを一突きにしたのは、『気配遮断』とか『隠密』とかそういうスキルだろう。それに俺のスキルを見破ったということは、『スキル看破』系統のスキルもあるはずだ。

 攻撃系のスキルは多分ないのだろう。もし持っているのなら、剣や爆弾を使わないはず。


「くっ……」


 俺は逃げようとした。

 相手が攻撃系スキルがないなら、逃げられる可能性あったからだ。

 しかし、地面に叩きつけられたダメージが意外と大きく、身体が動かない。


 そうこうしているうちに王国騎士団の兵が集まってきてしまった。

 せっかくマリーゴールドが逃げる機会を作ってくれたというのに、俺は再び捕まってしまった。


「勇者様っこれは一体!?」

「オカマが虜囚を逃がそうとしたのです。明確な裏切り行為。なのでオカマは同じ勇者として処分しました。心苦しいですが仕方がない」

「くっ、お前っよくも! 何も殺す必要なんてなかったじゃ――」

「うるさいですねっ」


 タケルは、地面にうずくまる俺を思いっきり蹴り飛ばしやがった。


「ぐっ!」


 あまりの痛みに意識が薄れる。

 本当に酷い野郎だ。同郷のはずのマリーゴールドを殺害して、女の姿をしている俺にも容赦ない蹴りを入れる……。本当に最低だ。



 ◆◇◆



 タケルにおもくそ蹴られて、俺はしばらく意識を飛ばしていたようだ。

 今俺は両手両足を縛られて、堅い石床の上に転がされていた。


「ここはどこだ?」


 何とか身体を起こして周囲を探る。鉄格子――どこかの牢屋っぽい。

 俺は王都に虜囚として護送中だったのだから、もしかしたらここは王都にある牢屋なのかもしれない。


 状況は最悪だ。こんな状態ではもう逃げられる可能性は皆無に等しい。


「あーもう完全に詰みでしょ……」


 思い返せば今生の17年は濃い人生だった。

 結構充実していた記憶が多いが、唯一心残りがある。


「結局俺はルーファスさんに返事をしないまま、こんなことになってしまった」


 未だに返事には迷いがあるけれど、部屋で会ったのが最後だったなんてあまりにも唐突な別れをしてしまった。俺のことを運命の人だと言ってくれたのに……。

 俺はそのことだけが酷く心残りだった。


 その時だった。


「ねえ、そこに誰かいるの?」


 隣の牢からだろうか、女の子の声が聞こえた。

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