60.再びの爆死
同じ事故に遭いながら、異世界転生となった俺と、異世界転移になった勇者たち。
その差を考えると、その可能性しか思い浮かばなかった。
俺は死んだけれど、彼らの肉体はまだ向こうでは生きている。
「死んでないですって?」
「あくまでも可能性で、確証はない。でも即死の俺と違って、あんた達はもしかしたら意識不明の重体とかになってるんじゃないのかな? それで魂だけがこの世界に召喚されてるとか」
原理は分からない。
でも王のスキル“勇者召喚”とは、もしかしたら事故とかで幽体離脱的な状態になった魂だけがこの世界に召喚されて、謎パワーで実体化しているようなものなのかもしれない。
そう言えば以前ヴィンセントが、勇者召喚はなかなか成功しないと言っていた。もしかしたら事故で意識不明になっているとか、そういう条件が揃わないと成功しないのかもしれない。
「最初に轢かれた俺は即死して、異世界転生」
「その後轢かれたアタシたちは……」
「死んでいなくて、意識不明の重体とか……。多分最初にソウタが意識を失って、この世界に召喚された。その後で、歩道を歩いていたタケルとアヤカが轢かれて意識不明に。それとほぼ同時にアンタも意識不明」
そう考えれば辻褄が合ってくるような気がする。
多分時間の流れも、この世界とあちらとでは違う。こちらの世界の方がとても速いのだ。
真っ先に撥ね飛ばされて即死したから、俺は17年も前に生まれた。
ソウタは先に意識を失ったから、マリーゴールドたちよりも半年早く召喚されてしまった。そして生贄に。
「ソウタの最期は光の粒子になって消えた――これって向こうの世界に帰ったってことじゃないのかな?」
そうであって欲しい。これは俺の願望でもある。
どうかあんな無残な最期ではなくて、向こうの世界へ帰れたのだと。どうか救いのある物であって欲しい。
「……そうだと……良いわね」
マリーゴールドは涙を流していた。もしかしたらソウタは元の世界で生存している。その可能性を信じ感涙にむせんだ。
結構シリアスめなシーンだったはずなのだが、塗りたくったアイシャドウが涙と共に流れ落ち、黒い川を作っている。しかもマリーゴールドが涙を拭うと、マスカラが落ち悲惨な惨状だ。
酷い顔面崩壊を見せられたせいで、俺は笑いをこらえるので必死だった。
多分マリーゴールドから見たら俺が嗚咽を抑えているように見えたかもしれない。申し訳ないが腹筋と戦っているだけだ……。
◆◇◆
マリーゴールドは俺の縄をほどき、逃亡の手助けをしてくれた。
「これ少ないけどお金、それとナイフと地図が入っているわ。あと化粧道具も」
そう言って布袋を渡してくれた。
うん、この人の化粧道具はあてにしないことにしよう。
「馬は乗れる?」
「はい、大丈夫です。ファームでワイバーンとかにも乗ったりしてましたから」
「そう、それは良かった。――じゃあ、早く逃げなさい。元気でねっ」
マリーゴールドがそう言って、俺に馬の手綱を渡そうとした時だった。
「ぐぅ! がはっ!!」
マリーゴールドの胸から剣先が突き出ていた。
マリーゴールドは大量に血を吐いて、地面に倒れ込んだ。
「えっ?」
俺は何が起こったのか分からずに、ただその目の前で起こった光景を見ていた。
「まったく、このオカマ余計な手間をかけさせてくれますね」
突然声がしたかと思うと、誰もいなかったはずの場所に勇者タケルが立っていた。
その手には血濡れの剣。
そして、タケルはポイッと何かを倒れ込んだマリーゴールドに放り投げた。
破裂音と閃光がし、爆風が起る。――爆弾だ。
かつてエカテリーナが使った爆弾の1/10にもない威力だったが、俺は爆風で1mほど吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。
マリーゴールドを見ると、爆発をダイレクトに受け、肉体は焼け焦げていてどう見ても死んでいた。
そしてソウタの時と同様に、その身体は光の粒子になって消えていく。残ったのは焼け焦げた服とか装備品だけ。
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