6.ギルドの受付嬢
孤児院のあるハーベルの町から乗合馬車で、二時間ほど行ったところにあるアガサという町にはハンターギルドがある。
俺はそこで受付嬢のバイトを始めた。もちろん女装して。
「おいっ! この依頼がうけられねーってどういうこった!?」
「もっ申し訳ございません、こちらの依頼はハンターレベルC以上の方しかうけられなくて……」
「俺のレベルが低いって言いたいのか!?」
みたいなやり取りがそこかしこで行われている。
ギルドの受付は、日々クレーマーハンターとの戦いだ。俺にとってはスキルレベルと上げるのに適した環境でもある。
「あら、ロッズさん? 今日は私のカウンターに来てくれないんですかぁ?」
「レ、レイラちゃん!」
俺が出勤して早々にいざこざを発見。カウンターで騒いでいた男、ロッズに声をかける。もちろんスキルを発動させながら。
俺がニッコリとほほ笑んでやれば、今まで怒り心頭だった顔はすっかりデレデレである。単純な男だ。
「きょ、今日はいないのかなーって思ってたんだけど。それより俺の名前覚えててくれたんだ」
「今日は、ちょっと遅番だったんですよ。それに私がロッズさんのこと忘れるわけないじゃないですか! さぁ私のカウンターへどうぞ。ロッズさんのために沢山お仕事探しておいたんですからね?」
そう言って腕を絡めながら、甘えたような口調で言う。もちろん上目遣いも忘れない。
相手の名前を覚えるのは基本中の基本。名前を憶えてもらえている、たったそれだけのことだが男は“特別扱い”されていると上機嫌になる者が多い。
頭の中にアナウンスが聞こえる。
『スキル”魅了”と”誘惑”が100%発動しました』
すっかり俺の虜であるロッズは、今までの怒りも忘れて、俺がてきとーに用意した依頼をよく内容も確認せずに受けると了承した。
「やっぱりロッズさんに頼んでよかったです、本当に頼りになります」
「もちろんだぜ! レイラちゃんの頼みならなんだってやるさ!」
俺が紹介したのはランクFの公衆トイレ掃除。達成金額もくっそ安い。ハンターランクDのロッズにはまぁちょうどいいだろう。
ロッズは“頼りにしている”というその言葉だけで、すっかり有頂天だった。さっきまでCランクの仕事が受けられないことで怒り心頭だったとは思えない。
とにかく可愛いは正義だ、可愛いということこそパワーなり。
更に俺のスキルもあいまって、“こういう系統の男”の扱いはもう慣れたようなもんだ。そもそも下心があるやつをひっかけるのは楽だ。
そうはいっても、未だに真面目系や倫理観しっかりしてる系、精神力高い系には、俺のスキルの効きが悪い。スキルを発動しても打ち消されてしまうことが多い。
こればっかりは練習あるのみ。
俺自身の女装テクニックを上げて、スキルレベルを上げていくしかない。
◆◇◆
「レイラさん、いつも助けていただいてありがとうございます!」
「本当に尊敬しちゃいます!」
同じ受付業務を担当している仲間たちが口々に感謝の言葉を述べる。
「ううん、大丈夫よ。それよりも女の人のハンターのお相手はよろしく頼みますね。私、女の人には嫌われているみたいなので」
男のハンターを手のひらで転がすのは随分となれてきたが、一方で女性ハンターからの評判はすこぶる悪い。
別に俺が何かしたというわけではない。ただ単に嫌われている、ただそれだけだ。昔から言うだろ、女の敵は女って。
ハンターは8割方男性だが、残り2割は女性で、しかもハンターらしく気性が荒い。それでいて女であることを捨てていないから、俺のことを目の敵にしてくる。
アガサのハンターギルドには女狐がいると――いや間違いではないのだけれど。
とにかく男性ハンターに色目を使っているギルドの受付嬢に対して、彼女たちは強い嫉妬心を抱いているのだ。
「俺のスキルは男にしか効かない。女たちからの嫉妬、嫌がらせはどうにもならない。……女には関わらないこと、それしか方法がないな」
女装が趣味とはいえ、俺の恋愛対象は女性だ。女の人から嫌われるというのは悲しいことだが、これもスキルレベルを上げるためだと思えば仕方がないことである。
◆◇◆
まぁ、そもそも俺はハンターギルドの受付嬢のバイトをやるつもりはなかったのだが……。
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