57.オークよりはまだまし
いい加減男に迫られるシチュエーションには慣れてしまった。トホホ……。
まぁいい、今回はレイではなく女装したレイラである俺に迫ってきているんだ。ここ一年近くレイの状態で尻を狙われ続けてきたから、女と勘違いされて迫られるほうがまだましだ……ん? ましなわけないか。
自分で言っててなんだかよく分からなくなってきたが、このシチュエーションは俺にとってはチャンスだ。
「だっ大臣様、お願いですっ酷いことしないでっ」
そう言って俺は微笑みながらスキル“魅了”を発動し、言葉と合わせて“誘惑”を発動した。
『大臣にスキル”魅了”と”誘惑”が100%発動しました』
久々のスキル発動だし、レイラのメイクもかなり乱れた状況だったため、スキル発動にちょっと不安はあった。しかし、無事に聞こえてきた脳内アナウンスに安心した。
かなり乱れてしまっているものの、レイラの姿で捕まったのは不幸中の幸いだった。この姿であれば、大臣のように下心のある男を言うなりにすることが出来る。
今の俺的には、貞操の危機というよりは、鴨が葱を背負って来たようにしか見えなかった。むしろよく来てくれたと!
こいつはこんなナリでも一国の大臣。ここは何としても“男殺し”まで発動させて俺の恋奴隷にしておきたい。
そのためにはどこでもいい、相手の身体に口付けしなければならない。ちびデブはげの男に口付けなんて本当にイヤだが、この危機的状況! 背に腹は代えられないっ! オークキングの腕に口付けした時よりはまだマシと思おう。ゴブリンのような見た目だが、大臣は一応人間だ!
「もっもちろんだ、酷い事なんてしないよっ。ただちょっとお話をしたかっただけなんだなっ、ふへへへへっ」
「本当ですか? うふっ、だったらレイラの縄をほどいて? 手足を縛られて、とっても痛いの。お・ね・が・い」
このまま大臣に縄をほどかせて、腕にでも口付けしてスキル“男殺し”を発動させよう。そして俺の逃亡の手助けをさせよう。
俺の頭の中で今後のプランが組み立てられる。大臣を利用すればかなりすんなり魔族領に逃げ込めそうだ。
生存の道が見えてきた!
そう思った時だった。
「あんらーっ? 大臣ちゃんだめじゃなーい、その人質にオイタしたらー」
何とオカマ勇者のマリーゴールド(以下略)が馬車の荷台に入ってきたのである。
大臣が今まさに俺の縄をほどこうとした時だったのに、あと少しで俺の唇が大臣の毛むくじゃらの汚らしい腕に触れられるというタイミングだったのにっ!
「勇者殿、これはっ! いや、私はただ王都に着く前に彼女を尋問しておこうと思っただけで……」
勇者の出現に大臣はシラフになってしまった。
強烈がオカマ姿に魅了も誘惑もすっ飛んだらしい。
「大臣ちゃん、いい子ねぇ。人質の尋問はアタシの仕事だって、言ってなかった? アタシのスキルでイチコロよっ」
「そっそうでしたね、尋問は勇者様のお役目でした。ハッハハハハ、いやはやすっかり忘れておりました。そ、それでは私は席を外します!」
「ええ、そうして頂戴」
何ということでしょう。
あと少しで大臣を恋奴隷にできるというタイミングだったのに。スケベな大臣がログアウト表示して、ヤバイオカマ勇者マリーゴールド(以下略)がログインしてしまった。
尋問、何をされるのか分からない。不安しかない。尋問系のスキル? どういうものだろうか。とにかく大ピンチだ!
こっこれはどうするべきなのか……。
マリーゴールドはオカマと言えども一応性別は男性だから……俺のスキルの範疇なのだろうか? それとも性的嗜好とか、彼? 彼女? 自身が思っている性別が適応されるのか分からない。
ここは一旦ダメもとでスキルを使うしかない。
俺がとりあえずスキルを使ってみようと決心した時だった。
オカマ勇者が俺に意外なことを話しかけてきた。
「別に危害を加えたりしないわよ、本当にお話したいだけだから。同郷の仲間として――日本からこの世界に来てしまった仲間としてね」
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