53.勇者を生贄に勇者を召喚
タケルの話はいちいち芝居臭くて長ったらしかったから割愛してまとめると、ソウタは捨て駒の勇者だったという話だ。
奴は話が長い、くどい、分かりにくい。
王家の秘術――というか国王のスキルで、異世界から勇者ソウタを召喚した。どうやら王家は代々そういう特殊スキルを継承しているらしい。
そして王は“生贄”というスキルも持っており、その勇者を生贄にすることで、更に強力な勇者を召喚したのだ。それがタケル、アヤカ、マリーゴールド(以下略)の3人。
「陛下はソウタが使えれば生贄にすることまでは考えていなかったようですが、彼は役立たずだった。そこで陛下は勇者パーティーを組み、旅をさせた。流石に勇者を国が殺しては外聞が悪すぎるので、勇者が旅の間に野垂れ死ぬようにと。エカテリーナ王女殿下をお目付け役にして」
堂々と言ってのけるタケルに、俺もギルドの面々も目が点状態だった。
いくら何でも外道すぎない? それを王国騎士団の面々も驚きもせずに聞いている。全員まるっとグルだったのか。
「想定外だったのは、王女殿下が悋気を起こして自爆して全員死んでしまったことですけど、まぁ彼女も爆弾にあれほどの威力があるとは思わなかったのでしょうね」
「自爆だと!? それじゃレイラはっ」
「そうですよ、レイラは犯人ではない。あえて犯人を上げるのであれば、王女殿下でしょうかね?」
それを聞いたヴィンセントやギルドのメンバーはわなわなと怒りで震えている。
俺も同様の思いだ。
「レイラという女については行方不明ですからね、逃げたのかもしれないし、オークに捕まって最終的に細切れにされたのかもしれないですし。まっ、私たちとしてはそんな女1人どうなってもいいですし、都合よく罪を被ってくれるバカな女がいて感謝すらしていますよ、アハハ!」
ムカつくー! 何だよアイツは! レイラを、俺をバカにしやがってっ。くそっ、ここから石でも投げれば当たるだろうか?
そう思って周囲にちょうどいい石がないかと見回していると、俺はヤバイ光景を目撃してしまった。
ちょうどヴィンセントやギルドのメンバーの死角になる位置から、10体ほどの死体が忍び寄っていたのである。
「なっ!? そうか、タケルの野郎がわざわざ長々と話してたのは、アヤカのゾンビどもを配置するためだったのかっ」
どうする!? このままでは、ヴィンセントたちは死角からゾンビに襲われることになる。このまま見ているわけにはいかない!
「くそっ、こうなったら俺が皆に教えるしかない!」
俺は意を決して隠れていた物陰から飛び出し、大声でヴィンセントたちに向かって叫んだ。
「皆っ! 後ろ、後ろっ、そこまでゾンビが迫ってきてるっ!!」
俺はそう言ってヴィンセントたちのいるほうに走りながら、死角から忍び寄っていたゾンビたちを指さす。
「レイラっ!?」
「レイラちゃんだ!!」
「うあーっ!! こっちからゾンビが迫ってきてるぞっ!!」
「こっちにもいやがる!!」
最初俺の姿を見て驚いた面々は、すぐに近くまで忍び寄っていたゾンビの存在に気が付き悲鳴を上げた。
「ちっ、気が付かれたか! 仕方ない、総攻撃を仕掛けるっ、行くぞ!」
タケルが忌々しそうに言い捨てて、総攻撃命令を出す声が聞こえた。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!
俺は猛ダッシュでファームに駆け込んで、社長に詰め寄った。
「社長っ、俺のワイバーンは無事っすか!?」
「ワイバーンは無事だが、いや、君誰っ!?」
社長は、レイラ状態の俺が誰だか分からず困惑の声を上げた。
「んなこたぁどうでもいいんだよっ! とにかくワイバーンに乗って皆逃げるんだっ!」
ワイバーンに乗って魔族領まで逃げるしかない。郊外の森にルーファスが購入済みのワイバーンを駐留させていると言っていたから、そこに行けばルーファスと合流できる可能性が高い。
もうそれしか手がなかった。
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