52.外道
メガホンを持ち包囲する勇者の集団に相対するヴィンセント。その両脇はロッズやグレイブなど、アガサギルドのメンバーで固められている。
「勇者様方! 何故このような非道の行いをするんだ!?」
拡声がかけられたマジックアイテムなのだろうか、メガホンからは大音量でヴィンセントの声が響いた。
「このファームでワイバーンの違法飼育と売買がおこなわれていたとしてもだ! 職員全員が関わっていたわけでもないだろうし、公正な裁判を受ける権利はあるはずっ! なのに何故このように一方的な虐殺をおこなおうとするんだ!?」
ヴィンセントは至極真っ当なことを主張している。
彼の言う通り、ワイバーンの違法飼育に関わっていたのは社長と俺の2人だけ。他の職員はいきなりこんなことになって青天の霹靂もいいところだ。
一方勇者方からは、タケルがメガホンを持って反論を始めた。
「アガサギルドの皆さん、ワイバーンの違法飼育は問答無用で死刑です」
「そんなことは分かっている! だが何故関係のない職員まで巻き添えにしようとするのかと聞いているんだ!」
「違法売買されたワイバーンは、魔族たちの戦力として流れたのですよ? 敵に売ったワイバーンで、どれだけの人間が死ぬと思っているのですか? それを考えれば、ファーム全体の連帯責任として、全員の命で償うしかないと思いますよ?」
んな横暴な。いくら何でも暴論すぎる。
そんな理由でポイポイ虐殺されたらたまったもんじゃない。
あまりにも命を軽視したタケルの主張には賛同しかねる。
「お前はそれでも勇者か!? 俺はお前の前任の勇者だったソウタを知っているが、アイツは根は真面目な奴だったぞ。お前とはエライ違いだ!」
「前任? あぁ、アイツですか。フフフ、アーハハハハッ!」
「っ!?」
突然大笑いし始めたタケル。アヤカもニヤニヤ笑っている。それだけじゃない、王国騎士団からも嘲笑が響いていた。
「ソウタ、あの臆病者のことですか」
「何だと!?」
「だってそうでしょう? 戦う力はあったのに、戦うのが怖くて城に引きこもって宴会三昧。ようやくやる気になったかと思えば、魔族の女一人に騙されて消滅! 滑稽にもほどがある!」
そう言うと、勇者の陣からはドッと笑い声が起きた。勇者だけではなく、王国騎士団の面々も同様だった。
アヤカに操られている死体たちも、笑うかのように体を揺らしている。気色悪い。
「お前っ! ソウタは臆病者なんかじゃなかった、誰かを傷つけることを嫌がっていただけだ! それにレイラがソウタ達をハメたなんて信じられないっ!」
「同じことでしょう! 結局ソウタはまともに戦わずに消滅した。何の成果も残さなかったのだから、ただの臆病者でしょう!」
いくら何でも、死んだソウタのことを悪く言うのは酷すぎるだろ。
本当にこいつらはソウタと同じ世界の人間なのか? しかも勇者として呼ばれるだけの素養の持ち主なのか?
俺から見たら勇者というよりは、異世界を追放された犯罪者のように見えるぞ。外道だ、外道。
「そうだ、大臣」
「何ですかな、タケル様」
タケルは何かを思い立ったように、ちびはげデブの大臣に話しかけた。
「もう彼らはまとめて処分してしまいましょう。アヤカのゾンビたちを使えば、楽に皆殺しにできるでしょう」
「まぁ仕方ないですね。元Sランクハンター『大盾のヴィンセント』、正義感溢れる扱いにくい人物ですから、この場でギルドメンバーごと始末してしまってください」
おいおい! 何だよそれは。まるで人をモノのように簡単に処分とか、こいつらの倫理観はどうなってるんだ?
「ついでに彼らに冥土の土産に、“本当のこと”を教えてあげようかとも思うんですが」
「うーん、まぁいいでしょう。一般人は近づけていないですし」
何だ? 本当のことって?
勇者パーティー全滅がレイラのせいじゃないと暴露でもしてくれるのだろうか。
しかしタケルの口から出た言葉は、俺の予想とは違いかなりヤバいものだった。
「貴方の言う通り、前勇者パーティーが壊滅したのはレイラのせいではありません。元々勇者ソウタには生贄になって退場したいただく予定だったんです」
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