5.お勉強
来る日も来る日も、俺は女装テクニックを磨くのに余念がなかった。
化粧――自分でやってみると、思った以上に難しい。
「くそう! 店員さんはちゃっちゃと上手に眉を描いていたのに、何で左右非対称にしか描けないんだ!?」
眉は左右対称にならないし、アイラインははみ出すし、にじむ。口紅も同様。ファンデーションをべた塗りして真っ白になったり、チークが濃すぎてピエロ状態になったり。
「現代だと確か眉毛の型シートみたいなのがあった気がするっ、何故この世界にはそれがないんだ!?」
俺は何度書いても非対称にしかならない眉毛と格闘した。
自分でやってみて本当に良く分かる。世の女性方が外出するまでにメチャクチャ時間がかかるわけが。化粧は時間がかかるし、本当に手間だ。だとしても手は抜けない。ノーメイクなんてもってのほかだ。
メイクはひたすら練習あるのみだった。
◆◇◆
14歳になった時、孤児院からスティーブが旅立った。
「じゃーなレイちゃん、もう二度と会うこともねーな! 俺とお前とじゃ住む世界が違うんだよ! はははっ」
奴が孤児院を旅立つ前に、わざわざ俺の部屋に来てそんなことを言ってきた。
俺は苦笑いを浮かべた。
住む世界が違う――確かにその通りだ。お前がハンターとして汗水流している間に、俺は女装して男どもに貢がせた金品で豪勢に暮らすんだ!
俺を虐めていた中心人物や、その取り巻きが居なくなった。そのおかげで、俺は女装グッズを廃墟から孤児院に移すことが出来た。それまではわざわざ廃墟まで行って練習しなければならなかったが、今は自分の部屋で好きなだけ練習ができる。
新しくバイトも始めた。
裏路地にある、ちょっと怪しげな居酒屋だ。そこで俺はホールスタッフとして働いている。女装はしていない。普通の少年として雇ってもらっている。
バイトの目的は二つ。
一つは普通に資金調達のため。化粧品代と洋服代を稼ぐ必要があった。化粧品は当然なくなっていくから、買い足さなければいけなかった。
それに14歳になって、流石の俺も身長が伸びてきた。大男になるような伸び方ではなく、線が細いまま現在166cm。スリムでスタイルの良い女性の体形に近い。そんなものだから去年買ったワンピースが小さくなってしまった。
前世の俺は同じ年齢で175cmはあったというのに、本当に前世とはエライ違いだ。
もう一つの目的は、女性の所作を学びたかったから。
実はこの居酒屋、二階は簡易宿泊施設になっている。一階にはそういうお仕事のお姉さまたちが客を物色している。
彼女たちがいかにして男を篭絡するのか、そのテクニックを盗みたかった。
「レイ君、何度も言うけれど彼女たちに見とれて仕事をおろそかにしないように」
「すみません、店長」
「まぁ見とれるのも分かるんだけどねぇ」
お姉さまたちに見とれてちょっとおさぼり気味の俺は、こうやってたまに店長にお小言を喰らう。まぁ店長もやっすい賃金で雇った労働力である俺を、首にするようなことはない。
お互いにwin-winな関係と言うわけだ。
それにしたってお姉さま方は凄い。
所作はセクシーの一言。一つ一つが洗練されていて、男の視線を釘付けにするポイントをよく熟知している。どうすれば自分が最高に輝いて見えるのか、そう言う点も完璧だ。
また、男の心が読めるようなスキルでもあるんじゃないかってくらい、心に入っていく話力がある。
多分彼女たちは、銀座とか六本木とかのクラブにいるお姉さま方と同じようなスキルを持っているのだと思う。
とにかく俺はここで働いて金を溜めながら、”イイ女”の勉強をしている。
収穫はいくつもあるが分かったことは、男は誰だってスケベだ。下心がない男なんてホモだけだ。すぐに肉体関係を欲しがる男もいれば、女との駆け引きを楽しみたい男もいる。
そして皆、称賛されることが大好きだ。「すごいですね、ご立派ですね」そんな称賛を男はことさらに喜ぶ傾向がある。
「成程。男は称賛、女は共感されると喜ぶんだな」
◆◇◆
そして15歳になった時、俺はいよいよ本格的に女装しての実践訓練を行うことにした。
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