表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/80

46.マッチポンプ

 フードを被っているけれど、アレの中身は昨日見たスティーブの死体だ。直感でわかる。アレは間違いなくスティーブだ。


「なっ! どういうことだよ、勇者がスティーブを?」


 俺は思わずテラスから身を乗り出す。

 フードの人物、1人はスティーブだ。だが残りの2人は?


 その時大臣が再び口を開いた。


「皆のもの! この3人が誰か分かる者はおるまい。この3人は昨年非業の死を遂げた、前勇者のソウタ様とパーティーを組んでいた“剣士スティーブ”、“治癒師マリアンヌ”、そして我が国の王女であらせられた“エカテリーナ様”である!」


 群衆は大きくどよめいた。もちろん俺も……いや少し予想は出来ていた。

 1人がスティーブなら、残りの女2人はあの忌々しいエカテリーナとマリアンヌに決まってる。


「勇者アヤカ様はネクロマンサーという非常にレアなスキルの持ち主である! 非業の死を遂げた3人の無念を晴らすべく、女神さまが我々に遣わしてくださった聖女であらせられるっ!」

「みんな、よろしくぅ! この3人は結構グロい感じになっちゃってるからー、フードはぁ取れないけどー、ちゃんと無念? みたいなのは私がはらすからぁ!」


 多少間延びした頭の悪そうな話し方をする女だ。

 この女がスキルでスティーブの死体を操っているのは間違いない。つまり昨日カフェを襲撃したのは――。


「私は勇者のタケルと言います」


 タケルという勇者は、どこかスティーブを思わせるような男だった。

 タケルはどこからどう見ても日本人で、西洋顔のスティーブとは違うけれど、何となく根本的な部分は同じような気がしてならなかった。

 何というか本性を隠したような、外ずらだけ取り繕ったような。スティーブよりももっともっと嫌な感じがした。

 それとタケルの顔は、どこかで見たような気がしてならない。どこで見たのかさっぱり思い出せないが、絶対に見たことがあると思った。いつだろうか……凄く昔の気がする。


「お集りのベナンの方々、昨日は本当に悲しい出来事がありました。魔族が人間を襲い、44人もの犠牲者が出て、今も多くの人が怪我に苦しんでいると聞きました。私はっ魔族が憎いっ! かつて我々の前に召喚された勇者ソウタもレイラという魔族の卑劣な罠で、肉体すら残らず消滅させられたと聞きました。私は皆の仇を取りたいっ! どうか皆さんの支援をお願いいたします!!」


 タケルは大きな身振り手振りで、まるで演劇でもしているかのように群衆を煽った。

 群衆からは「魔族を許すな」とか「魔族を殺せー」とかそんな声が聞こえてくる。


「勇者様方はしばらくこのベナンに滞在する! 大惨事を引き起こした魔族を探し、またその支援者も一人残らず探し出す所存である! また、寄付金や魔族と戦うための兵の募集も行っているから、是非とも協力を願いたい!」


 大臣はそう言って、勇者たちの演説会は終了した。



 俺は苦々しい思いで、その光景を見ていた。

 マッチポンプ――そんな言葉が脳裏をよぎった。要は自作自演だ。

 魔王軍と戦うための気運を高めるために、犠牲を出した。吐き気を催す邪悪。


「あのオカマはどうだか知らないけど、タケルとアヤカって勇者はとんでもないクズだ。アヤカがネクロマンサースキルで、スティーブの死体を操ってカフェを爆発。タケルもそれを分かっていて、ああやって群衆の魔族に対するヘイトを煽ってやがるんだ」


 そして勇者にそうするように主導したのは、国だ。大臣であり、国王……。

 そうでなかったら王女であるエカテリーナの死体を操るなんて外道を許すとは思えない。


「大体あの王は元からクズだったな」


 思いかえせば王はクズだった。

 戦闘能力のないレイラを勇者パーティーに入れたのだって、戦いを渋るソウタのやる気を出させるためだったし。

 女1人どうなろうと王は構わなかったんだ。


「何ならレイラが死んで、ソウタが魔族に対して復讐心を持って戦ってくれればとか、そういう思惑があったんだろう。……そうじゃなかったら簡易燻製セットなんて役立たずのマジックアイテムなんて寄こさないだろ」


 未だに役立たずのマジックアイテムを寄こした王には恨みを抱いている。

 分かるか? オークに犯されかかって、藁にも縋る思いでマジックアイテムを漁って簡易燻製セットが出てきた気持ちを。


「胸くそわりぃ……」


 そう呟いた時、オカマがスッとこちらを向いた。

 俺は驚いてテラスの陰に身を隠した。恐る恐るオカマを覗き見ると、彼? 彼女? はもう俺の方を見ていなかった。

 気のせいだったのだろうか……。

ブックマークや評価、本当に励みになります! レビューもとても欲しいので、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ