45.強烈な個性
バーのある2階のテラスから通りを見下ろして、モヒートを飲んでいた。
モヒートの爽やかなミントの香りとライムの酸味が、陰鬱で沈んだ気分を少し良くしてくれる。
昨日大爆発したカフェが良く見える。カフェの入口付近は全壊し、俺が座っていた席の周辺も壁が崩れていた。
本当に良く無傷で助かったと思う。ルーファスと一緒にいたアリアという女の子が強力なシールドスキル持ちでなかったら、俺も火達磨になっていただろう。
そう考えると本当に背筋が凍る思いだった。
「まだ勇者たちの姿はなしか」
カフェの前には献花台が設けられており、少し離れた場所にはステージのような段が組み上がっている。
「ステージにでも上がって演説でもすんのかねぇ……」
30分後、俺の予想通り勇者様がたの演説が始まった。
まず壇上に出てきたのは――。
「皆の者! 静まれ! 私はこのギベオン王国の大臣である!」
王都のギルド視察の時も勇者パーティーを引き連れていた、小太りの如何にも小悪党といった感じの大臣が話しを始めた。
「本日勇者様方がこのベナンの町に到着した! 昨日ここで痛ましい事件が起こり、勇者様方は心を痛めている! 今日は勇者様方が犠牲になった44人の尊い命を悼むとともに、憎き魔族と戦う決意表明をされる! それでは紹介する!」
大臣がそう言うと、3人の人物が姿を現した。
壇上に上がったのは24歳くらいの男と18歳くらいの女、それから――40歳くらいの強烈なオカマだった。
「ブーッ! ゲホゲホッ! 何だありゃ!?」
俺は飲んでいたモヒートを盛大に吹き出した。
集まっていた群衆もざわついている。
一方のオカマはどこ吹く風で、むしろ注目されていることを喜び、もっと「アタシを見て!」とばかりにポーズを決めて腰をくねらせている。
「や、ヤバイ……今度の勇者、ヤバすぎる」
始めに出てきた2人はそれなりに普通だ。
好青年風の男と、キャピっとした感があるギャル風の女。女と男は付き合っているのか、腕を絡ませてラブラブな雰囲気を醸し出している。
普段の俺なら、浮ついてんじゃねーよリア充めと思っただろうが、あまりにもオカマの方がインパクト強くてヤバかった。
「異世界から来られた勇者、タケル様、アヤカ様。それから……」
大臣は2人を紹介すると、最後のオカマの紹介に一旦言葉を切った。そして何やら懐から紙を取り出して読み上げ始めた。
「最後に本名はタツノスケ様……なのだが、本人の希望で“マリーゴールド・ハート・ピンキー・クローバー・エレガント・ダイヤモンド様”と呼んでいただきたいということだ」
「みんなー! アタシ、二丁目から来たマリーゴールド・ハート・ピンキー・クローバー・エレガント・ダイヤモンドよぉ! 気軽にマリーちゃんって呼んでねー!!」
そう野太い声で叫ぶ。
群衆は反応に困り、まばらに拍手が起こる。
「やべーよ、やべーよ、異世界から召喚した勇者って、ソウタやあの2人は良いにしても! 何だよ、あのオカマは!? もうちょっと女の美を追求しろよ!?」
アレは生前噂に聞いた二丁目のオカマというものに違いない。しかし女装のクオリティが低すぎる。
女装が趣味の俺から言わせてもらえば、マリーちゃんとやらは男であることを隠すつもりはゼロだ。女になり切る俺の女装のスタンスとはあまりにもかけ離れている。
マリーちゃんは、男の自分はそのままで、ただド派手なブロンドのカツラや、やりたいように塗りたくったトンでも化粧。男としての筋肉やスネ毛を隠そうともしない。衣装のド派手なドレスもサイズが合っていないのか、厚い胸板ではちきれそうになっている。
強烈な個性だった。
「えーまぁ、そう言うわけだ。それからアヤカ様、例の3人の紹介もお願いします」
大臣はアヤカに向かってそう言うと、アヤカという勇者はステージの裏に向かって声をかけた。
「あんたたち、出てきてー!」
その声と共に――フードを頭からすっぽりとかぶった3人の人物が、よろよろとステージに上がる。
背丈からして男が1人と、女が2人か。
「っ!? あれはっ」
俺は驚愕した。
フードで顔は見えないが間違いない、フードの男は――。
「スティーブ……」
勇者アヤカが呼んだのは、まさに昨日カフェを焼き払った張本人スティーブの死体だったのである。
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