4.ナンパ
化粧品店を出た後、俺はアクセサリー店や小物店などを巡り、年頃の女の子が持っているであろうアイテムを手に入れていった。
「もう昼すぎか、何か食べたいな」
市場の付近を歩いていると、立ち並ぶ屋台からとてもいい匂いがしてきた。
こうして屋台の側を歩くと、つい前世の夏祭りの屋台とかを思い出してしまう。ちょっとセンチメンタルな気持ちになりながら、俺は財布の中身を見た。
「んーもう財布にはこれしか入ってないのか。色々買いすぎたかな」
財布の残金は1万ベルを切っていた。
孤児院に帰れば俺の分の昼食は用意されている。ここで無駄なお金を使うのも、ちょっとどうかと思った。
「ちょっと一口くらい、食べてから帰ろう。串焼きとかなら500ベルもしないだろうし」
そう思って俺は屋台を散策し始めた。――しかし。
「よう、お嬢ちゃん」
「こっちきて一緒に食わねーか?」
屋台の近くにたむろしていたガラが悪い男たちに絡まれてしまった。
こんなことは初めてだ。
「あの……すみません、急いでいるので」
そう言って男たちの脇をすり抜けようとしたが、腕を強く掴まれてしまった。
「いいじゃん、おごってやるからさぁ」
「は、離してください」
男たちはイヤらしい笑みを浮かべ、俺を取り囲む。
尻を撫でられた。ぞわっと嫌悪感が走る。
「や、止めてください!」
そう言って腕を振りほどこうとするがびくともしない。前世の俺なら振りほどけたであろう強さだったが、今のなよなよしたレイの身体では振りほどけない。
いっそのこと男だとばらしてしまおうかと思った。
そうだ、スキル! 相手は俺を女だと勘違いしている。この状態ならスキルもかなり効くはずだ。
そう考えて俺は、スキル“魅了”を発動した。ただニッコリとほほ笑んだだけだが。そして続けざまにスキル“誘惑”を発動し、男たちにこう言った。
「お願い、は・な・し・て?」
そう小悪魔的に言ってやれば、男たちは骨抜きになったように素直に手を離してくれた。
頭の中に誰かの声が響く。
『スキル”魅了”が100%発動しました』
おお、丁寧にもそんなアナウンスが流れるのかと感激した。
これならいけると思い、続いてスキル“誘惑”を発動させてみた。
「私、お腹すいちゃったの。串焼きとか食べたいなぁ?」
またもや頭の中に誰かの声が響く。
『スキル”誘惑”が80%発動しました』
甘えた声でそう言うと、男たちは財布の中身をひっくり返して大量の串焼きを買ってくれた。
これは凄い……貢物の串焼きを受け取りながら、俺はほくそ笑んだ。
◆◇◆
ガラが悪い男たちと穏便にお別れし、巻き上げた串焼きを食べながら俺は廃墟に向かった。
流石にこのままでは孤児院に帰れない。
ワンピースを脱いで購入してきたアイテムと共に隠し、元のぼろい服に着替える。
化粧ももったいなかったが、化粧落としでメイクオフ。
髪もちょっとぼさぼさにして、いつもの俺の出来上がり。
「ふぅー、何だかんだ言ってこのスキルヤバすぎ。一時は絶望したけど、女装すれば万事解決ってね!」
まだスキルレベルが低いから、まともな倫理観を持った男や、意志が強い男を落とすのは無理だろう。
今日は運が良かった。相手が意志が弱いヤツで……。
「俺を見る男たちの視線は鬱陶しかったけれど、女装って気持ちがいい。マジはまるわ」
あまりに美しい自分の女装姿。もし前世の俺がこうだったら、間違いなくSNSにアップしてる。
男からの色を持った視線、女からの嫉妬交じりの視線。どれもこれもが癖になるものだった。
美しいって素晴らしい! 女装って最高!!
「これから美容に力を入れて、化粧も上手くできるようになって、このスキルとの親和性を上げよう。孤児院を出たら、どこか遠い土地に行って女として生きよう……男たちに貢がせて!」
俺は串焼きの最後の一本を食べ終えて、孤児院へ帰っていった。
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