38.違法飼育
昨日ルーファスについて詮索しないとか、心に誓ったばかりなのに。ムクムクッとうずく好奇心を抑えられず、ルーファス本人を詮索するのではなく、社長にちょっと聞いてみる方向性にしてみたのである。
「ルーファスさんか? あの人はイイ客だよ。どっかの国の貴族様か何かなのかな、色々うちで飼って行って自国で売ってるって言ってたぜ」
「あー、それじゃ仲買人みたいなもんなんですね」
「そうだな。あの人は上客だ。沢山色々飼って行ってくれる。くれぐれも機嫌を損ねないようにな、あの人お前のことを気に入ってるようだし」
「……はははっ、そうですかね」
俺は乾いた笑い声を上げた。
「そうだ、レイ。お前、働き始めてどれくらいになる?」
「もう6ヶ月経ちましたね」
「そうか。いやなに、お前は真面目で腕が良く、お客様方がたからも評判が良い。信用が出来る。だからお前に新しい仕事を任せようと思ってな」
「新しい仕事ですか?」
おかしい。俺はこの6ヶ月でこのファームの仕事は殆ど覚えたし、関わっていない仕事についても何をやっているのかくらいは把握している。
なのに新しい仕事?
厄介ごとの気配しかしない。
「まぁ、緊張することはない。“秘密の仕事”ではあるが、やることは今までと変わらない。お客様もルーファスさんだしな」
ルーファスがらみの仕事か……だったらなおのこと関わるべきではないと思う。しかも秘密の仕事とか、あからさまにあやしい。
しかし断れないのが従業員の宿命だ。社長は俺に仕事を任せる、それは既に決定事項であり、俺に断るという選択肢はない。
「わかりました。えーっと、どのような仕事でしょうか?」
「まぁ、とりあえず一緒に来い」
俺は社長に促されるままに、あとをカルガモの雛のようについていくしかなかった。
◆◇◆
「すっ凄い……」
「圧巻だろ?」
俺が社長に連れてこられたのは、ファームの地下。秘密の地下施設だった。
しかも単なる地下ではない。
地下なのに、そこには大自然が広がっていた。空が見える、太陽も、雲がある。風が吹いている。
まるでここは外そのものだった。
「此処は俺のスキルで作ったんだ。『採掘(高)・幻影(高)・植物育成(中)』のスキル、これが俺の自慢の箱庭さ」
地下に作られた広大な空間。500m四方はあろうかという巨大さ。
恐らく社長が採掘スキルで、これだけの大空間を掘りあげたのだろう。空や太陽とかは多分幻影スキルによるもの。植えられた植物とかは本物なのだろう。
それより何より俺の目を引いたのは――。
「ワイバーンじゃないですか……」
そこには数十匹のワイバーンが放し飼いにされていた。よくゲームなんかに出てくる飛竜だ。
「というわけで、お前にはこのワイバーンたちの調教・調整を頼む。売り先はルーファスさんだ」
「……あの社長、俺の記憶によればワイバーンの飼育は王国の管理下施設でのみ可能だったと思うんですが」
ワイバーンそのものは危険な生物ではない。ドラゴンの一種だけあって、プライドが高かったり多少気性が荒かったりはするが、火を吐いたり毒を撒き散らしたりはしない。かぎ爪や尾による攻撃は注意が必要だが、慣れれば最高の相棒になりうる種だ。
このワイバーンの飼育に関しては、国が物凄く厳しく管理をしている。
理由は軍事的に使用可能な種であるからだ。
竜騎士団とかが騎乗する飛竜は全てワイバーン。魔王軍もワイバーンを軍事利用しているから、絶対ワイバーンを勝手に売り買いされるわけにはいかない。
違法飼育は問答無用で死刑。
「レイ、この秘密を知ってしまった以上はお前も俺と共犯だ。俺とルーファスさん、そしてお前――一蓮托生さ!」
かるーく笑って誤魔化す社長に殺意がわく。とんでもないことに巻き込んでくれたと。
そしてもう1人恨まずにはいられない人物がいる。
ヴィンセント! このことは彼も知らなかったとは思うのだけれど、とんでもない職場を紹介してくれたもんだ!!
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