37.好奇心は猫を
「アガサの町で俺がイケメン死すべしとか思って、ルーファスにスキルを使ったのに脳内アナウンスが流れなかった……いったいどういうことなんだ?」
俺はルーファスを避けるべく、特に急ぎでもない雑務で残業をしてようやく帰宅。ベッドに倒れ込んで悩んでいた。
可能性としては4つ。
1つ目はルーファスがスキルを打ち消すスキルや、そういうマジックアイテムを有していること。しかしそう言うスキルもマジックアイテムも物凄くレア。そんなに偶然に遭遇するもんじゃない。
2つ目は、俺の方に何かしら問題があって、スキルが上手く発動しなかった。もしくは俺が脳内アナウンスを聞きもらしたとか……。しかし今までレイラとして散々スキルを使ってきたのに、その可能性も低い気がする。
3つ目は、スキルの対象に裏設定があるとか。俺のスキルは男性にしか効かないが、例えば心は女性とか恋愛対象が同性とか、そういう人に対してはどう作用するのか分からない。レイラになってスキルを試すことが出来ないため、検証不可状態だが……。
4つ目は――。
「流石にルーファスが女ってことはないだろうしなぁ」
ルーファス女説。
エカテリーナとマリアンヌに騙されてオークの巣に攫われた際、俺のスキルが使用対象外である“女”にかけると『脳内アナウンスが流れない』ということが判明した。
だからこの説もありと言えばありなのだが……。
何処からどう見てもルーファスはイケメンの男だ。しかも群を抜いたイケメン。俺もうっかりコロッといってしまいそうなほど、綺麗な男だった。
この男は群を抜いていた。
プラチナブロンドに、ちょっと浅黒の肌。細身だがしっかり筋肉がついている。年の頃は19か20歳くらいだが、どこぞの王かと見紛うばかりの威厳のようなものを感じさせる。
「あれで女はないよなー……ないよな?」
俺はルーファス女説を笑って見過ごせないのには理由があった。
事実、レイラという女にしか見えない男の当事者であるからだ。しかも前世では某歌劇団には、男よりよほど男らしいイケメン男役がいたことだし。
女らしい男、男らしい女、可能性としては十分ある。
しかし俺の場合化粧でどうにかして女装してレイラを作っているが、彼は別に化粧とかそういう誤魔化しをしているようには見えなかった。完全に地なのだ。
「ギルドの受付嬢でバイトしてた時に、山男みたいな筋骨隆々の女は沢山見たけれど、それでもやっぱりどこか女だった。……男装の麗人って線は、どうなんだろうな」
正直言って俺は好奇心が強いほうで、色々調べたりするのは好きだ。だからルーファスが何者なのか、どういう意図で俺に絡んでくるのか、そう言うことが気になって仕方がない。
しかしだ。
「俺は今まで散々好奇心故に墓穴を掘ってきた。勇者を見たくて王都に言った挙句、勇者パーティーを全滅させてしまったし、アガサギルドの皆が何でこのベナンにいるのか気になった結果ロッズとグレイブに俺の尻が狙われた。もう無茶はしない!」
これまでの悲劇は、割と俺自身の好奇心が引き金になっている。それを心に刻んで、俺は清く正しく美しく慎ましく――司祭様の予言にあった“本当に必要としてくれる運命の人”が現れるのを待つのだ。
「下手にルーファスに近づくべきじゃない。向こうがどういうつもりで俺と交流を持とうとしているのか分からん。俺の尻狙いか? どっちにしても過度に接触して、俺=レイラとか気が付かれても困る」
ルーファスはほんのわずかな時間とはいえレイラを知っている。不安要素は遠ざけるべきだ。
ルーファスには関わらない、好奇心に負けない。
俺はそう心に誓ったのだ。
◆◇◆
「社長、ルーファスさんってどういう人ですか?」
翌日俺は社長にそんなことを聞いていた。自制心がないにも程がある。
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