33.検査
司祭様の予言で行くように言われた“ベナン”という町は、魔族との国境にかなり近い位置にある大きな町だった。
町へ入るための検査だろうか? 100人以上はいるように見える行列ができている。
「すごい列だな」
俺は仕方なしに列に並ぶことにした。
列に並んでいると、前方のグループの会話が聞こえてきた。
「相変わらずの混雑だな」
「いつもより進み遅くないか?」
「検査を強化してるらしいぜ、ほら勇者様方が殺された件で」
「魔族の女、まだ捕まってないのかよ。もう3ヶ月にもなるってのに」
どうやら“レイラ”のせいで検査が強化されているらしい。
ベナンは魔族領に近い町だからレイラが立ち寄る可能性が高いと判断されての、検査体制の強化だろう。
どのみち俺がレイラとばれることはない。
レイとしての市民証もあるし、今の俺はいいところのお坊ちゃん風の青年だ。怪しまれることもないだろう。
「次の者、来なさい!」
「はい」
俺が呼ばれた。
俺を呼んだ男を見て、俺は顔にこそ出さなかったものの内心動揺した。
グレイブだ! アガサギルドで俺が手のひらでコロコロ転がしていた!
しかも周囲を見渡すと、グレイブの他にもロッズなどのアガサギルドのメンバーがいる。奥の方には――ヴィンセントまで!
「身分証を出して」
俺は言われるがままレイの身分証を出す。
「ハーベルの町出身のレイ、男、16歳か。随分遠いところから来たようだが、ベナンの町へ来た目的は何だ?」
「職探しです。ベナンの町は栄えていると聞いたので」
「成程。じゃあ持ち物の検査をするから出しなさい」
「はい」
俺はリュックの中身を検査台にすべて出した。
「おい、これは何だ? 化粧道具? なんで男のお前がこんなものを持っていやがる。しかも凄い金額を持っていやがる……あやしいぞ」
突っ込まれたのは、女装グッズの化粧道具と、オークの巣で拝借した貴金属を換金して得た金。持ち歩くにはあまりに多額。だって家買えるほどの金額だし。
まぁもちろんこんなことを突っ込まれるのは想定内で、問答の用意は出来ている。
「この化粧品は俺の仕事道具です。俺のスキルは“化粧”、“ヘアアレンジ”、“多言語翻訳”。お金は今まで俺が必死で稼いだ全財産です。金額がヤバくなってきたので、そろそろどこかの町に家を買って定住しようと思っていたところです」
世の中には他人のスキルを視ることが出来るスキル持ちも存在するが、そんなものは超レアスキルである。なのでスキルの申告は常に自己申告。
そう突拍子もないスキルを申告しなければ疑われることはない。そうやって今までの町の検査も突破してきた。
たまに「実際にやってみろ」と言われることもあったが、化粧もヘアアレンジも女装テクニックで上達したからスキルだと言い張っても疑われなかった。多言語翻訳は、翻訳の指輪のおかげで問題ない。犬猫、モンスターどんとこいだ。
「そうか、疑って済まなかったな」
「いいえ、それにしても厳重な警戒ですね」
「まあな、ここは魔族領にも近いことだし」
「……例の勇者様殺しの魔族の件ですか?」
俺はあえてこの話をグレイブにふってみた。なんでここにアガサギルドのメンバーがいるのか、疑問に思ったからである。
「まあな、こんなことを言っては何なんだが、俺たちは彼女が魔族だったとか勇者様方を殺したとか……どうしてもそう言う風には思えないんだ」
「へぇー……」
「もし彼女が本当に魔族だったなら、多分魔族領へ抜けるためにこの町に来ると思った。だから俺たちはここで検査の役目を引き受けてるってわけよ」
「そうなんですね、お疲れ様です」
司祭様が言っていた「貴方を本当に必要としてくれる運命の人が迎えに来てくれるでしょう」という予言、あれはまさかアガサギルドのメンバーのことを指していたのではなかろうか? 恋愛的な意味合いじゃなくて。
どちらにせよ、判断をするにはまだ早い。
とりあえず俺は司祭様の予言通り、ベナンの町で仕事を探すべきだ。それからゆっくり“運命の人”とやらについて考えればいいだろう。
俺はそう考えて、グレイブから町に入る許可証を受け取る。そしてさっさとこの場をあとにしようとした。
そんな時、ロッズがこちらにフラフラっと寄ってきた。
「おい、どうしたよロッズ? お前の持ち場は向こうだろ」
グレイブがロッズに声をかけると、ロッズは鼻をクンクンさせながらこう言った。
「レイラちゃんの匂いがするっ!」
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