32.キエアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
ちょっとだけすっきりして、俺は女神像の前から離れようとした。
その時、この教会の司祭様と思しき老年の男性が礼拝堂に入ってきた。
「おや、珍しい。人がくるなんて。女神さまにお祈りですか?」
「はい、ちょっと人生に行き詰っちゃって」
「少しはすっきりされましたかな?」
「えぇ、それなりには」
他愛のない会話。
それでもずっと気が張り詰めていた俺にとっては、しばらくぶりの“レイ”としての会話が新鮮だった。
「あの、俺今旅をしてるんですが、この先お勧めの町とかありますか?」
「そうですね……」
司祭様は俺をしげしげと眺めてきた。
何だろうか?
「ジロジロと見てしまい申し訳ありません。実は私は予言のスキルがありましてね」
「え? 予言ですか!?」
そりゃかなりのレアスキルだ! そんなレアスキルの持ち主が何でこんなところで司祭なんかやってるんだろうか。
「貴方は礼儀正しく真面目の人のようだ。せっかく教会を訪れてくれたんです、貴方に1つ予言をして差し上げましょう」
「あっありがとうございます!」
これは僥倖だ。女神さまからの教会訪問ボーナスかもしれない! 教会に来てよかった!
これから先どうすればいいのかちょっとでもわかるとありがたい。
「それではまいります――キエアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「えっ!?」
司祭様は突然奇声を上げたかと思うと、身体を床に打ち付けるように五体投地し始めた。
何度も何度もそれを繰り返すので、額や膝からは流血している。
俺は突然狂いだした司祭様にびっくりした。
「あ、あの司祭様!?」
「いまっ! いいところですからっ! 声をかけないでっ!! キエアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
何がいいところなのか分からないが、これが司祭様の予言スタイルなんだろうと予想した。物凄く独特のスタイルだ。
何も流血してまで俺のために予言してくんなくてもいいのに! ありがたいけど、ありがたいけどさっ!!
たっぷり10分間、その奇怪な行動を繰り返した後にようやく司祭様は予言をしてくれた。
「予言が浮かびました」
「……は、はあ。それよりもお怪我は大丈夫ですか?」
「お気になさらずに。私は他に“痛覚麻痺”と“簡易治癒”のスキルがありますから」
「な、成程」
予言スキルのスタイルがああだからこその補助スキルなんだろうけれど、だったらああいう予言スタイルじゃなければいいのにと心底思う。女神さまがそういう予言スタイルのスキルを与えたのだからどうしようもないが……。
多分この司祭様も自分の予言スタイルに悩んだに違いない。だからレアスキルがありながらも、こんなところで司祭なんて金にならないことをやっているのかもしれない。
本当に人生色々なんだなと思う。
何か俺が悩んでいるのが馬鹿らしくなってくるほどの、衝撃的な予言スキル使用スタイルだった。
「さて、予言ですが――」
俺は居住まいを正して司祭様の言葉に聞き入る。
「ベナンという町に向かいなさい。そこで仕事を探しなさい。しばらくそこに滞在するのです。そうすれば、貴方を本当に必要としてくれる運命の人が迎えに来てくれるでしょう」
いい予言のように聞こえた。
お前の行く末は暗黒に溢れている、とか言われたらどうしようかと思った。
「ありがとうございます! ベナン……そこに行ってみます」
「ああ、そうしてみなさい。きっといいことがありますよ」
俺はルンルン気分で教会をあとにした。
だって行先も決まったし、やることも決まった。しかも“運命の人”だって! キャ! ついに俺にもそういう相手が来ちゃう? 来ちゃう?
しかし後に俺は、その運命の人らしき人物との邂逅に頭を悩ませることになるのである。
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