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31.センチメンタル

 久しぶりに俺は教会に足を運んだ。

 気持ちがセンチのまま抜け出せず、どうにもこうにも気持ちの整理がつかなかったからだ。


 教会は閑散としていた。

 普通の人はスキルを貰うとき以外はほぼ教会には来ない。スキルを下さる女神さまを信仰しつつも、崇拝までしている人は少ないからだ。

 この世に降臨するとか、信託を授けてくれるとか、そういう類の女神さまではない。ただ13歳になったらスキルをくれるだけの、システムの如き存在なのだ。


 しかし俺はそれでもすがらずにはいられなかった。

 俺は閑散とした礼拝堂で、1人女神像に祈りを捧げた。


「女神様、俺は今人生に迷っています。貴女様が俺に授けてくれたスキルは、本当にこのまま使い続けていいものなのでしょうか? 俺にそう言うスキルを授けてくださったのには、何か特別な意味があるんじゃないのでしょうか? 俺が異世界転生を果たしたのにだって意味が……」


 勇者パーティー全滅の引き金になったこともモヤモヤしているし、地味にオークキングのことも気にかかっていた。仲間を皆殺しにさせたこと、キングやクイーンの最期の涙。


「俺が得たスキルは誰かの心を弄ぶものです。最初はスケベ親父を篭絡して貢がせていい暮らしをしようとか、そう思っていました。でも最近良心が少し痛むんです。どうしたらいいでしょうか?」


 もし俺が根っからの悪人で、他人を利用するだけ利用して使えなくなったらポイするような心の持ち主だったら、きっと何の戸惑いもなくスキルを使えただろう。

 だが俺は……善人とまでは言わないけれど、それなりに良心はある。騙すとか、陥れるとか、そういうことを平気でするような人間ではない。レイラをオークに辱めさせて殺そうとしてきたエカテリーナやマリアンヌとは、俺は違う!


「……分かってるさ、答えがないことくらい」


 女神さまは答えない。ただ礼拝堂にはステンドグラスから色とりどりの彩色の雨が静かに降り注ぐだけ。


「初めから分かっていたんだ、答えなんてもらえないことくらい。俺のスキルだって、そもそも珍しいわけでも何でもないし。――ただ男の俺にこのスキルが与えられた意味みたいなもんがあるんじゃないか、ってどっかで期待してた。もし女神さまがこの力を使って魔族と戦えっていうのなら、俺はその通りにしたかもしれない」


 オークの巣を全滅させることができた、オークキングを“男殺し”で恋奴隷にして。そういう軍事転用可能なスキルだと分かってしまった。

 もしそう言う意図があって与えられたスキルだというのなら、勇者パーティーを全滅させてしまった責任をとって俺が頑張ることも考えた。

 しかし、そうではないというのなら俺は静かに暮らそうと思った。スキルは程々の使用に留めて。どっちにしても“レイラ”がお尋ね者になっている以上は、女装するわけにもいかないし。


「とにかく俺はエカテリーナやマリアンヌのようなクズじゃない、それだけは心の整理がついた。それで今は十分だ。このスキルとは程々に付き合っていくさ」


 自問自答、心のモヤモヤを晴らすにはそれが一番だ。今自分が何にモヤモヤしているのか? それをはっきりさせて答えを模索する。

 俺が引っかかっていたのは、俺自身がクズになってしまうんじゃないかという点だ。だが俺はクズじゃない、エカテリーナやマリアンヌのような良心を失ったクソとは違う!


 何かが解決したわけではない。でも今の俺にとってはそれで十分だった。

 少し心の整理がついた、それだけで教会に来た意味はあったというものだ。

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