表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/80

30.罪悪感

 当初の予定では、俺はレイラという身分を捨てて別の女として新たにギルドで身分証の発行をしてもらうはずだった。

 しかしお尋ね者となったレイラの人相書きが各ギルドに配布されたため、暫くは大人しくしているしかない。


 不幸中の幸いで、オークの巣でゲットした金品は豊富にある。

 その金で、ちょっといいところのお坊ちゃん風の服を買い、髪もオールバックにして首元でぎゅっと縛った。今の俺は、どこか小金持ちの女顔の青年の姿をしている。


「レイとしての市民証はあるから、町から町への移動や宿泊、就職には困ることはない。念のためレイの身分証も作っておいて本当に助かった」


 今俺がこうして何とか追跡されずに済んでいるのは、レイ(男)=レイラ(女装)と知る者がいないからだ。今まで厳重に隠しておいてよかったと、そう心から思う。


「俺のスキルを知っているのは、ハーベルの町の司祭様と、アガサギルド長のヴィンセントさんの二人だけ。俺のスキルそのものは珍しいもんじゃないから、司祭様がレイとレイラの関係に気が付くことは100%ない。……だが、趣味の女装が出来ないのは意外とストレスだな」


 暫く“レイラ”は封印だ。

 しかし趣味で女装していた部分も大きかったので、男の姿でいるしかないというのは少し窮屈さを感じてしまう。背に腹は代えられない、仕方がない。


 それに俺は自分自身について色々思うところがあり、この先の女装ライフやスキル使用についてどうしようかと迷っていた。



 ◆◇◆



 話は2週間前に遡る。


 勇者パーティーが壊滅して、俺は地図を拝借しようとパーティーの荷物を漁っていた。地図はいくつか持っていたので、1枚くらいなくなっても気づかれるようなことはない。

 スティーブの荷物を漁っていた時のことである。


「何だ? 本……いや日記帳か? スティーブのヤツ、日記なんて書いてたのか」


 俺は興味本位から日記を読んでみた。

 日記の日付は飛び飛びで、本当に思い出したら書くくらいの頻度だった。最初の日付は6年も前のものだったし。


「なになに、今日もレイに石をぶつけた? ちっ、俺のイジメの記録かよ」


 しかし読み進めると、俺はそれを読んだことを後悔した。


「ヤベー……、何だよこれ。俺のことが好きで虐めてた? は?」


 書かれていたのはスティーブの拗らせた恋話だった。

 孤児院で一緒だった俺のことを最初は女の子だと思った。しかし男だと知って苛立ちを覚えた。男でもいいのではと思う自分と、そんなのはおかしいという自分の心の葛藤から、レイを虐めてしまったと。ただそれを後悔しているわけではなく、俺が嫌がる表情が最高に興奮すると……。くそかな?

 孤児院を出てレイには2度と会うことが無いと思い、必死でハンターとして腕を磨いたこと。そしてアガサのギルドで、“レイに似た女”レイラを見つけて、これこそが運命だと思ったこと。レイラが女2人に嫌がらせされていて困っている表情が、苦痛の表情がたまらないと……。


「ないわー、マジ無理。男同士だとかそう言うことよりも、好きな子を虐めるってないわー。しかも俺はトラウマレベルだし。スティーブの野郎、性癖拗らせてんじゃねーよ、サディストがくそっ!」


 こういう好意はマジ勘弁だ。


 それに引き換え勇者ソウタは普通に良いヤツだった。最期まで愛しのレイラの身を案じてくれていた。

 ソウタにはスキルを使っていたわけではないが、女装した俺にマジ惚れしていた。……それが今となっては申し訳ないと強く思う。


 俺が勇者パーティーに入る原因になったのはソウタとスティーブの我儘だったのだが、そもそも俺が女装して“最高のレイラ”なんて生み出さなければ、こんなことにはならなかったかもしれない。

 勇者パーティーご一行様はこの先どんどん実力をつけて魔王軍と戦い、いつか魔王すら討ち果たしたのかもしれない。


 ……そう考えると、俺はとんでもないことをしてしまったのではないかという罪悪感に襲われたのである。

ブックマークや評価、本当に励みになります! レビューもとても欲しいので、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ