3.初めての化粧
スキル伝授の日から6か月。
俺は手伝いやらちょっとしたバイトやらで稼いだ金を持って、とある店の前まで来ていた。
化粧品店。
店内は女性たちでごった返している。
「大丈夫だ、絶対俺が男だなんてバレやしない」
そう言い聞かせて俺は入店した。
この日のために、古着屋でワンピースを購入した。
流石に孤児院からワンピースは着ていけないので、町はずれの廃墟で着替えた。普段女装に使う用品は、この廃墟に置いておくことにした。孤児院の俺の部屋だと、スティーブたちに発見される危険性があるからだ。
髪も自分で綺麗に切りそろえて、ちょっと編み込みをしてみた。
「いらっしゃいませ、お嬢さん」
にこやかな表情の店員さんが声をかけてきた。よし、ばれてない。
「あの、メイクに必要なもの一式が欲しいんです。できればメイクの仕方も教えて欲しいです」
「かしこまりました。こちらに座ってお待ちください」
そういうと店員さんは一式を商品棚からチョイスし始めた。ポンポンかごの中に用具が入れられていく。
思っていたよりもかなり数が多い。半年溜めたお金で足りるか心配になってきた。
「おまたせしました」
「あの、初めてなので最低限のものがあれば大丈夫です」
「お嬢さん、これが最低限の化粧道具ですよ」
「えっ」
目の前には瓶とか粉とか色々置かれており、筆やスポンジも数種類置かれている。
これで最低限だと!?
「はい、じゃあまず化粧水からつけていきますね」
「あ、はい」
私は言われるがままに店員さんに化粧を施されていった。
説明を聞くと、確かにどれも最低限必要なもののようだ。
世の女性はこんなに沢山の苦労をして美を作っているのかと思うと、凄まじい労力だと思った。
そう言えば前世でも、同級生の女子たちがコスメを持ち寄って化粧の話をしていたのを思い出した。あのメーカーのコスメがいいだの、新色が出ただの。
当時は聞き流していたけれど、女の子の美は凄い努力の元で成り立っているのだと感じた。
そして一時間ほどして、ようやく化粧が完成した。
かっ可愛いだろ、俺!
鏡に映った俺は、美少女だった。こんな美少女見たことない!
これが俺!
「すっ凄いです! ありがとうございます」
「いいえ! お嬢さんのお顔がもともととっても綺麗なんですよ」
化粧をしてくれた店員さんは会心の出来映えとばかりに、満足そうににこにこしている。
「あの、ちなみにこれ一式全部買うといくらになりますか?」
「2万ベルになりますよ」
2万ベルか……これだけの用品数の割にはかなり安いと思う。日本円と貨幣価値は同じようなもので、1ベル=1円くらい。だからこの化粧品一式は2万円。
一応半年で溜めたお金は、10万ベルあるから問題はない。むしろなんでこんなに安いのか気になる。
「あの、ちょっと安いのでは? 計算間違ってませんんか?」
思わず心配になり聞いてしまう。
「いいえ、こちらは若者向けの商品ですのでこのお値段ですよ。大人向けの商品だと、もっと値が張ります」
「そうでしたか、それじゃコレ全部買います」
「ありがとうございます!」
成程、若者向け商品はそこまで値段はしないようだ。確かに生前でも、高級コスメもあれば100円均一ショップでもコスメは売っていたし。
おそらく、大人向け商品と違って化粧が崩れやすいとか、ノリがあまり良くないとか、発色がとか言う問題はあるのだろう。しかし俺が練習する分には全く問題はない。
そして俺は、初めての化粧を終え次の店へ向かったのだった。
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