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29.“魔族”レイラ

 俺は元々のレイの姿――つまり男の姿で酒場にいた。

 安い定食を食べながら、周囲の会話に耳を傾ける。


「おい聞いたかよ、勇者様ご一行が全滅したって話」

「ああ、酷い話だよな」

「聞いた話じゃ、勇者様はご遺体も残らず消滅させられて、王女殿下とスティーブ様は無残な死体が木に吊り下げられていたんだとか」

「それに治癒師のマリアンヌ嬢も、見せしめのように生首が飾られてたんだとか」

「可哀想にな、まだ皆若いってのに」

「本当にとんでもない女だな――レイラって魔族は!」


 ……何がどうなってそういう話になったのか、俺は頭を抱えるしかなかった。

 勇者パーティー全滅の一件、犯人はレイラという魔族の女のせいにされていた。

 本当に意味が分からない。

 しかし国王が、調査の結果そういうことだと公表したのだ。皆信じた。


 レイラが勇者パーティーを全滅させた? しかもレイラは魔族だった? そんなわけあるかいっ! そう言いたかった。しかし俺――いやレイラは完全にお尋ね者だ。


 俺はただひたすらに定食を掻き込んで、宿屋に帰っていった。


「くそっ、いったいどうなってやがるんだ」



 ◆◇◆



 一週間前、勇者パーティーの惨殺遺体が発見された。

 俺は何とか辿り着いた町の酒場で、その一報を耳にした。


 俺が辿り着いた町は、勇者パーティーが次に立ち寄るはずだった町だ。

 予定到着日を過ぎても現れない勇者パーティーを不審に思った町側が、捜索隊を出したところ、その現場を発見したそうだ。


 衣服を残し消滅した勇者、そして惨殺遺体となった3人の仲間。一緒にいたはずの5人目の仲間であるレイラがいないことはすぐに知れた。

 王国の騎士団が捜索を行ったところ、近くのオークの巣が壊滅していることが明らかになった。オークキングやオーククイーンがいる500匹の大コロニーが謎の壊滅。一体誰が?


「ヴィンセントさんが余計なことを言わなきゃ、こんなことにはならなかったのに」


 俺は宿屋で1人ぼやいた。今更そんなことを言ってもどうしようもないのだが、こんな状況になる一因になったヴィンセントを恨まずにはいられなかった。


 ヴィンセントは悪気があったわけじゃない。

 行方不明になってしまった俺を心配したヴィンセントは、騎士団と共に捜索していた。そこで壊滅したオークの巣を発見した。

 いくら勇者パーティーでも、これだけのことが出来るほどの練度にはまだ達していなかった。そう考えたヴィンセントは、行方不明になっているレイラのスキルを思い出した。

 そこで、言ってしまったのだ。


「これはレイラがスキルでやったのではないか」


 って。


 その発言の結果がこれだ。勇者パーティー壊滅の理由も俺のスキルで、男どもを操って同士討ちさせたということにされた。


 騎士団の調査で、勇者パーティー全滅の理由が同士討ちであることは分かったはずだ。その理由が“レイラ”にあることも。

 女一人のせいで大切な勇者パーティーが壊滅した――そんな調査結果を公表できるはずがない。だから国王は全部の罪を、行方不明のレイラに擦り付けた。魔族へヘイトを向けさせるために、実はレイラは魔族だったというおまけ付きで。


「まぁ、分かる。事実レイラは怪しい。だってそもそもそんな人間は存在してないしな」


 存在しない謎の女レイラ――国王としては、その女が生きていようがいまいが関係なかった。ただこの失態の責任を擦り付けることが出来さえすれば。


「俺を庇おうとしてくれたヴィンセントさんは、俺にスキルかけられてる疑惑で隔離施設逝き。アガサギルドのメンツも調査を受けてるって聞くしなぁ……」


 迷惑をかけてしまったのは間違いないけれど、俺のせいというよりは、失態隠しのために“レイラ”に罪を擦り付けた国王のせいだ。



 そう言うわけで、俺はお尋ね者になってしまった“レイラ”を封印して、普通にレイとして町から町へ旅をしているわけである。

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