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28.勇者パーティー全滅

「あばばばばばばば、おおおおおおおおれの、俺のせいででででで、たたたたたた大変なことににににに、ななななってしまったたた」


 俺のせいで大変なことになってしまった。と言ったつもりが、バグったような言葉しか口からは出てこなかった。

 俺というか、俺の女装姿であるレイラのせいで――勇者パーティーが全滅してしまった。

 おお勇者よ死んでしまうとはなにごとだ、である。



 新しい朝が来た、希望の朝だ――と言えたのなら、どれほど素晴らしいことだったろうか。

 周囲が明るくなり、俺は隠れていた大岩の陰から意を決して状況を確認してみた。


 昨夜エカテリーナが突然ヤンデレて、スティーブを殺害すべく放り投げた爆弾らしきもの。

 その威力はすさまじく、スティーブはおろかソウタやエカテリーナ本人も巻き込んでの大惨事となってしまった。


 地面は大きく抉れ川原の大きめの岩は粉砕し、木々は焼け焦げている。破壊力のすさまじさを物語っていた。


「やべーよ、やべーよ、なんでこうなるんだよ!」


 レイラが発端となり、勇者パーティーが全滅してしまった。世間様に顔向けできない。


 腐っても勇者パーティー、魔王軍と戦うために編成されたはずの人間の希望。異世界から招かれた勇者ソウタ――なのに俺一人のせいで、こんなことに。

 エカテリーナやマリアンヌの所業のせいとは言え、流石に責任を感じる。


「俺が女装していたばっかりに……俺のレイラが美しすぎたばっかりに」


 爆心地付近は酷い有様だった。

 少し離れた焼け焦げた木の枝には、ぶら下がるようにしてエカテリーナとスティーブのグロ注意死体があった。また、スティーブに首を切り落とされて死んだマリアンヌの生首は、爆風で吹き飛んだのか、大岩の上に飾られるように置かれていた。何の儀式だよ。


 そして勇者ソウタは――。


「……う、う」


 まさかの生存。


 生きているとは言っても虫の息。全身大やけどで、手足はぐにゃぐにゃにとんでもない方向を向いているし、骨も飛び出ている。

 それでも生きているということは、勇者特有のスキルとかそう言うものなのだろうか。

 治癒師であるマリアンヌが生きていたのなら、もしかしたら助かるのかもしれないが残念ながらマリアンヌはクビonlyになって、岩の上のオブジェと化している。


 生きているのが可哀想なほどだ。爆発から数時間経っている……その間ずっと苦しんできたのかと思うと哀れでならない。

 だが俺には勇者の息の根を止めてやるようなことをする勇気はなかった。


「……ラ……、レイ……ラ」

「え?」


 俺がソウタに近づくと、目も見えないはずのソウタが弱々しく俺の名を呼んだ。

 鼓膜も破れて耳だってロクに聞こえりゃしないはずなのに。


「勇者様?」


 ソウタは最期の力を振り絞るかのように、俺に向かって手を伸ばす。焼けただれ真っ赤になって血をにじませる手を。

 グロい、ただただグロい光景だった。

 しかし俺はあまりにもその様が哀れに思えた。


「レイラですよ、ここにいますよ」


 そう言って伸ばされた手を握ってやった。

 もう助かるまい――勝手に異世界に招かれて、最期は王女のヤケクソに巻き込まれて死亡なんて哀れすぎる。


 ヴィンセントさんのおかげでそれなりに更生しつつあったというのに。旅をしている中で、短い間だったが勇者ソウタの人となりは何となく理解した。ソウタは根は良いヤツなのだ。

 俺を虐めたスティーブや、俺をハメて殺そうとしたエカテリーナやマリアンヌとは違って……多分平和な国で生まれ育ったんだろうなと思わせるような真面目さが根底にはあった。


「ぶじ……でよかった……レイ……ラ」


 そう言ったのを最後に、ソウタから完全に力が抜けた。

 そしてその遺体は光の粒子になって消えてしまった……どういう理屈なのかは分からないけれど、異世界人であるソウタの身体は死ぬと消えてしまうらしい。彼の装備だけ残し、肉体は綺麗さっぱり消えてなくなってしまった。


「ごめんな、ソウタ……。俺、男なんだよ……」


 最期まで俺をセクシー小悪魔系美少女のレイラだと思って身を案じてくれていたソウタに対して、凄く罪悪感を感じる。


「いや、最期は好きな女に看取られて死んだんだ……、俺が男だってカミングアウトされて絶望の内に息絶えるよりはまだ幸せな最期だっただろう」


 そうとでも思わなければやってられない有様だった。



 そうして俺は後ろ髪を引かれる思いはあったものの、その場を静かにあとにしたのである。

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