25.弱肉強食
この世は須らく弱肉強食だ。
“強”とは、力であり、権力であり、知である。様々な強さの方向性がある。
俺は――強者を従えることで、強さを手に入れた。
オークキングは俺の“恋奴隷”になったのだ。
俺の命令に従い、次々と躊躇なく他のオークたちを大きな斧で攻撃し始めた。流石はオークキング、他とは段違いの力である。
他のオークたちはキングの突然の乱心に、驚き慌てふためいている。そこかしこから、「ドウシテ」とか「ヤメテ」とかいう声が聞こえる。
俺は少し良心が痛み、翻訳の指輪を外した。
これでもうオークたちはブヒブヒ言っているようにしか聞こえない。
「悪いな、これも俺が生きるためだ」
オークキングの虐殺は続いた。
ハイオークが束になってかかっても、大斧の一撃で始末された。メスオークたちも同様だ。
しかし最後の最後に、一匹だけ残った。
あのオシャレオークだ。おそらくアレはオーククイーン――オークキングのつがいのメス。
オークキングの猛攻をしのぎながら、涙を流してブヒブヒとオークキングに何かを訴えかけている。しかしオークキングの猛攻は止むことはなく、遂にオークキングの大斧の一撃がオーククイーンに入った。即死だ。
俺は再び翻訳の指輪を付けた。
「よくやった、オークキング」
そう労ってやるが返事はない。
オークキングは死んだオーククイーンを見つめ、静かに涙を流していた。"男殺し"が70%かかっている状態だが、残り30%の理性が悲鳴を上げているのかもしれない。
そして――オークキングは自らに大斧を向けて、自害して果てた。
「……悪かったな」
オークキングは30%の理性で抵抗し自害した。
「虐殺を命じた俺を殺すという手もあったはずだが――いや、これ以上考えるのは良そう」
感傷に浸る必要はない。やるかやられるか、そういう世界だ。
◆◇◆
それにしても凄まじい光景だ。
改めてオークの巣を見渡すと凄まじいの一言。血の臭気が充満し、そこかしこ赤赤赤……。
500頭のオークの虐殺。やったのはオークキングだが、やらせたのは俺だ。
「戦闘には使えないスキルだと思ってたが、とんでもない。強いヤツを操れば、俺は高みの見物をしながら戦えるのか」
上手くやれば魔王軍とだって戦える。強そうな魔族を“男殺し”で恋奴隷にして戦わせれば、人間側は一つも損害がない。
……いや、こういう無茶な考えはするべきじゃない。俺は別に魔族を根絶やしにしたいとか、恨みは持っていない。
「とりあえず金目のものものとか、武器とかをいただこう。丸腰で村までは辿り着けないだろうし。……オーク、護衛役にちょっと残しておけばよかったな。ミスった」
オークの巣を散策すると、今までに犠牲になったであろう人たちの遺品が沢山放置された場所を発見した。10人や20人の量ではない。100人分以上はありそうな遺品の山だ。
金の指輪やネックレス、宝石が付いた剣。そう言った豪華なものもあれば、質素な鉄の剣やボロボロのカバンなどもある。
「死に貴賎はなく、何者にも平等か……」
綺麗なリュックを見つけたので、よさそうなものをポイポイ放り込んだ。
「さて、これからどうするべきか……当初の予定通り、どこかのギルドで身分証を作って女として生きるか。それとも――エカテリーナとマリアンヌのクソアマ共に復讐するか」
レイラが気に入らない――エカテリーナとマリアンヌはたったそれだけの理由で、俺をオークに攫わせた。辱められて死ぬようにと。
アイツらのことを考えるとムカムカが止まらなくなってきた。
「いいや、ダメだダメだ。アイツらは俺が死んだと思っている。それでいい、それでいいんだ。自分からわざわざ関わり合いになる必要はない。気持ちを切り替えるんだ」
何だかんだ言って俺は生きている、傷一つない。アイツらのことは忘れよう。
「あの香炉――あれはエカテリーナが俺を騙した証拠の品だ。もし万が一、エカテリーナの罪を問える時が来たのなら……あの香炉だけでも回収しておくべきか?」
オークに攫われた時に粉々に砕けてしまった香炉。それを回収する程度であれば、問題はないだろう。
そう判断した俺はオークの巣をあとにして、あの川原に戻ることにした。
ところがそこで俺は予想外の事態に遭遇することになる。
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