22.悪意
川べりで俺はエカテリーナとマリアンヌに別れを告げる。
「今までお世話になりました」
ようやくこの悪縁ともおさらばできる。そう思うと、この2人には色々嫌がらせをさえたものの、感謝の念すら湧いてくる不思議。
「レイラさん、戦えない貴女にこれを差し上げますわ」
そう言ってエカテリーナは俺に一つの香炉を手渡した。
「王女殿下、これは?」
私が香炉を掲げると、マリアンヌがハッと息をのむ音が聞こえた。
何だ? そんなに貴重なものなのだろうか?
「いいですか、レイラさん。この香炉はモンスター避けの効果があります。どうぞ、町や村までの道中お気を付けて」
「エカテリーナ様っ、ありがとうございます!」
俺は感激した。
いくら恋敵とはいえ、こうして俺の行く末を案じて何やら貴重なアイテムまで持たせてくれるなんて! エカテリーナ! あんたいい女だ!
「ではレイラさん。私たちはこれで失礼いたします。行きましょう、マリアンヌさん」
「……ええ、行きましょう!」
そう言って2人はあっさりと去っていった。
これでお別れ。
これで俺は自由だ!
俺は久々の自由をかみしめつつ、俺は早速香炉に火をつけた。
甘くて良い香りが一瞬にして広がる。
この香りが俺をモンスターから守ってくれる。本当に助かった!
早いところ村か、町へ行こう。ここのところずっと気を引き締めて“レイラ”をやっていたから、かなり疲れている。
たまには何も考えず、素顔のレイの姿でだらだらしたいもんだ。
これからの展望を考えながら、この場を離れようとした時だった。
ガサガサっと、森の奥のほうから音がした。
「何だ? モンスター……はこの香炉のおかげで寄ってこないんだろうし。野生動物とか?」
何だか分からないが、どんどんそのガサガサ音はこちらへ近づいてくる。
一体何が起こっているんだ?
エカテリーナたちが去って行った方角にはもう誰もおらず、助けを求めることもできない。野営に戻ってしまってはせっかくエカテリーナが逃がしてくれた意味がなくなってしまう。
そうこうしているうちに、ガサガサという音はすぐそこに迫っていた。
そして――。
『ブヒッ!』
森から出てきたのはオークだった!
「ヒッ……!」
しかも1頭や2頭じゃない、少なくとも10頭以上はいる。
いくらオークが雑魚モンスターと言っても、こっちは丸腰の戦闘経験ゼロのド素人である。到底かなう相手じゃない。
「なっ、何で……モンスター避けの香炉があるのに」
俺がそうつぶやいた時、頭上の木の上から声がした。
「うふふふっ、貴女本当にバカですわね」
「ほーんと、バカにもほどがあるよね!」
気の上には、野営に戻っていったはずのエカテリーナとマリアンヌがいた。
2人とも私を見下ろして、バカにしたように俺を見ていた。
「2人とも、これは、これはどういう!?」
「どうもこうもありませんわよ、女狐。貴女はここでオークに連れ去られて慰み者にされるのですよ」
「そうそう、さっすが王女殿下! エゲツナー」
ハメられた! エカテリーナは俺を生かして逃がすつもりなんてなかったんだ!
マリアンヌの反応を見るに、多分エカテリーナが独断で練った計画なんだろう。しかしマリアンヌは助けてくれそうにはない。
「いいですか女狐、その香炉はモンスター避けではなくモンスターを集めるためのもの」
「しかも興奮剤入りー、キャハハ!」
「お前のような女が生きているということ、ただそれだけで虫唾が走ります。お前にはDランクハンターの男すらもったいない。同じ獣同士、オークの慰み者がちょうどよい」
「そっそんな……」
俺は絶望した。
これほどまでに陰湿なことをされるとは。一体俺が何をしたって言うんだ!?
俺の絶望顔に満足したのか、エカテリーナとマリアンヌは今度こそ姿をくらませた。
残ったのは、戦闘力ゼロの俺と鼻息を荒くして興奮したオークたちだけ。
俺は無駄だろうが一応香炉を岩に投げつけて壊した。しかし辺りに漂う甘い香りは消えることがない。
相変わらず興奮したままのオークが俺に襲い掛かる。俺は抵抗を試みるも、あえなくオークに捕まってしまった。
そして俺はオークに担がれ、連中の巣へと連れていかれたのである。
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