21.逃亡の算段
動揺したマリアンヌのヘルプの視線を受けて、エカテリーナが話し始めた。
エカテリーナはとても冷静だった。
「ロッズとはどなたですか?」
「アガサギルドのハンターです」
「ランクは?」
「Dランクです」
「ふふっ、D?」
エカテリーナはあからさまにバカにした声色でそう言った。
「まぁ女狐風情にはお似合いの低ランクですこと。そうですわね、貴女のような女狐にはDランクがお似合いですわ。最速でAランクに駆け上がり、Sランク確実と目されるスティーブとは、所詮釣り合いませんもの」
俺が恋人役にロッズを選んだのは、奴がDという低ランクだったからだ。彼氏のスペックでマウント取りたがる女はわんさかいる。このエカテリーナも例に漏れず、そう言う質だったようだ。
「いいですわ、貴女をパーティーから逃がして差し上げましょう」
「本当ですか!?」
上手く引っかかってくれた。
「この先、6日ほど行ったところにオークの縄張りがあります。おそらく襲撃してくるでしょうから、その隙に逃げなさいな。勇者様にはレイラはオークに襲われ死んだと、死体は持ち去らわれてしまったと、そう伝えましょう」
こうして俺は勇者パーティーから離脱する算段をつけることに成功したのだ。
しかし後に俺は、女というものを甘く見ていたことを思い知らされるのである。特にこのエカテリーナという女の陰湿さを――。
◆◇◆
それから6日、表面上は何もトラブルに見舞われることなく旅は進んだ。
間もなく、エカテリーナが言っていたオークの縄張りに差し掛かる。
「勇者様、これより先の森はオークの縄張りでございます。今日はもう暗くなります。この辺りで野営し、明日一気に森を抜けましょう」
「あー、分かったぜ。別にオークなんざ大したことはねーけど、レイラに何あったヤベーしな」
「それがいいでしょう。オークは数だけは多い。レイラさんが連れ去られでもしたら……」
R18的な展開まっしぐらだろうな。生前エロサイトで多々見たシチュエーションだ。
女だけではなく、男の俺も安全ではない。オークは性欲モンスターだ。オスのオークは人間の女を狙うし、メスのオークは人間の男を狙う。
どっちにしろヤラレル。マジ勘弁だ。
野営のため、テントの準備をしているとエカテリーナが声をかけてきた。
「レイラさん、今夜貴女を逃がして差し上げます」
「本当ですか?」
「はい、夕食後に水浴びをするといって川へ行きましょう。その時にオークに襲われたふりをします。最低限の荷物を持ってお逃げなさい」
「ありがとうございます!」
遂にこの時がやってきた。ここ2週間、スティーブと顔を会わせるのが辛かった。女性陣からの氷の眼差しもツライ。
勇者は――正直どうでもよかった。日本の話は聞きたかったが、どうしてもというわけではないし。
ヴィンセントさんの矯正がちょっとは功を奏しているのか、女癖が悪いとか横暴な振る舞いをするとか、そう言う行動はなかった。「レイラは俺が守る!」なんて言うのはうざかったが、話せば意外といいやつという印象だ。
別れがたいなんて感慨はこれっぽちもなかったが、今夜で最後と思うと、今後の彼らの旅路に幸あらんことをと祈ってやるくらいの情は持ち合わせている。
そして夕食も終わり、エカテリーナが声をかけてきた。
「マリアンヌさん、レイラさん、ここはオークの縄張り近いので、今宵は3人一緒に水浴びをしませんか?」
「わかりました」
水浴びであれば男たちは付いてこない。
普段俺たち3人がバラバラに水浴びをしているのは彼らも知っている。オークの縄張りに近いから、そう理由をつければ3人で行動しても怪しまれない。
そうやって俺たちは男どもを撒いたのだった。
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