20.旅路
最悪な旅が始まった。
王様の一声で、俺は生贄の如く勇者パーティーに入れられてしまった。
色々マジックアイテムをくれたものの、正直言って生き延びられるとは思えない。
「レイラ、すまん! 俺が陛下を説得できなかったばっかりにっ!!」
責任を感じたヴィンセントさんは最後まで王様に抗議してくれたものの、結局決定は覆ることはなかった。
「イヤモウダイジョウブデスヨ」
俺は片言になりながら別れの言葉を述べた。
ヴィンセントさんとは今生の分かれになるかもしれない。その可能性が濃厚である。
◆◇◆
勇者パーティーご一行は、魔族との国境までレベル上げを兼ねて旅をすることになっている。
大体三ヶ月ちょっとの旅路だ。
この間俺が心配していたのは命の危険以外にも、性別バレの危険である。
しかしこれは実際に旅を始めてみると、意外と何とかなるもんだった。
「レイラさん、スープが出来ましたよ。どうぞ」
「アッアリガトウゴザイマス」
「レイラ、肉が焼けたぞ!」
「ウレシイデス」
まず勇者ソウタとスティーブだが、良い感じにお互いを牽制し合ってくれているせいか、無体を強いるような行動は今のところ見られなかった。とりあえず2人とも、俺の印象を良くしようと、紳士的な態度を貫いている。
俺はソウタが同郷ではないかと思っているので、ちょっと向こうの話を聞きたいと思っていた。しかし俺がソウタに話しかけようとするとスティーブやマリアンヌが邪魔をしてくるので、無難な普通の話しかできなかった。
一方、女性組。
エカテリーナ王女殿下、治癒師マリアンヌ。この2人には、旅が始まって早々に呼び出された。
「アガサギルドの女狐レイラ……お噂はかねがね」
「アンタ、勇者様とスティーブに色目使ってんじゃないわよ!!」
女性からの呼び出しにドキドキしたいお年頃だが、呼び出されたのはレイラであって俺ではない。
予想通りに釘を刺される。
「お2人とも、この度は私のような足手まといがパーティーに加入することになってしまい誠に申し訳ございません」
「ふんっ、演技とか、ホントバレバレなんですけど!」
そう言ってマリアンヌは、私に向かってコップの水をひっかけてきた。
わーお、俺虐められてるぅ。
「まぁまぁ、マリアンヌさん。落ち着いてください、しょせんは礼儀も知らぬ下賤の売女。勇者様もスティーブもそのうち目を覚ましますわ」
丁寧に上品そうにとんでもない言い草である、この王女様は。
2人とも黙ってりゃ可愛いのに。
特に王女様は陰湿な嫌がらせが多かった。俺の靴に何処で捕ったのかムカデが入っていたり、モンスターとの戦闘中にワザと俺に向かってモンスターをけしかけたり。
とにかく俺は彼女たちから嫌われていた。
とはいえ、嫌われているからこそ性別バレの危機が回避されているというメリットもあった。
就寝時のテントや水浴びとか着替えとか、生活は完全に別。同じ女だからと言われて常に行動を共にされるよりは、1人の時間を持てるのは完全にメリットだった。
しかし過度に嫌われていては、やはり命の危険がある。
そこで俺は信じてもらえるかどうか分からないものの、1つ嘘をつくことにした。
「お2人とも、このようなことになってしまい本当に申し訳ありません。実は私、アガサに恋人がいるんです」
「はぁ? あんた恋人がいるのに、別の男に言い寄ってるの!?」
違う! そうじゃない!
察しが悪いマリアンヌが見当違いのことを言う。
「違います! 私はアガサに帰りたかったのですがこのようなことになってしまって……。私、早く帰って恋人のロッズに会いたいんです! どうか途中で私を捨ててください!! モンスターに襲われて死んだとか、そう適当なことを言って逃がしてください!」
「捨てるって言ったって……」
俺からの予期せぬ申し出に、マリアンヌが動揺している。
俺の作戦とは、恋人がいて会いたいから途中で捨ててくれというものだ。途中で死んだということにして欲しい。
そもそも”レイラ”なんで女はこの世に存在しない。
ほとぼりが冷めるまで、俺は元のレイとして、男として暮らす。しばらくしたら今度は別のギルドで、別の名前で女の身分証をゲットすればいい。例えば”レイナ”とかいう名前で。
動揺したマリアンヌは、黙って聞いていたエカテリーナに視線を送る。
そしてエカテリーナは少し考えたあと、話を始めた。
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