2.発想の転換
教会で女神さまからスキルをいただいた日の夜、俺は孤児院の自室で頭を抱えていた。
「なんでだよ……、女神さまは希望をある程度聞いてくれるんじゃなかったのかよ」
欲しかったスキルは、普通のスキルだ。裁縫とか、料理とか、接客とか……。
なのに、俺に与えられたのは『魅了』『誘惑』『男殺し』という謎選抜。
教会の司祭様もこれには頭を抱えた。
司祭様曰く、このようなスキルの組み合わせそのものは珍しくなく、暗殺者や女優、踊り子などの職がよさそうということなのだが。いずれにしても、“女性”が持つと有利であるスキルということだ。男の俺にどうしろと。
「俺はいくら女の子っぽい見た目だからって、男! お・と・こ! こんなスキルでどうしろって言うんだ。男娼にでもなれってか!?」
流石に女神さまを恨まずにはいられなかった。
スキルが浮かび上がった紙を見つめる。スキル名の他に、説明文が添えられている。
◆◇◆
『魅了』→微笑むだけで“男性”からの好感度が爆上がりします。複数人に使用可能。
『誘惑』→魅了の上位互換スキルです。魅了が完了している場合、声をかけたり、触れることで“男性”をある程度操ることが出来ます。複数人に使用可能。
『男殺し』→誘惑の上位互換スキルです。誘惑が完了している場合使用可能。対象の“男性”の身体のどこでも構わないので口付けしてください。そうすれば命を奪うも、財産を巻き上げるも、何をするも貴方の自由です。これでもう彼は貴方の恋奴隷! 一度に1人のみ使用可能。
※効力はスキルレベルMAXの場合です。スキルレベルが低いうちは、そこまで強い効力は持ちません。積極的にスキルを使用して練度をあげたり、自身の鍛錬によってスキルとの親和性をアップさせることでより強くスキルの効果を発揮することが出来ます。
◆◇◆
もう涙しか出来ない。一体俺はどうしたらいいんだ。
ふっと、鏡に映った自分の姿を見る。ボロボロの鏡。そこに映ったのは、女の子にしか見えない自分の姿。
「まさか、女神さまは俺を女と間違えてこんなスキルをくれたんじゃ……。確かに女の子でこのスキルを持っていたら、人生バラ色のイージーモードかもしれない。一生男に貢がせていればいいんだもんな。俺は女に生まれるべきだったのかな」
いくら見た目が女の子っぽくても、ついてるもんは付いてる。
「16歳になったら俺はこの孤児院を出て独り立ちしなくちゃいけない。それまでにこのスキルでどうやって生きていけるのか考えなきゃ……」
そう言って堅いベッドに横たわる。
「せめて俺が女だったら……」
本当に女だったらこのスキルに悩むことはないし、スティーブたちにも馬鹿にされ虐められることもなかっただろう。
自分で言うのもなんだけれど、もし俺が女の子だったら相当可愛い部類だったと思う。秋葉原でアイドルやってる感じ。
このザンバラに背中まで伸びた髪を整えて、顔に薄く化粧をして、ちょっと可愛いレースとか付いたワンピースを着て。
「ん? 想像してみると、物凄く可愛いぞ俺」
そう思って、俺はベッドから飛び起きた。
俺はシーツをドレスに見立てて体に巻き付けて、髪も簡単にハーフアップにして再び鏡を見た。
「……かっ可愛い」
ついでに、鏡の前でくるっと一回転してみれば、シーツがワンピースのようにふわっと浮き上がり、髪もサラッとなびく。
いままで女装なんて、って思っていたけれど、いざちょっとやってみるとあまりの美しさに癖になりそうだった。
「――そうだ、女装すればいいんじゃね? この容姿なら男ってバレることは多分ない」
前世だって、『男の娘』とか男性なのに女性キャラのコスプレが超絶似合うレイヤーさんとか、わんさかいたではないか。
俺は鏡を見つめる。化粧も何もしていない状態でこの可愛らしさなら、絶対にイケる! 化粧すれば絶対に女の子にしか見えない。
名案だ! 孤児院を出たら女装して、女としてこのスキルを駆使して生きていこう。
俺はもう一度スキルがかかれた紙を見つめた。
「スキルの説明はスキルレベルMAXの場合だ。使いこなすためには、積極的にスキルを使うこと、自身の鍛錬によってスキルとの親和性をアップさせることってある。――俺自身の女装テクニックが上達すれば親和性が上がるって解釈でいいんだよな?」
つまり練習あるのみということだ。
独り立ちしなければいけない三年後までに、積極的に女装してスキルを使う練習をすること。そしてスキルレベルをできるだけ上げること。
「いける、いけるぞ! 女装して男を手玉に取って、いい生活してやる!!」
こうして俺の趣味と実益を兼ねた、女装テクニックをあげるための日々がスタートしたのだった。
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