17.最悪
勇者様ご一行がギルドの視察に訪れた。
酷い人混みで中々その姿を垣間見ることは出来ない。
それでも何とか人と人との隙間から覗くと、ようやく一行のメンツを拝むことが出来た。
「あれが勇者?」
オラついた感じがある18歳くらいの青年の姿が見える。……うん、いかにも素行不良と言った感じのする男だ。髪は染めているのか茶髪だが、見た感じは日本人顔。もしや同郷ではないだろうか?
先ほども声をかけてくれた男が親切に解説してくれた。
「ああそうだ、あれが勇者様だ。勇者パーティーは今のところ全部で4人いてな、前を歩いている人から順にエカテリーナ王女殿下、治癒師マリアンヌ様、勇者ソウタ様、そして剣士のスティーブ様だな」
うげっ、スティーブの野郎が勇者パーティーの一員だって!?
その名前に俺は思わず吐きそうになってしまった。一行の一番後ろ、確かにスティーブの野郎がいやがる。
孤児院を出てたった2年で勇者パーティーの一員になれたのだ、実力はあるのだろう。しかしアイツはろくでもない奴だ。名前も聞きたくない。
勇者も勇者でオラついている感が強いし、クズ同士お似合いだ。
マジ最悪。触らぬ神に祟りなし、君子危うきに近寄らずだ。さっさと退散しよう。
俺は色々教えてくれた男に礼を言って、さっさと退散すべく出入口方面に向かった。
しかし出入口は特に人が多く、なかなか前に進めなかった。
そうこうしているうちに、1人の小太りの如何にも小悪党といった感じの男が大声で話し始めた。
「皆の者! 静まれ! 私はこのギベオン王国の大臣である! 異世界から来られた勇者、ソウタ様がギルドを視察に来られた! 今日はもう1人パーティーメンバーを選出したい! 我こそはという猛者はいるか!?」
その声に、皆一斉に自分こそは自分こそはと売り込みを始めた。酷い混雑がより一層混沌とする。
「おい、こんな狭いところでやるなよ! 本気でメンバー探しているなら、もっとちゃんと公募して選考しろってんだ!」
俺は小声で毒付きながら、必死に出口へ向かおうとする。しかし細身の俺は人混みにどんどん流され、今自分がどこにいるのかもよく分からない有様だった。もうもみくちゃである。
俺と同じように思ったハンターもいたようで、何人かは「しょせん話題作りか」と冷めたような口調で言っているのも聞こえた。
「くっ、出口はどこだ!?」
見つからない出口に苦戦していたとき、誰かが俺を強くドンッと押した。そのせいで俺はバランスを崩して、誰かを押し倒すように倒れてしまった。
「すっすみませ――」
すぐに謝って立ち上がろうと、押し倒してしまった人物を見た時、俺は絶望した。
「いっいや、大丈夫だぜ、アンタこそ怪我はないかっ?」
俺が押し倒してしまったのは、耳まで真っ赤になった勇者様だったのである。
しかも運が悪いことに、俺はよろけた拍子に深く被っていたはずのフードが外れ、最高の“レイラ”のお顔が公衆の面前にさらされてしまったのである。
やってしまった……。こんなに目立つことをやらかすなんて!
早くこの場から立ち去らねばと、慌てて立ち上がろうとした。
「す、すみません、本当にごめんなさい。転んでしまって、怪我はしていませ――痛っ……」
「大丈夫か!?」
どうやらコケた拍子に足首を捻ったらしく、痛みが走る。
「レイラさん!?」
そうこうしていると、スティーブの野郎が俺を目ざとく見つけて声をかけてきてしまった。本当に最悪だ!
「スティーブ、お前の知り合いか?」
「ええ、アガサのギルドの受付嬢だった方です。大丈夫ですか? 足を捻ったようだ。ギルドの休憩室へ行きましょう!」
スティーブはそう言うと、素早く俺をお姫様抱っこしやがった。
俺は心の中で悲鳴を上げた。マジ止めて、吐きそう――うえっぷ……。
俺はスティーブにお姫様抱っこされるという屈辱と、公衆の面前でこのような有様になってしまった羞恥心に耐えながら休憩室に運ばれるハメになったのである。
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