15.最高のレイラ
艶々の黒髪――胸元まで伸ばし、ゆるふわカール。日々お手入れを欠かさず、ヘアオイルでキューティクル。ヘアフレグランスも使い、良い香りがする。
すべすべのお肌――毛穴1つ見えない、きめ細やかで透き通るような白磁肌。
柳の葉のように細く美しい眉、クリックリの大きな目、長いまつ毛、ウルウルの赤い唇。
「完璧だ……」
ここは宿屋の一室。
俺は、今の俺が出来うる最高の“レイラ”を作り上げて悦に入っていた。
身長167cm、スレンダーなモデル体型。胸がないのはどうしようもないが、ちょっとパットを詰めてBカップ程度を再現。
16歳になり、ちょっとセクシー系のワンピースに挑戦。大きくスリットが入っており、背中もかなり開いている。
爪も赤い挑発的なマニキュアを塗る。
可愛い系から小悪魔セクシー系へ転向。これは実に良い。
若干喉仏が気になる気がしたので、幅広のチョーカーで首元をガード。
頭のてっぺんから足や指先に至るまで、洗練された女性の所作をイメージして美しい立ち居振る舞いを心掛ける。
そうして作り上げられた、“レイラ”という、理想の女の偶像。
「俺自身が“レイラ”に惚れそう」
本気でそう思うほどに、レイラは完璧だった。
これが俺の本気だ。この3年で必死に磨き上げた女装テクニック。
おそらく、スキルとの親和性という意味ではこの辺りが頭打ちだろう。まだ伸びしろはあるのだろうが、これ以上磨き上げるのは苦労しそうだ。
これより先は――。
「スキルを使って使って、使いまくる。スキルレベルを上げるんだ」
ギルドの受付嬢のバイトでもかなりレベルは上がった気がするけれど、あれはあくまでもクレーマー対応の一環である。男を堕とすための手管とは少し違う。
俺の最終目標は、男どもを手玉に取って貢がせていい暮らしをすること。パトロンを探さなければいけない。
慈愛や庇護欲からくる愛ではなく、愛欲にまみれたスケベ親父を俺のスキル“男殺し”で愛奴隷に出来るかが鍵となる。
スキル”男殺し”は一度に1人にしか使えない。他の男を恋奴隷にしたい場合は、一度解除しないといけない。だから誰を恋奴隷に堕とすかは、ちゃんと考える必要があると思うのだ。
「どれだけ口先と軽いボディータッチだけで相手をその気にさせるか、俺のスキルにかかりやすくさせるかだな。下手に手出ししてスキル不発とかになって、ひん剥かれて男バレしたら目も当てられない」
正直言って現時点でやろうと思えばいくらでも愛奴隷は作ることが出来た。相手を選ばなければ。
しかしやるからには、やはりかなりいい条件の男を狙いたかった。だがそういう男はかなり精神力が高かったり、意思が強かったりして、スキルがはじかれることが多い。
スキル不発でベットに引きずり込まれて性別がバレたら、一貫の終わりだ。
◆◇◆
と言うわけで、俺は今王都にいる。
スティーブに遭う可能性がある王都に何で来たかって? 理由は2つ。
1つは全ての道は王都に通じている。とりあえず王都に出て、その後何処へ向かうか考えようと思ったからだ。
なので王都に長居するつもりはない。
もう1つの理由は、素行不良と噂の勇者様がついに魔王軍との戦いに参戦すると聞いたからだ。ちょっと一目見ていたいという単純な好奇心からだ。
なので俺は宿屋で最高の“レイラ”に変身して、これから王都見物に行こうと考えているわけだ。
宿に出入りする際には深くフードを被ることにした。男のレイの姿の方が気楽な時もあるし。女装中もこのレイラの姿が悪目立ちする可能性もあるから。
まぁそんな感じで、俺は初めての王都見物に乗り出したのだ。
この安易な決断がとんでもない結末をもたらすなんて知らずに――。
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