14.旅立ち
勇者やスティーブへの愚痴が一通り済んだところで、俺は退職について申し出ることにした。
「あの、ギルド長。このような時に申し訳ないのですが、やっぱり私、任期一杯で退職させていただきたいのです」
「……そうか、残念だが仕方がない。ここを辞めた後についてはアテはあるのか?」
「いいえ、まだ特には。とりあえず遠くの土地まで旅をして住み心地のよさそうなところがあればそこで仕事を探そうかと」
「女の子の一人旅は危険だから、なるべく大きな町を経由して行くんだぞ」
「心配してくださってありがとうございます」
辞めるというのに、最後まで心配してくれるヴィンセントさんはやはりとてもいい人だ。スティーブの件さえなければ、ここで働き続けるという案もあったものを……。
「そうだ、役に立つか分からないが、俺が紹介状を書こう」
「いいんですか!?」
「ああ! レイラは俺の娘みたいなもんだ。一年にも満たない付き合いだったが、こんな娘が居たらと思わせてくれた。楽しい日々だった。ギルドの雰囲気も良くなったし、ハンターたちのマナーが劇的に向上した。全部レイラのおかげだ。最後に紹介状くらい書かせてくれ」
「ありがとうございます!」
紹介状――これは思わぬ収穫だった。紹介状という名の身元保証書。これは根無し草である俺にとっては非常にありがたい。
就職するにも部屋を借りるにも、これがないとダメというところは多々ある。
しかもヴィンセントさんはアガサの町のギルドのギルド長。元S級ハンターで『大盾のヴィンセント』という二つ名までついていた。
そんな人からの紹介状。なかなかもらえるものではない。
この一年近く、まじめにバイトしたかいがあったというものだ。
◆◇◆
その後退職するまでの数か月、俺は受付嬢の業務をこなしつつ引継ぎもしっかり行った。
ヴィンセントさんを勧誘できないスティーブが何度もギルドを訪問してきたのは凄く嫌だったけれど、ギルド職員やハンターたちが俺を守ってくれたおかげで、さほど接触せずに済んでよかった。
そして勤務最終日、俺はギルドからいただいた花束やハンターの方々からの送別の品を大量に抱えて孤児院に帰った。
送別の品は全てチェックし、売って金に出来そうなものだけ残して、あとは孤児院に寄付してしまった。送っていただいた方々には申し訳ないとは思ったけれど、あまりにも大量だったので、旅立ちの荷物にしては邪魔になってしまう。捨てるわけにもいかないので、結局寄付ということにした。
孤児院を出ていく日がるまで、一応俺はお世話になった教会の司祭様や、以前バイトしていた居酒屋にも顔を出した。もうすぐこの町を出ていくのだと。
「司祭様、いままでお世話になりました」
「おお、レイ君。本当に君は可哀想なスキルを与えられてしまった。これは女神さまからの試練、諦めず前を向いて真面目に進みなさい」
「はい、お世話になりました」
司祭様は俺のスキルが使えないものだと判断しているようで、俺の行く末をとても心配してくれた。
流石に「女装してレイラとして元気にやっていくつもりです」とも言えないので、適当に就職するつもりだと嘘をついた。
司祭様は俺が自暴自棄になって男娼にでもなるつもりではと、本気で心配している。
大丈夫だ、俺はこのスキルで幸せになって見せる!
◆◇◆
そしてとうとうこの日が来た。
俺は今日16歳になり、孤児院から旅立ちの日を迎える。
持ち物は殆どない。リュック一つで済むくらい。
だが、俺にはそれだけで十分だ。
「ついにこの日がやってきた! 俺は今日から女装して生きていくぞ!」
1人部屋で決意表明をして、女装グッズの詰まったリュックを背負い、誰にも見送られることなく俺は旅立った。
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