13.ギルド長の悩み
異世界から勇者を召喚? そんなことが出来るなんて驚きだ。
その異世界から召喚された勇者とやらは、魔王や魔族たちを倒せるような人材なのだろうか。もし……もしその勇者とやらが、俺がいた世界からきた人だったら、日本人だったらと考えると、興味はあるのだが。
……とにかく俺にとっては遠い世界の話で、下手に関わり合いになると面倒な予感しかしない。
「勇者様の指南役だなんて、悪くはない話ではないのですか?」
前線復帰してくれと言うわけではないのだから、悪くない話だと思う。勇者の師匠とか、良い箔だ。
「いや、それがだな。どうもその勇者様の素行とやらがあまりよろしくなくて、陛下も手を焼いているらしい」
「それは大変ですね」
「王都のギルドが用意した指南役は全員クビ、しかも勇者様はそれなりに強いらしくて、A級ハンターでも相手をするのがキツイらしい」
「……それ、もう前線に送ったほうがいいんじゃ」
それだけ強いならさっさと戦って欲しいものだ。
先代魔王は15年以上前に倒れ、現在代替わりしているという話は聞いたことがある。
しかしこの新魔王は先代よりも強くカリスマ性に溢れている。歴代最強魔王の呼び声も高い。
そのせいで魔族の領土は拡大する一方で、人間側は押されっぱなしらしい。
そういう事情もあって、王家は秘術とやらで異世界から勇者を召喚したのかもしれない。起死回生の一手として。
「勇者とやらは、どうやら実戦は怖いらしい」
「え、使えなっ!」
思わず本音が出てしまい、慌てて口を塞ぐ。
ヴィンセントさんは気にした様子もなく、話を続けた。
「鍛錬はするらしいが、自分より弱いヤツを痛めつけるようにして強さを誇示して、他の時間は女を侍らせて宴会をしているそうだ」
「最低じゃないですか」
「ああ、最低だな。そんなんだから性根を叩きなおす意味も込めて、俺に指南役の依頼が来たんだが――とても矯正できるようには思えん」
「私もそう思います」
「陛下からは何度か相談の手紙をいただいているが、読む限り勇者はクズだ。……それでも勇者だから取り入ろうとする奴は大勢いて、そいつらが勇者を持ち上げるから更につけ上がる」
完全に悪循環になってるようだ。
勇者とやらがどうゆう世界から招かれたのか知らないけれど、余程お花畑の平和な世界から来たに違いない。そうでなければ、自分を心配してくれる人を蔑ろにして、自分を利用するために甘言をする人を側に置くはずがない。
こりゃ勇者召喚は失敗だな。
「それで指南役選出に困った王都のギルドが、ギルド長に打診してきたんですね」
「そういうことだな、はっきり言って迷惑だ。昨日断ったのに、あのスティーブとかいう男は人の話を聞きやしない」
「そうですよね、なんか思い込んだら一直線って感じで」
「だろ、だろ、だろ?」
孤児院にいたときのスティーブと性格そのものは変わっていない。常に自分が正しいとそう思って行動している。
断られる、抵抗される、否定される――そう言ったことはあり得ないといわんばかりの自己中心的な奴。
そんな奴がギルド長の説得に派遣されるなんて、王都のギルドは余程の人材不足なのだろうか?
とにかくもうスティーブを関わり合いになるのは御免だ。
男であるレイを知っているというのも危険すぎる。いつレイラがレイだと気が付くか分かったもんじゃない。
残念だがギルドのバイトは任期満了でサヨナラ。残念だ。
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