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12.青天の霹靂

 ギルドの受付付近は、気まずい空気が流れていた。


 いつもはにこやかに笑っているギルド長のヴィンセントさんが、見るからに不機嫌な様子でスティーブに相対している。


「これはヴィンセント殿、ちょうどよいところに」


 スティーブはこの緊迫した空気が読めないのか、ヴィンセントに話しかけた。


「昨日お話した件、考えていただけましたでしょうか?」

「考えるも何も、俺は断ったはずだ」

「ですが、これは国王陛下の意向も含まれている話です。どうかお受けください」

「陛下の命令であればそれに従う。だが、そうでないのなら従わない。ただそれだけの話だ」


 という話を俺を間に挟んでやっている。

 勘弁して欲しい。


「とにかくお前は王都へ帰れ」

「そうですか。ですが今は、こちらのレイラさんとランチの約束をしていたのです」


 そう言って私を見つめる。顔を赤くしないで欲しい。気持ち悪い、気持ち悪い。

 スティーブは確かにイケメンの部類だが、孤児院で俺にした所業を考えると、ただただ気持ち悪いという感想しかなかった。吐きそう……うえっぷ。


「レイラ、そうなのか?」


 ヴィンセントさんの問いに、俺は必死に首を振った。

 それを見たヴィンセントさんは俺が嫌がっていると事情を察してくれたようで、スティーブを追い払いにかかってくれた。

 ヴィンセントさん、マジイケオジ。惚れてまうやろっ!


「うちの職員にちょっかいかけるのは止めてもらいたい」

「……分かりました。今日は帰ります。ですがヴィンセント殿、昨日の件については良くお考え下さい」

「ちっ! さっさと帰れ!」


 スティーブは追い出されるように、ギルドから出て行った。


「大丈夫かレイラ?」

「うぅ……」


 俺は情けないことに、涙目だった。

 そして瞬きをしたとき、ポロっと涙が零れ落ちた。

 スティーブまじ嫌い。本当にイヤ。


 俺が涙を流すのを見たヴィンセントさんやギルド職員、その場にいたハンターたちは一気に殺気立った。

 その殺気にあてられ、俺は涙が引っ込んだ。


 なっなんだ? みんないきなりどうしたんだ?


「くそっあの野郎、次に見かけたらボコボコにしてやる!」

「よくもレイラちゃんを泣かしたなっ」

「レイラちゃんは俺たちのアイドルだ! YESアイドル、NOタッチ!」

「俺の娘に何をする!」


 最後のはヴィンセントさんだが、いつの間に俺は彼の娘になったのだろうか?

 ともかく、俺が知らない内に紳士同盟でも結ばれていたようだ。


 そう言えば、バイトを始めて2ヶ月くらいはセクハラまがいのこともあったが、それ以降は特に不快に思うようなこともなかった。それにトラブルもグンと減った。


 この時俺は、初めて愛欲ではなく庇護欲という愛の形を知った。

 こういうアプローチ方法もあるのかと。……今後の参考にしよう。


「レイラ、ちょっと休憩室に行こう。休んだ方が良い」

「……はい」


 お言葉に甘えて休むことにした。化粧も少し崩れてしまっている。直したい。

 いつだって俺は完璧に美しい姿を見せていたい。



 ◆◇◆



 休憩室にはヴィンセントさんもついてきてくれた。


「大丈夫か? あの男、俺の娘に……ちくしょう、向こうのギルドに抗議してやる!」

「すみません、ギルド長。ご面倒をおかけしてしまい」

「いや、アイツは癪に障る男だ。昨日きちんと断ったってのに、しつこくつきまといやがって」


 そう言えば、スティーブはヴィンセントさんに何か話があって来たのだった。温厚なヴィンセントさんを怒らせるとは、いったいどんな内容だったのか。気になる。


「あの人、いったい何しに来たんですか?」


 そう問えば、ヴィンセントさんは答えるかどうか迷った顔をした。


「レイラ、他言無用で頼むぞ。実は、王都のギルドからハンターに復帰してくれと頼まれた」

「それは――」


 ヴィンセントさんは元S級ハンターと言っても、怪我が元で引退している。そんな人を復帰させる必要があるほど、魔族との戦いはひっ迫しているということだろうか?


「王家に伝わる秘術で、異世界から勇者が召喚されたらしい」

「は?」

「勇者召喚の儀式そのものは結構頻繁にやっているようだが、成功確率が物凄く低い。しかし今回ようやく召喚に成功したそうだ。そして俺にハンターに復帰して、勇者の指南役になって欲しいんだとさ」


 青天の霹靂とは正にこのことだ。異世界から勇者? 何か面倒な気しかしない。


 そしてこの時の俺の勘は、後に的中することになるのである。

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