ハワイで親父から教わったテンプレの利便性
隠れ無双のランキングフィーバーも終えた僕は、一種の放心状態のような感じに陥りました。というかストーリーが無駄に壮大すぎて全然筆力の無い僕には畳みきれなくなってきていたのです。
描写したい事があっても僕の力が足りなくて書く事がとても難しくなり、一種のスランプのような状態になりました。
「やべーどうすっかな」と考えていた僕は、とりあえず次作を書いてみる事にしました。
ここで僕は、再び異世界転生に手を出してみようかなと思い始めたのです。まぁ流石に前よりはちゃんと書けるだろうと思い、筆休めのつもりで新作のプロットを練り始めました。
ここら辺は記憶が確かではないのですが、このあたりの時期にランキングでは奴隷系の小説が流行っていました。「なるほど、時代は奴隷か」と世界史だと非難される為政者みたいなことを考えた僕は、奴隷をとりあえず出す事に決めました。
そんなこんなでできた作品が「転生したら奴隷だったんですが〜奴隷から始まる異世界事情〜」です。
タイトルから分かるように、この作品何を考えたのか主人公が奴隷です。主人公が奴隷になってるのです。この時点で僕はとんでもない過ちを犯していたのですが、当時の僕は気づいていませんでした。
つまり、分析力がない僕は何故奴隷ものがランキングを席巻していたのか理解していなかったのです。ここからはなろうの一般論に移ります。奴隷というものがなろうにおいて何故度々出てくるのか。
中世的な世界観だから? 一見これが正解に見えますが問題はそこではないのです。
奴隷というのは、なろうにとってとても便利な舞台装置となりえるのです。どういうことかを説明していきます。
まず、奴隷が出てくるのは異世界転生、もしくは転移ものが多いです。何故なのか。それはただの日本人である主人公に、惚れてしまうヒロインとしての位置付けが容易にできるからです。
例えば物語で、家庭の事情やら種族の事情やらで奴隷の女の子が出てきます。その子と主人公が知り合って、事件やら何やらを通して最終的に奴隷の女の子を救うんですね。
すると奴隷の子は、助けた主人公に対して恩人である事と、自分に対してこんなに優しく接してくれた人は初めて、という2つの強力な惚れ要素が加わるわけです。恐ろしいのがこの後者。これを使う事によってぽっと出の子が異世界では異端な主人公に惚れてもおかしくないのです。
これがただの異世界ヒロインだと、助けて貰ったとはいえ、日本人とかいう怪しげな主人公に惚れるには早くね? という疑問を髪に丸めてボッシュートできるわけです。
なんて、恐ろしいシステムなんだ。開発したやつは天才か?
しかし僕はそんな事気付いていなかったので、斬新さだけを求めて主人公を奴隷にしました。これはまさしくあの「王道が王道たる所以」のコピペに通ずるものがありますね。知らない人はグーグル先生に聞いてください。
そんなわけで連載を始めてみましたが、やはり流行をちゃんと理解していなかったので、全然評価がつきません。その頃僕は「あれれ〜おっかしいぞぉ?」と某眼鏡の少年のような気持ちでした。ちなみに僕は哀ちゃん派です。
とりあえず1話を見てみましょう。
どうやら人生に絶望したらしい主人公が異世界転生をします。言ってしまえばここの転生するまでのテンポも悪いですね。もうちょっと簡潔かつ分かりやすくしたいものです。
で、転生した主人公は鎖に繋がれてて奴隷だったというのが分かるまでが1話です。
いやー、これはなかなか酷いですね。まず転生ってタイトルに入ってるから転生するのは当たり前でそこにダラダラ時間を使ってるのが駄目だし、転生した後も主人公が奴隷になってるってことしか情報ないです。
この1話は「主人公が転生して奴隷になってた」ってだけの話を薄めただけですね。
これだと主人公がどんな奴なのかもよくわからないし、何よりチートスキル的なのも一切出てきませんので、異世界に転生した必要性、物語の広がりが一切感じられません。
結局主人公特有のスキルが出てくるのは3話目。遅いですね。これだと読者の興味を引く前に、皆去ってしまいます。
というか話を読んでても何がしたいのかさっぱり見えてこないので面白くなる気配があまりしません。これは隠れ無双の時より劣化していますな。
まぁ、そんなわけでポイントもいただけるはずもなく、二度目の異世界転生チャレンジは再び大敗を喫する事となったのです。
少し話は変わりますが、なろうで異世界ファンタジーの小説を見ると、殆どが中世風の世界観です。これは何故か。それはイメージがしやすいからです。
中世風とは言いましたが実際は、「ドラクエ風」です。そうゲームRPG的世界観。都合のいい中世なのです。日本人として生まれてファンタジーが好きな人はだいたいこの手のものには触れています。僕もドラクエシリーズは殆どやっています。最近フローラも良いよね、って思い始めました。
つまり世界観の共有が容易にできます。これは大きなメリットで、大した筆力がなかろうが同じような世界観を共有できるのです。凄まじきかな、ドラクエ。中世ファンタジーってよりドラクエファンタジーです。
たまに、いわゆる「テンプレファンタジー」はランキングに上がってくると、描写力が足りない、どこかで見た世界観、みたいな感想があったりしますが、それはそうかもしれません。けれどそんな作品でもランキングには上がります。つまり面白いと思う読者がたくさんいるのです。
なろうにいる読者の大半は、恐らく一般小説のように、「よっしゃ本読むぜ」と言った感じで本腰入れて本を読んでいるわけでは無いと思います。
「暇つぶし」で読んでる人が殆どでしょう。暇つぶしで読んでいる中で、偶然重厚な物語を見つけたりしたらそれだけは気合を入れて読む、そんなところなのです。
つまり、頭を使わなくても理解できる世界観、キャッチーなキャラクター、お約束的な展開というのはそう言った暇つぶし層に合致するのです。
これがテンプレが愛される理由。なろうのニーズに合わせた当然の選別の結果と言えるでしょう。だから多少文法がめちゃめちゃだったり、ストーリーがはちゃめちゃでも、ある程度気楽に読めるテンプレ感があれば、ランキングに上がるのです。
なんかこう書くとなろうを馬鹿にしてるように思う人がいるかもしれませんが逆です。僕はエンターテイメントとしてこういう収束は当然のことだと思っています。
練り込まれたシナリオ、重厚な世界観、複雑に入り乱れたキャラクター、確かにこういった作品というのは傑作と呼ばれますが、毎回それを見たいわけではないですよね。
エンターテイメントとして考えた時、極限までテンポを重視して邪魔を省き、軽いシナリオ、世界、キャラというのはとても効率的だと思います。だからこそ、なろうにはたまに100万字とかの超長編のファンタジーがランキングに上がったりしています。これこそが、テンプレでなくもっと重たいものが読みたいな、と思った時に打ち上がる作品なんだと思います。
なろうは割とバランス取れてるんです。真実はいつも1つなのです。
まぁつまりアイス食べすぎたらせんべい食べたくなるみたいな話です。
「その世界観的にそんな言葉遣いはおかしい。そんな魔法はおかしい」そういう意見があったらその方はもっとせんべいを食べるべきです。食べすぎた頃にはアイスも食べたくなって、「まぁファンタジーだしいっか。気楽に読めるし」みたいになるんじゃないでしょうか。
さて、話は戻りますが、転生奴隷を書いていて物語の広がりを考えるのはなかなか難しいことがわかりました。その世界特有の雰囲気なんてのを作れたらかなりいいんでしょうが、それは技量的にまだまだ厳しい。
そうなってくるとキャラクターとストーリーを尖らせないといけない。僕はどちらも欠けているとわかっていました。歌も下手で推理もできないコナンくんです。つまりクソガキなのです。
なので僕は、とりあえずどちらかを意識して次作を書こうと思ったのです。そして僕は「ストーリー」をとりあえず頑張って考えようと思いました。生まれたのが「リロード」です。
というわけで次に続く。(ネクストコナンズヒント:お金持ちの美女のヒモになりたい)