壁のシミとゲシュタルト心理学
夜中。友達四人で僕らは廃墟を探検していたんだ。昼はよく入っている場所だから、大丈夫と思っていたのだけど、夜に入るとまるで雰囲気が違う。別世界だ。
正直に言うと、僕はちょっとばかり後悔していた。
とても不気味で怖かったから。
「あれ見てよ、人の顔がある!」
壁のシミが顔のように見えた僕は大慌てでそう言った。昼間見た時には、確かなかったはずなんだ。
そして、それを聞くと、ヨシダ君がこんな事を言った。
「ゲシュタルト心理学で説明できるね」
?
ヨシダ君は物知りで、難しい話を色々と知っているんだ。
「なにそれ?」
と、僕が尋ねると、彼は淡々と説明した。
「この場合で言うと、人間は三つ点があればそこに人の顔を見出そうとしてしまうといったような性質のことだよ」
言いながら、彼はノートに三つ点を描いて僕に見せて来た。確かにそれは彼が言うように人の顔に見えた。
「きっと、あれもだから人の顔に見えるのさ」
そして、そう続けて来る。
僕はそれに対して「でも……」と言う。そして「昼間見た時には……、」とそう言いかけたのだけど、それを遮って他の一人がヨシダ君に同意した。
「俺はヨシダの意見が正しいと思う」
続けて他の連中も。
「僕も」
「僕も」
これで四対一。
どうにも僕の分が悪い。
そこで僕は気が付いた。
ん? 四対一?
僕らは四人しかいなかったはずだ。
そこで僕は壁のシミを見てみた。するとさっきまで無表情だったそれは、にっかりと笑っていたのだった。
ショートショートって、本来はこんな感じじゃないか?
と思いまして