異世界でスマートを質に
その日。
ナオミが北に向かって歩いていると怪しげな男が現れました。
「俺は、この異世界をスマートフォンでチートする男!」
男は小さな薄い板切れを手に持っていました。
五百万人の勇者を育てた大賢者の弟子である初めて見る物体でしたが、あれはおそらく魔法の道具に違いありません。
「例えばこのスマートフォンの天気アプリを使うとだな」
男はスマートフォンとやらの表面を軽く撫でました。
するとどうでしょう。
初夏だというの辺りの草原に雪が降り始めたではありませんか。
「フハハハア!どうだ!天候操作も!穀物相場も俺の思いのままだ!まさにこのスマートフォンこそが神の力なのだ!殺したいやつを写真機能でパチリとするだけで一瞬で始末するアプリだってあるのだぞ?どれ。このスマフォで貴様を」
「石の弾丸」(ストーンバレッド)
五百万人の勇者を育てた大賢者の弟子であるナオミはランクEの魔法使いがよく使う初歩的な攻撃魔法を発射しました。ナオミの足元にあった小石はスマートフォンとやらを持った男の顔をかすめ、あらぬ方向へと飛んでいきます。
「うおっ!・・・ふぅ・・・。あ、危なかった。だが残念だったな。おそらくは俺のスマートフォンを破壊しようとしたんだろうが、そんなものは命中しなければ
何の意味もない」
何の意味もない、ざらついたノイズをスマートフォンは移すだけす。
「そ、そんな!俺のスマートフォンがッ!!!」
男はスマートフォンの画面をタップしまくります。
「すいませんが、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「後にしろ!今それどころじゃない!!」
スマートフォンを叩きまくります。
そんな彼に、ナオミは尋ねます。
「磁石。というのを御存知ですか?」
「磁石?磁石だと?そうか!磁石か!さっきの石は磁石だったんだんだな!そのせいでスマフォが壊れて動かなくなったんだな!!」
「そんなわけないでしょう。そんなの火縄銃に人間が飲める温度の紅茶をかけて、熱膨張で撃てなくなる。って言うようなもんじゃないですか」
「な、それもそうだな。じゃあどうしてスマートフォンが動かないんだ?」
「その、スマートフォンとやらの横を見てください」
「横?横だと?」
横見ると。
headphone。
と書かれた小さな穴に、砂が詰まっていました。
「へ、ヘッドフォンの穴ににぃいいいいいいいい!!!」
「それから、下の部分も見てください」
ぐるりと一回転。
そこには。
battery。
と書かれた横長の大きめの穴が。
あ、これ致命的っすね。奥までぎゅう詰めやんけ。
「ああーぁあぁっぁぁあーーー!!!!スマフォの中に砂があああああああああ!!!!」
男はスマフォの画面をタップしたり、電源や音量のスイッチを押しまくったりします。
よほど動揺していたのでしょう。なぜか隙間の砂を掻き出そうという発想に至りません。
ナオミはゆっくりと歩いて男に近づきます。
「たぶん貴方は悪い人だと思うので、今からぶちのめしたいと思うのですが。構いませんね?」
「く、舐めやがって!別にスマフォがなくてもひ弱な魔法使いくらい俺の腕ひとつで」
「石の散弾銃」(ストーンショットガン)
「それで、これがその男の持っていた魔法の品なのですが」
ナオミはスマートフォン。(だったもの)を街のマジックショップに持っていきました。
「真夏に雪を降らせ、不作も豊作も、人の生き死にも自在ねぇ」
主人はスマフォの残骸をナオミに返しました。
「完全に壊れてるよ。なんの魔力も感じられないよ」
「やはりそうですか」
「ただ、珍しい金属を使ってるみたいだから指輪の材料くらいにはなるかもしれないね」
「そうですか。ありがとうございます」
戦利品の、ガラクタ改め壊れたスマートフォンは。
銀貨十枚で宝飾店に売れました。






