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冒険・じゃがいも討伐2

 さて、時間は少し巻き戻る。

 俺たちが農場地帯に到着したのは、昼過ぎだった。

 思ったよりも近いのは、無理なく往復できる距離に農場が作られているからだろう。

 早朝に農作物や家畜を卸しに行って、昼には戻ってこられる位置だ。


「ほいほい、そっちの若いお二人が見回りで、立派な冒険者さんたちが調査だね」


 書類を持った、今回の依頼担当らしきおじさんが出迎えてくれた。

 彼が言うには、俺たちと同乗したパーティは、仕事の目的が同じだが、内容が異なるらしい。

 もちろん、ベテランだし人数も多い彼らの方が、より危険で報酬が高い仕事を行うことになる。

 それが、じゃがいもが凶暴化した原因を調査することだった。

 俺たちは、あくまで農場周りを警備するだけ。

 夜になると、じゃがいもが活発になるらしい。

 夜行性なのか……?


「多分ね、昼間は光合成してて栄養が足りてるんだと思う。だけど夜になってお日様が沈んでしまうから、栄養を求めて家畜を襲うんじゃないかな」


 アリサの意見に、ベテランパーティもなるほど、と頷いている。


「確かにその可能性が高いわね。これは相手がじゃがいもだという固定観念を捨ててかかったほうがいいかもしれないわ」


 向こうの知識担当らしき魔術師の女性には、特に好印象のようだ。


「うちのパーティさ、見てわかると思うけど脳筋しかいないのよね。それに、他のパーティにちょっと頭が切れる人がいるかと思えば大体男でね……。女子で頭脳派ってすごく貴重なの。調査が一段落したら、手伝ってくれる?」


「はい、よろこんで!」


 女魔術師とアリサが、二人できゃっきゃうふふしている。

 俺は俺で、そういうのを見ているとこう、年頃特有のムラムラが。


「ほら、行くぞー」

「あー、まだ話途中なのにー」

「俺たちの管轄は違うだろうが。お前がこなきゃ、調査が始まらないんだよ」

「ってわけで、俺らは行くわ。坊主、まずは命を大事にだぞ。こんな依頼で死ぬなよ?」


「はい! 皆さんも気をつけて!」


 盗賊の人に頭をポフポフとされて、俺は彼らを見送った。

 子供扱いは面白くないが……俺はまだまだ未熟だしなあ……。


「ああいう、一人前の冒険者ってかっこいいよね……」


 アリサも彼らの姿に、憧れを抱いたらしい。

 特に、女魔術師なんか、知識神の神官的にはかなり理想的な姿だろうしな。

 魔術師は一般的に、知識神か、人間に魔法をもたらしたという魔神を信奉している。

 まあ、アリサは力の超神を宿して、全く別ベクトルの神官になってしまっているわけだが。


「よっし、アリサ、行こうぜ! この辺にどういう施設があるかとか、パトロールする道順とか案内してもらわないと」


「うん、そうだね! 行こう行こう!」


 俺たちの対応をしてくれるのは、農場の人間……というわけではなく、国から派遣された担当者らしい。


「こういう農家が集まった、大規模な農場には国から私のような役人が派遣されているのだよ。徴税官が主な仕事なんだが、地元からの陳情を直接拾い上げたりする役割もあってね」


「へえー……一人でやってるんですか?」


「うむ、こちらで妻子を作ってしまうと、汚職が発生するとかいう理由で、一人でいなければならないんだ……」


 うわ、厳しい。

 男として色々厳しい。


「大変っすね……」


「大変なんだよ……」


「?? 大変なの……?」


 女子には分からんかもしれん……。

 気を取り直して。


「主にこの辺りが、農作物を運搬する辺りだよ。一番広い通りになっている。どうやらじゃがいもは、こういう固く踏み固められたところにはやって来ないようで……」


「あっちが何かほじくり返されてますね」


「あ、根っこで歩いてるんだ? 私、ゴロゴロ転がってくるんだと思ってた」


「じゃあ、道で隔てられてるんなら家畜は襲われないんじゃないんですか?」


「それがね……」


 次に案内してもらったところは、なんと、道が半ばから破壊されている。


「ロッド、ここ、道が細くなってる。じゃがいもさんたち、多分地道にこの通路をほじくって行って、向こう側と繋げたみたい」


「げえ、じゃがいもの癖に知能があるのか!?」


「なるほど……。じゃがいもは通れる道を選んでいるというわけか……! それには気づかなかった……!」


「今はじゃがいも、どこにいるんですか?」


「ああ、昼間はじゃがいもは、恐らく森に隠れてその辺りの草木に紛れているのだと思う」


「葉っぱだけを出していたら、農家の人が見ないとなかなか分からないですもんね」


「いや、私もここに赴任してそれなりに長いから、じゃがいもの葉っぱなら見分けが付くんだが……奴ら、どうやら周囲の葉に擬態しているようで」


「げえ、じゃがいもの癖に悪知恵が働くのか!?」


「ふむむ、これって……」


 アリサが何かしら考え込んでいる。

 腐っても彼女は知識神の神官。それも、神に直接見初められる位には敬虔な信者なのだ。力の超神が宿ったのは事故だろう。


「なんかね、向こうのパーティの人達が言ってたことと、こっちで分かったことをまとめると、色々見えてくるかもしれない。あの、お役人さん」


「ああ、はい。何かな」


「あの、このじゃがいもたちがいた畑ってどっちなんですか?」


「それはちょうど、向こうのパーティが調べているところだと思うよ。君たちの仕事の範囲じゃないし、調べても報酬は増えないけど」


「行かせて下さい!」


 アリサが凄い熱意だ。

 俺は俺で、彼女がやる気になってるなら、それはそれで良いことだと思うから、


「俺からもお願いします」


「仕事熱心な子たちだなあ。よし、分かった」


 ほだされたみたいで、役人も俺たちの希望を認めてくれた。




 案内されるままに進んでいく。

 途中で、農家の人たちがお弁当を広げている光景に出会った。

 俺たちみたいな、年若い冒険者が二人きりというのは珍しいようで、「がんばれよ!」とか言われてふかしたじゃがいもを串に刺したやつをもらってしまった。

 アリサはマイ鉄串でじゃがいもをグサリ、である。

 もぐもぐ食べながら道を行く。


 現地に到着したら、どうやら先達のパーティたちは、調査を終えて散ったあとのようだった。


「けっこう掘り返して調べたようだ」


 役人の人についていくと、そこは無残にあちこちが掘り返された、畑のあとだった。

 聞けば、じゃがいもが抜け出た跡はもっと小さかったらしいのだが、さっきのパーティが調べる際に、あちこちを大きく掘り返したようだ。


「アリサ、これじゃ何だかわからないんじゃない?」


「ううん、私の予想が正しかったら、魔術師のお姉さんは同じところを調べるはずだから……」


 アリサはきょろきょろと、周囲を見回す。

 そしてすぐに、


「あった!」


 一際大きく抉られた部分に走っていった。

 いや、ここは……。

 大きく抉られたんじゃない。深く、大きく、最初から穴が開いていたのだ。

 なぜなら、こんな短時間でこれだけ大きな穴を掘るなんて、アリサでもなければ不可能だからだ。

 アリサならやれるね。あのパワーなら可能だろう。

 だが、普通の人間には無理だ。


「ねえ、見て。穴から、細い溝が、全部の穴に向かって伸びてるの。他に開いている穴は、全部この大きな穴につながってる」


「ええっと、つまりどういうことなんだ?」


「全部のじゃがいもが、もともとは一つだったのよ。おかしくなっちゃったじゃがいもが、根を伸ばしていって、自分の分身をたくさん作ったの。地下茎で繋がってたのよ! だから、大本になるのはこの地下。おかしくなった原因があると思う」


「おお……」


「なんと……! だが、暗くて見えないな。明かりを持って来よう」


 役人の人が走り去っていく。


「一応、私は輝きの祈りを使えるけど……」


「それで照らせば少しは分かるんじゃないか?」


「ううん。それを使うとね、光の範囲にいる人や動物が、その……みんなムキムキになっちゃうから……」


「危険だ……!!」


 その魔法は封印だな。

 俺たちは大人しく役人の人が戻るのを待つことになった。

 結局、戻ってくる頃には夕方になっていて、持ってきてもらったランタンに紐をつけて下まで垂らして……それで見えたのは、何か平たい人造物みたいな石の床がどこまでも続いている姿だった。

 これは、なんだろう。


「何かなあ……」


 アリサも首を捻っている。

 この依頼を受けてから、アリサの知識の豊富さには舌を巻いている。

 そのアリサが知らないのだから、これは何か普通じゃないものなんじゃないだろうか。


「つまり……農場の下に何かがある、と」


「そうみたいです」


 顔を見合わせる、俺たちと役人。

 これって、じゃがいも討伐で終わらないんじゃないだろうか。

 そんな予感がした。

1の終わりには、次の話で繋がる予定

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