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再会は冒険の始まりに

「ベッドはね、だめ。私寝返り打ったとき絶対にベッド壊す自信があるから……!!」


 アリサが力説した。

 なるほど……思ったよりも日常生活に不便なものなんだな、力の超神様は……。


「だから私、床に寝るね」


「そりゃあダメだろう。少なくとも、男の俺がベッドで、女のアリサが床なんて俺はヤだぞ!」


「そ、そうね。床だってちょっと力んだら穴を開けちゃうから……」


「そういう問題だったのか……!!」


 俺はうーむ、と考え込む。

 年頃の男として、可愛い幼馴染と一緒の部屋なのだ。

 気持ちが高揚しないと言えば嘘になる。だが、そんな気持ちは、アリサに関わる色々な厄介ごとを前にして雲散霧消してしまう。

 部屋の大きさは、ベッドがあって、床があって、机代わりの板が壁に打ち付けられていて。

 おや?

 窓際に、太い釘が打ち込まれている。対面の扉側にもだ。

 これはひょっとして……。


「アリサ、ちょっと待ってろ。壊れないベッドを作ってやる」


 俺は、冒険で使うロープを用意する。

 長さは10mくらい。

 人の体重を充分支えられる強度があるから問題ないだろう。

 これを釘に引っ掛けて、部屋を横切るように渡して……。

 間に、毛布を張る。

 紐でこれを固定すれば……。


「即席のハンモックベッドだ!」


「す、すごーい!!」


 ベッドの上に誕生したハンモックに、アリサは感激の声をあげた。

 うん、そういうところ、なんか昔の小さかった頃と変わってないよな。

 大変パワフルになってはしまったが、アリサは間違いなく、俺と約束を交わしたアリサのままなのだと分かって、俺はちょっと嬉しくなった。

 ちなみに、窓際や扉の近くに打ち付けられていた釘は、以前ここでハンモックを張った奴がいることを意味していた。これは別に俺の創意工夫じゃなくて、気付いたからやっただけなんだけどな。


「とりあえずさ、ここを拠点にして、お金を稼ごう。それで、仕事をしながら、アリサから力の超神様を取り除く手段を探そうぜ」


「うん……! ロッド、ありがとう! ……でもいいのかな? 一応力の超神様も偉い神様だから、取り除くとか言っちゃって」


「あの神様、大らかそうだから多分大丈夫じゃないかな……」


「ああ、うん、確かにそんな気がする……」


「あ、あのさ、こういうのを言うのってちょっと気が引けるんだけど……お湯、頼んでいい? あ、うん、やっぱりいい。お金かかるもんね」


「うっ……お、女の子は体洗わなきゃダメだろう……! ええい、お湯を頼むぞ!」



 風呂のついている宿なんて上等なところに泊まれるわけも無いし、外の大浴場は夜には閉まってしまう。

 そんなわけで、酒場の上に位置するこの宿は、お金を払って体を拭くためのお湯を持ってきてもらう。

 大きな桶を持った男の人たちがやって来た。

 普段は冒険者だが、たまにこうやって宿で力仕事のバイトをしているらしい。

 幸運神から借りた金から代金とチップを払い、続いてアリサが彼らと交渉を始めた。


「あの、木桶じゃなくて、金属の桶あります? え、お鍋? あ、はい、それでいいです。あの、木桶だと握りつぶしちゃうんで……」


 ジョークだと思ってハハハハハと笑う男たちだが、目の前でアリサが、鉄貨を人差し指と中指だけで折り曲げてみせたら納得したらしい。

 畳まれた鉄貨は、アリサがまた指の力だけで元に戻そうと……して、千切った。


「あああああっ、お、お金があ! ご、ごめんなさいロッドー!」


「いや、いいよいいよ、鉄貨の一枚くらい……。だけど金の管理も俺がやったほうが良さそうだな」


 やって来たのは、取っ手まで金属製の無骨な鍋だ。

 俺は部屋の外に出て、アリサが体を洗い終わるのを待つ。

 扉一枚隔てて、あられもない姿の幼馴染がいると思うとドキドキする。

 だが、手の中の千切られた鉄貨を見るとスッと冷静になる。

 これは、何とかしてやらないと、アリサはまともな女の子としての生活は送れないのではないか。


「あー、いいお湯だったー」


 サッパリした感じのアリサを見て、またドキッとする。

 うむ、俺の将来のためにも、何とかしてやろう。



 夜も遅くなると、宿はすぐに灯を落としてしまう。

 灯りの油が勿体無いからだが、窓から差し込む星明りだけが、屋内を照らす光になるから、とても暗い。

 頭上からちょっとずれたところでは、ハンモックがぶら下がり、アリサが寝ている。

 俺は眠れずに、寝返りを打った。

 これからの事を考える。

 パーティリーダーになったことで、まず責任というやつができた。

 借金だって背負ってしまった。

 アリサのこともある。

 昨日までお気楽な雇われ冒険者だったのが、いきなり背負うものがたくさんできてしまったのだ。

 今後の事で不安にならないほうがおかしい。

 やれるだろうか、やっていけるだろうか。

 そんな事を考えていたら、


「ねえ、ロッド、寝ちゃった?」


「いや、まだ起きてるよ。どうした?」


「うん、あのね。ロッドとこうして、一緒に寝るの、すごく久しぶりだなと思って……」


「ああ、そうだよな。アリサ、すぐに神殿に入っちゃったから、ずっと離れ離れだったもんな」


「そうだよね。私、あの後ね、知識神の本神殿まで修行に行ったの。色々、筋がいいって褒められたのよ。色々なことも勉強したから、私、きっと冒険で役に立つわ。だからね」


 ハンモックから、アリサが身を乗り出してきた。


「一人で抱えこまないで。私だって、その……だめだめな神官かもしれないけど、それでももう子供じゃないんだから。頼ってもいいのよ!」


 暗くて顔は良く見えなくても、そう言うアリサの表情が想像できて、ちょっと俺は笑ってしまった。

 きっと、精一杯まじめな顔をしているんだろう。


「もうー! 何を笑ってるのー!」


「あはは、ご、ごめん。頼りにするよ、アリサ。何せ、俺は手先の器用さくらいしかとりえがないからさ」


「ロッドは凄いよ! それは私が保証する。や、まだそこまでロッドのこと知らないけど……でも、保証する!」


「おう、保証される! ってことで、寝ようか! 明日から仕事だぞ!」


「おー!」


 なんだか、ちょっとバカっぽいやり取りだったが、不思議と心の中のモヤモヤは晴れた。

 アリサだって、前向きにがんばろうとしているのだ。

 俺が一人で悩んでどうする。

 悩むなら二人で悩もう。

 どうしようもなければ、力の超神様を頼って力づくの正面突破だ。

 そうだ、それでいこう。

 割り切った途端、眠気が襲ってきた。

 いろいろあった一日だった……。

 いろいろありすぎた……。

 だが、明日からもまたいろいろあるのだろう。

 その予想は、




 もちろん的中した。


「これにしよう、ロッド!」


 アリサが指差したのは、冒険神のカウンター手前に貼り出された、依頼の数々。

 依頼内容、最低拘束日数、予想される危険、報酬、依頼人。

 それらの内容が記された紙が、何枚も貼り付けられている。

 果たして、アリサが選択したのは……。


『育ちすぎたジャガイモが家畜を襲っています! ジャガイモを討伐して下さい!』


「……なんだ、これは……!」


「私のこの力も活かせて、しかも食材をゲットできるかもだよ、ロッド! これがいいよ!」


「俺たちの初めての依頼が、ジャガイモ討伐だと……!? いや、だが、らしいかもしれない……」


 俺はこの依頼を剥がし、カウンターに提出する。

 ぽむ、とすぐに受理印が押された。


「なるほど、この依頼ならば、お二人でもこなせそうですね。幸運をお祈りしています!」


 冒険神の神官に見送られ……。


「はいっ、行って来ます!」


 元気なアリサの声とともに、俺たちの冒険が始まるのだった。

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