美少女とヘタレドラゴン
その日の夕方、人が来なさそうな森を見つけて僕とシルヴィはそこへ降り立った。
だいぶ長いこと飛んでいたというのに僕はそんなに疲れていなかった。
とりあえず夜は冷え込んでくるし、焚き火をするために必要な木材を集めようと、僕は一匹で動き始めた。
シルヴィは、僕が降り立った場所で荷物の整理と、持ってきた食材の確認をしている。
僕は寒さとか感じないけど、シルヴィが風邪をひいたら大変だからな…。
そう思いながら、僕は落ちている枝を咥えては背中に乗せ、咥えては背中に乗せという地味な作業を繰り返した。
一匹の立派なドラゴンがまるで巣を作る鳥のようにせっせとそんな作業をしているのはなんともおかしな光景である。
一通り木材が集まると、僕はシルヴィがいる方へと戻って行った。
『シルヴィ、焚き火のための木、集めて来たよ』
「わぁ! ありがとう! 少し冷え込んできたと思ったのよ。ねぇジル、もう一つお願いしてもいい?」
嬉しそうに僕の背中から木材を下ろしたシルヴィは、人差し指を立てて、僕に笑いかけながらそう問いかける。
勿論僕が嫌と言えるはずもなく、小さく頷いてから聞き返す。
『なに?』
「地面を凍らせることが出来るって言ってたじゃない? それをやってみて欲しいの。この辺り、川がないみたいで…料理しようにも水が無いのよ」
『わかった』
僕はシルヴィに背を向けて、前足で軽くトンっと地面を叩く。
すると僕の足が向いている方にある地面は一瞬で凍りついた。
その氷の上にはとげとげとした形の氷が重なり合って、花のように見える氷の塊がいくつも見える。
これは、僕が少しだけ力を弱めて作り出したものだった。
地面を覆い隠すように張っている氷にもくっついているため、僕はその氷の塊をなるべく崩さないように気を付けながら咥えて地面の氷から起用に剥がす。
そして体の向きを変えると、火をおこそうとしているシルヴィの横にあった鍋にその氷を入れた。
「わぁ…すごい、これ綺麗ね…」
シルヴィは鍋に入った氷の花を見て、瞳を輝かせる。
なんだか鍋が究極に空気を壊している気がするんだけど、そう思うのは僕だけだろうか。
『この氷なら泥とかもついてないし、綺麗な水として使えると思う…』
「でもこれ、溶かしちゃうのちょっと勿体ないわね」
『…なんで?』
「だってこんなに綺麗なのよ?ほら、夕日が当たってオレンジ色に輝いてる」
シルヴィは嬉しそうにそういうが、どうしても僕はその下の黒くて丸い鍋が気になって氷の綺麗さはわからなかった。
『でも、それそんな貴重なものでもないし…まだいっぱいあるよ』
僕はシルヴィの腕を前足の爪のとがってない部分でつついて、さっき自分が凍らせた地面の方に頭を振る。
シルヴィは、凍り付いた地面が僕のでかい図体のせいで見えてなかったらしく、丁度日が当たって輝く氷の花畑を見て、瞳を輝かせた。
「すごい…! ジル、あなたきっと素敵な彫刻家になれるわよ!」
シルヴィは、僕が作り出した氷の花に滑らないように慎重に近づいていくとシルヴィの顔よりも二回り以上も大きな氷の花を地面の氷から剥がして持ち上げ、その氷の横から顔を覗かせた。
「ね、綺麗でしょう?」
心底嬉しそうなシルヴィの笑顔が、夕日に照らされてオレンジ色に光る。
『…うん、綺麗だ…すごく…』
僕の口から、そう言葉が零れ落ちる。
正直氷の花なんかどうでもいい。
いや、むしろ氷の花邪魔なんだけど…。
初めて会った時もそうだったが、もう一度僕はシルヴィに見とれてしまっていた。
……神様ありがとう。
今日はナメクジや雑草に生まれ変わる夢は見なさそうな気がする。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ジルが拾ってきてくれた木材に火をつけたあと、私は夕飯の準備をせっせと進めていた。
私の隣では小さめな山のように丸まったドラゴンの姿のジルが眠っている。
というのも、ジルはなんだかここに着いてから眠そうで、私は、大丈夫とか、手伝うよとかってジルが言っているのを無視して、いいからジルは少し寝なさい! と少し強めな口調で言ったのだ。
その結果、こんな感じで白い山が出来ている。
夕飯の準備ができ、ジルを起こそうと顔がある方に回り込んだ。
両前足の上に顔を乗せて、ジルはぐっすりと眠っていた。
寝不足だったのかしら…。
今朝も随分早くから起きていたみたいだったし…。
もう少し、寝かせてあげて置いた方がいいのかな。
私はそう思い直すと、ジルの顔をじっと見つめる。
昔、私の親代わりになってくれてたドラゴンは、何度も戦ったことがあったのかいたる所に傷があったし、翼もボロボロだった。
ジルには、ああなって欲しくないな。
そっと、ジルの顔に手を乗せてみる。
鱗が綺麗に揃っていて、すべすべとして気持ちがいい。
本当に…綺麗なドラゴン。
生まれたばかりだとこんなに綺麗なのに、人間と戦う度に傷ついていく。
どうして人間もドラゴンも共存しようとしないのか…私には理解できないわ。
雪のような体に、炎のような尻尾。
不思議な色合いだけど…本当にジルはスノードラゴンなのかしら…。
だって、炎が効かないスノードラゴンなんて、聞いたことがないもの。
今日のは、魔法が著しく弱かったっていうことなのかな…。
でも、そんなに弱そうには見えなかったけど…。
私はぐっすりと眠っているジルの頭を優しく撫で始めた。
最初の方は身動ぎもせずに眠っていたジルだったが、少し経つとくすぐったそうに頭を小さく振った。
…可愛い…!
人間はドラゴンは怖いというけど、私にとってはドラゴンは犬や猫のように人に癒しを与えてくれる動物と同じに見える。
起こさない方がいいと思っていても、少しだけ悪戯をしたくなるというのが子供心というもの。
17歳はもう子供ではないということを考えるのはやめておいて、私はもう少し優しく、くすぐるようにジルの頭を撫でてみた。
すると白いドラゴンはふるふると頭を振ったかと思うと、紫色の瞳をぱちっと開けた。
そしてすぐに紫色の目は至近距離にいた私の姿を捉えると、ドラゴンのジルは跳ね起きた。
『うわぁっ!? し…シルヴィ…!?』
「おはよう、ジル。と言ってももう夜だけど…。また私のこと怖いとか思ってるの?」
『思ってない! そうじゃなくて…今のは…その…』
私は、ジルが嘘をつけない性格だというのは昼間の出来事でわかったから、今の驚きが何に向けたものなのか深く追求することはしなかった。
「とりあえず、人間の姿になった方がご飯食べやすいでしょう?」
私はジルに向けて、魔法の呪文を唱え始めた。
『…! ちょっと待って、今人間にしちゃダメ…』
そんなジルの声が聞こえ終わる前には私の詠唱が終わり、ジルの姿は私とそこまで変わりない大きさの人間になっていた。
どうして戻しちゃダメなの?
そう聞く前に、答えは目の前にあった。
ジルの顔と耳が真っ赤に染まっていたのだ。
「ジル…どうしたの? 顔が真っ赤…」
「わぁぁ! えっとこれはその…起きたら…シルヴィがすごく近くに居たからびっくりし…て…」
ジルは自分の両手で顔を覆い、私に向かって必死にそう言う。
だが最後までいう前に、ジルの顔は更に赤く染まった。
「あ…あれ?」
ジルの頭から次々と血が流れだしていたのだ。
「え…!? もしかして今朝あいつらに殴られた傷!?」
「あ…あぁ…それかな…。ドラゴンに戻ったら痛みをほとんど感じなくなってたから…忘れ…て…た…」
「自分の怪我忘れてどうするのよ!?」
私の突っ込みも虚しく、ジルはフラフラと左右に揺れている。
恐らく貧血だろう。
私はジルの頭の傷に向かって、素早く呪文の詠唱をした。
すると、ジルの頭の傷は綺麗に塞がった。
白い髪と顔についた血はそのままだけど…。
「あ…ありがとう、シルヴィ…」
そこまで言うと、ジルは起きたばかりだというのにぱたりと私の膝の上に倒れ込んで動かなくなってしまった。
「じ…ジル?」
そう呼んでも、ジルは返事をせずに、私の膝の上で目を閉じている。
ジルの綺麗な寝顔に、私は一瞬戸惑った。
ジルはあのとても後ろ向きな性格がなければ、とてもモテそうだと、シルヴィは思っていた。
髪やまつ毛は雪のように白くてとても綺麗で、薄い紫色の瞳は自信なさげにも見えるが優しそうで…。
特に笑った顔なんて男の人の姿をしているのにとても可愛いのだ。
…もう少し、自分に自信を持てばいいのよ、ジルは。
そう思いながら私はジルを担いで布を敷いた場所に連れていった。
…それにしても軽いわ…。
前世ではちゃんと食べてたのかしら。
腕だって私と変わらないぐらい細いみたいだし…。
私はジルを寝かせて毛布を掛け、顔についた血は拭いてやった。
そうして一人で夕飯を食べながら思う。
…ジルと一緒に、ご飯食べたかったなぁ…。
明日はもっといっぱいお話したいなぁ…。
明日はもっと笑ってくれるかなぁ…。
私はちらりとジルの姿を見てから、小さく微笑むのだった。
明日が…楽しみ。
読んでくださってありがとうございます!
よければブックマーク、感想、評価等宜しくお願いします!




