ある男の追憶
今、私は緩やか且つ穏やかな死の淵に就いている。
天寿を全うした体は端から静かに崩れ去り、最早私の足先は存在していない。
しかし、この崩壊が私の思考すら飲み込むまでにはまだ大分時間があるようだった。
思い返せば、私は何度この長大な寿命を呪ったことか。
何度住まいを移し、新たな暮らしを始めたことか。
何度友を、師を、愛しい人を、何もかも奪い去る時間を恨んだことか。
何度過ぎ行く時間を睨み付け、輝ける過去に思いをはせたことか。
最早数えきることはできない。この膨大な時間に収まる思い出を全て思い出すことも。
しかし、鮮明に思い出せる記憶はある。
これまでの長い人生からすれば、ほんの一時の些細な思い出だ。
だが、あの時がまさしく私を形作った最後の時なのだ。
私は消え果てるその最後の時まで、しばしの夢を見よう。
暖かだった時の、永遠に覚めぬ夢を…
―草原に生えた木の根元にある岩板に刻まれた文字―
初投稿作品です。
こういう風に投稿する事自体初めてで、いやに緊張しますね(汗)。
取り敢えずこの話は短編小説として投稿しましたが、この死んだ男、執筆中の連載
小説の主人公です。
多分死ぬ場面まで続けられませんが、そちらも読んで頂いて「あ、こいつがああい
う風に死ぬんだ…」と思って頂けたら幸いです。
ただの日常ものですが、多分これが彼の一番楽しかったころなんでしょう…。