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どうやらピンチ脱出の模様

 肩口から血を撒き散らすオーガだが、血は程なく止まるだろう。こいつは自己再生するモンスターだ。

 ここはやはり頭を落とすべきだ。

 首筋に何度も刀を振り下ろし、何度目かでなんとか首を切り落とした所でオレはへたりこんでしまった。


 「大丈夫かね、若いの」

 声のする方を見るとドワーフが近づいてくる。手にしていたメイスを腰に納めて近づいてくる。

 ちょっと苦しかったがオレは立ち上がり、刀を一振りして裾で刀身を拭くと鞘に納めた。

 礼儀には礼儀で応じないとね。


 「・・・そんな格好で戦っておったのか」

 すぐには応えられない。荒れた息を整えながらだから話すのが苦しい。

 「ちょっと事情がありまして」

 普通に会話が通じそうだ。

 外国語だったら色んな意味でアウトだったろう。

 「よくもまあ切り落とせたもんじゃな」

 「そちらこそ。蹴られたのによく平気でしたね」

 ドワーフは方形盾を悲しそうな顔で見つめる。

 「こいつが無事に済まなかったわい」

 盾を反転して裏返しにして見せてくれた。盾の中に太い杭が仕込んであるが、曲がってしまっている。

 オーガに蹴飛ばされる前に杭を地面に打ち込んでいたのか。

 足をぶつけて蹴躓くと痛いよね、そりゃ。

 「地面のほうが持たんかったらワシも吹き飛んでおったろうな」

 オレだったら死んでます。

 掠っただけで多分死んでます。

 咆哮一つでも死んでたかもしれない。

 

 厳つい顔のケンタウロスが近づいてくる。

 「おお、ワシの仲間じゃよ。気にせんでええ」

 ドワーフが手でなんか合図するとケンタウロスが立ち止まる。

 弓を肩にかけて一礼してきたんで目礼だけしておく。弓矢の援護はこの人馬族がやってたのか。

 吹っ飛ばされた方のケンタウロスに駆け寄っていく。

 「そうそう、ワシの名はドルゴンという。お前さんは?」

 どうするか。

 ドワーフ族は義理堅い種族だ。

 ひっかける相手としては心苦しいが情報のためなら演技も必要だ。

 「・・・実は自分の名前を思い出せないのですが」

 さすがにVRMMORPGやってますとかありえない。

 リストバンドのプレートだって本当に自分のものかあやしいし。運営など信用なるかい。

 「ドルゴンさん、怪我はないですか?」

 神官らしき青年が声をかけて近づいてくる。若い。牧歌的だ。オーガに脅かされた影響なのかまだ顔が蒼ざめている。

 「ワシはいい。こちらの御仁から先にしてくれんか?」

 青年は目礼すると小さな声で呪文を唱えて祈りを捧げ、両手をオレに向けてかざす。

 体中の痛みが引いていく。神聖魔法の回復呪文だ。

 ウサギに食らった怪我の分までついでに直してもらった。ラッキー。

 「私はセルジュといいます。助けていただきありがとうございました」

 そういい残すとケンタウロスの方に向かう。

 「それでじゃがな」

 ドルゴンさんはオーガに近づき胴体の首があった所から浮き出ている魔石を右手で示す。

 「こいつはお前さんが止めを刺したんじゃからお前さんのものでええじゃろう」

 最初から最後まで役に立たなかった男-----弓矢を持ってる人間、多分猟師-----はオークの死体を漁っていた。

 こっち側を見るとなんか不満そうな顔つきになる。素直すぎる。

 「すまぬがワシらは今日のうちにあの山を一つ、越えねばならん。急ぎの用でな」

 下ってきたオレとは逆方向か。

 「一番近くの村か町はどちらに行けばいいですか?」

 まあ川沿いに行けばいいんだろうけどね。

 「それなら川沿いに下っていけば良い。半日とかからずタウの村に着くじゃろう」

 一人じゃちょっと心細いんだけどなー

 「なに、またオーガでも出ん限りお前さんなら大丈夫そうじゃが」

 顔に出てましたか。オレの顔面も素直すぎる。

 つかフラグ立てたんじゃねないよね?

 オーガとかマジ勘弁。

 「ワシとあのケンタウロスどもはあの山の向こう側、デリアリの町を根城にしとる冒険者じゃよ。縁があったら会うこともあろうよ」

 さいですか。しょうがない、歩くか。

 「冒険者ギルドは村にはないですよね?」

 「ないわな。タウよりさらに歩いた先にフェリディの町にならある。タウからなら歩いて1日ってとこじゃろ」

 セルジュさんが猟師に向けて催促してる。本当に急いでるようだ。

 弓矢を持ってたケンタウロスが槍持ちのケンタウロスに説教をしてるし。なんか殺伐としてきたな。

 「ドルゴンさん、急ぎませんと」

 どうも立ち話もし難い雰囲気。オレにも話しかけてくる。

 「申し訳ない、どうしても急がないといけないのです・・・タウの村の教会にブレゲさんという方がいるはずです。私の名を出して頂ければ力になってくれると思います」

 ふむ。

 とか少しの間、沈思黙考してるうちにもう出立する勢いだ。

 目礼して彼らは立ち去っていく。あっさり風味だ。


 ・・・また一人ぼっちだがしゃあない。

 やれることは早目にやっておこう。


 オーガの頭があった所から現れた魔石を確認する。

 いや・・・こいつは魔水晶だろう。球体をしている。

 魔石が一定の魔力を溜めると魔晶石をその内部に生む。

 魔晶石も一定の魔力を溜めると魔水晶をその内部に生む。

 魔水晶が一定の魔力を溜めると・・・魔結晶へと昇華する。


 魔水晶は形状が球体であり、魔力を溜め込んでいくと放つ光が強くなっていく。こいつは魔水晶としてはそこそこと見た。

 とはいえ、ギルドに持ち込めば魔石とは比較にならない金になるだろう。

 猟師さんが未練を残すのも分かる。

 左手で拾うとリストバンドの魔石と融合し吸収してしまうので右手で拾う。

 肩帯の小物入れに仕舞っておく。


 オーガは腰布だけの丸裸かと思ったら首輪をしていたようだ。

 首輪に4つ、魔晶石が嵌っている。魔晶石には金属製の枠があしらってあった・・・つまりこの首輪はマジック・アイテムだ。

 思い当たるマジック・アイテムがある。【隷属の首輪】だろう。

 オーガ用のせいだろう、太いわ厚いわで持ち上げられないほど重い。バックル部分とかまるで城門のような代物だ。

 試しに魔晶石のある部分のそばを刀で切ってみる。

 あっさり両断できる。どんだけー


 持ち運ぶのに不便だから切り取った首輪の皮部分も削いでやる。

 枠付きの魔晶石は左手で触って吸収はしない。枠に魔術式を組み込んであるからだ。

 4つの魔晶石(ただし枠付き)を回収し終わって、オーガの死体をみると・・・首と腕の切断部分の肉が盛り上がっていた。

 どんだけ再生力あるんだオーガくん。

 オークの死体は全部で7体、魔石は全て回収済みで残ってない。装備は人間であるオレがつけても村の衆が誤解すること間違いなしなので回収は却下だ。

 世紀末で略奪を繰り返すヒャッハーな展開はやめておきたい。


 オーガの死体はどうするか。

 背中の皮なんかは装備品に加工するのに丁度良い素材だ。かといってここで剥いで持ち運ぶのはムリだ。放置決定。

 ドロップアイテムはない。


 森の方に注意しながら渓流沿いに下っていくことにする。

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