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交友

 サビーネばかりじゃなかった。

 全員から質問攻めに。お前ら元気じゃねえか。

「あ、この魔法は一体どんな魔法なんですか?見たことありません!」

「すごーい、こんなに精霊が強化されてるのなんでー?」

「牙も爪も届いちゃいないのに何この威力?」

「何故ドラゴンやジャイアント、あまつさえ神々までが徒党を組んでいたのでしょう?」

 サビーネが一番イヤな事を指摘してるな。

 混乱に乗じて明日にしようと思ってるんだが、大丈夫か?

「質問もいいがまだメシも食ってない。後にしないか?」

 満腹になったら眠くなるだろ。

 オレも夕飯食ったら風呂はいいから眠りたい。

「飯!」

 いいぞ。

 カティアが食いついた。

 杜撰ながらも計画通り。

 サビーネが何か言いたそうな顔だがここはスルーだ。許せ。

「もう一回宿を出て飯にしよう」


 まだ町の屋台は猪肉の料理が安い。

 生肉ではなく保存用に干してある肉だが、熟成があまり進んでいないようだ。

 それでも旨い。

 宿から一番近い飯屋なんだが注文追加しちゃいましたよ。

 あのサーシャが。

 オレも2回追加した。

 カティアは数えていませんでした。お前は食いすぎ。

 サビーネはあきれた顔だがサーシャとお相伴で1回だけ追加注文してたよな。

 ラクエルはこういった料理は食えない訳だが、胡桃を食い尽くしてしまったようだ。

 実に悲しい顔を見せる。しょうがなくヒマワリの種をポリポリ食っていた。

 そして食事終了。

 いい感じで満腹になったことだろう。サーシャの目がもう眠たそうになっている。

 いいぞ。

 1人でも早めに寝てくれたら面倒が少なくなって助かる。

 いいぞ。

 サビーネも眠そうな雰囲気だ。

 いいぞ。

「なんか悪い顔だねー」

 オレの青を覗き込んだラクエルが指摘した。

 もっと悪い顔を作って言い返した。

「おう。ラクエルも明日は食うものを買い込んでいいぞ」

 カティアもなんか悪い顔を作っていやがる。

 お前ってば、まさか。

「おっちゃん、この煮込みもう一皿!」

 まだ食うのかよ。


 健啖家が本領発揮したので安い料理なのに出費はいつもより多かった。

 まあそのおかげか、宿に帰ったらサーシャとサビーネは寝てしまった。

 残り3人で武具の手入れを終えるとカティアも眠りにつく。

 さすがにいつものトレーニングは無理だろう。

 残るはラクエルか。

 丁度いいから聞いておきたいことを聞いておくか。

「あの女神様から何か礼を言われていたみたいだが」

「ああ、あれかー」

 何故か遠い目をする。

 何だ?

「サーシャちゃん達が寝てるなら丁度いいかもねー」

「何がだ?」

「前に言えないって言ってたこと。もう言えるから」

「え?」

「でもご主人様にだけ」

 ラクエルがオレに寄り添い語りだした。

 意外な話になった。


 彼女が神託を与られえ、彼女が暗黒魔法の神官となったのは遥か昔、らしい。

 神託を与えた神の名はハーデス。

 ただ記憶が定かではない、というのだ。

 それでも彼女には科せられた枷があり、それに見合う物が未来に用意されていることが理解できていたのだとか。

 その辺りは彼女自身も根拠が明確でなかった。

 ただ神託ではそうだ、と言う。


 ラクエルには彼女自身への神託と共に別の伝言が神託として預けられていた、らしい。

 何が預けられていたのか、内容は分からないようだ。

 そしてラクエルは伝言を伝え、その役目を果たしたようだ。

「それでもう色々と話していいみたい。一つ目の枷の分だけだけどねー」

 なんかまだ訳ありで話せない部分もあるらしい。


 ハーデス神か。

 暗黒の神、というのは正鵠を射ていないだろう。

 冥界の王と言うべきだ。

 英雄たちの魂はエリュシオンへと集められているそうだが、その支配もまたこの神様の領分だった。

 誤解を恐れず言うなら天国も地獄もこの神の支配下にあったのだ。

 そんな神が女神デメテルと共に大地母神ガイアと消えてしまった。

 どこまでも不遇な神様だよなあ。

 そして今や冥界を支配して管理しているのは女神ヘラになっているのだとか。

 一方で大神ゼウスだが、鍛冶神として雷霆を鍛えているとか立場変わりすぎだろう。

 この夫婦は今でも12柱神に数えられているようだ。


 女神ペルセフォネーが礼を言ったのはハーデス神からの伝言を受け取ったことのお礼、だと言う事らしい。

「で、お前はあの女神様から何か貰っているのか?」

「言えない」

 この小悪魔め。またそれを持ち出すのか。

「ではこの先がどうなるか、神託もない、か」

「神様だってそこまで便利じゃないよー」

 そうですか。

 自力で努力しない人間にまで手を差し伸べる神様もそうはいませんよね。

 自助努力でどうにかしたい。

 でもね。

「続きは明日だな。先に寝る」

「おやすみー」

 睡眠欲に負けてアッサリと意識を手放した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


《これは望んでいた結果なのかな?》

「ん?それは違うね。望んでいたのは事態が進むことそのものだよ。結果はどうでも良かったんだよねえ」

 こいつ。

 この笑い顔を止める方法ってないんだろうか。

 大嫌いだ。


「いや、面白そうな方向に進んでいるとは思うけどね。それでもいくつか想像していたことから外れている」

 またそんな顔をする。

「だからこそ意味がない。意味がないけど面白い。それで十分なんだよ」

《何を言いたいのか分からないよ》

「キミ達に分かって貰う必要なんてないよ」

 急に椅子から立ち上がると歩き回る。

 こいつが考え事をしている証拠だ。

「キミ達は誤解してるかもしれないがね、これでも彼に期待しているんだよ?」

《そうは見えないよ》

「そうかね。でもねえ、彼が証明してくれるのなら本当に助かるんだよ?」

 急に笑い顔が消えた。

 珍しい事もあったもんだ。

 ボクの兄弟達もビックリしている。


 彼はいつものようにボクの4つある角を触ってきた。

 愛でるように。

 いっつも思うけど気持ち悪い。

「そう、彼にできるのなら私にもできるさ」

 本当、こいつはキライだ。

 言ってることも分からない。

 そしてボク等の望むものは今日も得られなかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 朝が来た。

 本当は寝坊よろしくもっと眠っていたかったんですが。

 女神様の声に叩き起こされました。目覚まし時計ですか、貴女は。

(若い者ならば朝早くから自らの務めを果たす事です。さっさと起きなさい)

 はい、お母様。

 いえ、ペルセフォネー様。

 仰る事に反論の余地などありませんでした。

 サーシャ達は全員起きている。全く、みっともないご主人様だよな。


 装備を整えて朝飯を済ませてラクエルの食糧を調達すると町を出た。

 【転移跳躍】を念じる。

 行き先は緑のドラゴンが住処としている廃墟の町だ。

 少々どころかかなり気が重いが仕方がない。

 一気に跳んでいった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 遠くの廃墟の町の尖塔にドラゴンの影はが2つ見えていた。

 1つは緑のドラゴン。

 『翠玉竜』エメラルド・ドラゴン・オブ・ディープフォレストだ。

 もう1つは漆黒のドラゴン。

 個体名は昨日のうちに思い出していた。

 『黒曜竜』ブラック・ドラゴン・オブ・オブシディアン。

 形状はファイア・ドラゴンとエア・ドラゴンが混じっているような感じがする。

 体の各所に赤いラインが見え隠れしていた。

 赤と黒。不吉な組み合わせの色彩だが嫌な感じがしない。

 緑のドラゴンに比べて地味なようで、陽光を反射すると結構派手だったりする。

 2頭並んでいる所など見事な光景で見惚れてしまいそうだ。


 町の城門前は相変わらず骨が散乱していた。

 いや、明らかに新しい死体が増えているようだ。

 それにドラゴンには掃除の概念がないようだった。

 というか掃除屋の獣がドラゴンを怖がって近寄れない所為で長い時間放置だれてしまうのだろう。

 城門前に改めて【フィールドポイント】を念じておく。

 ほぼ瓦解されている城門と城壁を抜けてドラゴン達の元に急いだ。


 緑のドラゴンが地上に舞い降りると挨拶らしく首を一振りした。

 まだ尖塔の上にいる漆黒のドラゴンも首を一振りすると、周囲を警戒するかのように首を動かしていく。

 何かあったんだろうか?

『昨夜だがここに来た不埒物がおったのでな。一応、監視に我が残っている』

 指輪から流れ込む思念は漆黒のドラゴンのものだと解る。

『当然、返り討ちにしたがね』

 ですよねー。

 どこのバカだ。ドラゴンの住処に踏み込もうとしたのは。

 なんとなくどこの誰なのかは予想できるが、そこまで気を回す余裕もない。

『今や、ドラゴン4柱はそれぞれの領域から人間の領域へと探索範囲を拡げている』

『そして我等も、な』

 いつの間にかフロスト・ジャイアントが3人、その巨躯を現していた。

 中心に位置するのは老齢の巨人だ。

『あまり芳しくはないが、な』

 フロスト・ジャアントと向かい合わせでファイア・ジャイアントが2人出現する。

 両方とも初見だ。

 片方は顔つきが若々しく巨大な剣を背負っている。

 もう片方は老齢で体が細く、他の巨人達と比べても頭一つ大きいようだ。

 こうして見ると巨人達にもそれぞれに個性がある。


「集まっているようですね」

 女神様の登場だ。

 主神ペルセフォネーの機嫌は良好な様子だ。何かいいことあったのか?

 だが出現したのは彼女ばかりではなかった。

 若々しくも凛々しい好青年、そしてペルセフォネーをより活発にしたような美少女だ。

 2人とも弓矢を背負っていた。

 時間差を置いて更に2人現れる。

 威厳のある髭面に筋骨隆々とした偉丈夫だ。片手に持つ槍は三叉槍である。

 海神ポセイドン、なんだろうな。

 ももう1人は妙齢の美人だ。年齢的には主神ペルセフォネーよりもやや上だろう、

 美しいのは勿論だが、それ以上に控えめな雰囲気で好感が持てる。頼りになるお姉さんって所だ。


 どうやら全員、オレ達に配慮しているのか震えるような威圧感がしない。

 サーシャ達も平然としてるし。つかお前ら慣れるの早いよ。

 オレはまだ困惑の感情が消えてくれない。

 何を詰問されるか知れたもんじゃないしな。


「おお!これはまた可憐な花ではないか!」

 青年がそう言いながらサーシャとサビーネに声をかけようとする。

 かっるいな。

 その青年の背中を少女が後ろから蹴りを入れて転ばせた。

 外見と違って過激だ。

「ふざけんなこの恥晒し。おとなしくしとけ」

 言葉遣いが酷いし。

 地面に顔を突っ込んだ青年になんて声をかけたらいいんだ?

 それでもめげずにサビーネに声をかけようとするのだが女神様が機先を制した。

「アポロン様。あまり目に余るようですと帰っていただきますよ?」

 どうやらペルセフォネー神は凄んでいるようだがオレには何も感じない。

 太陽神アポロンらしき青年には途轍もない圧迫感があったようだ。顔から一気に血の気が引いていった。

 無言で頷くしかない様子だ。

 美少女がオレ達に優雅に一礼する。

「我が名はアルテミス。何卒お見知りおきを」

 アポロン神の妹神で月の女神だ。

 態度の豹変が早いよ。

「ああ、ご心配なく。兄に無体な真似などさせませんから」

「殺す、などと誓わないでくれよ」

「いえそんな酷い事は致しません。去勢して差し上げます」

「いっそ殺せ」

「ああ、兄上は男が相手でも宜しいのでしょう?去勢された所で問題ないのでは?」

 なんか痴話喧嘩みたいだな。

 でもなんか仲がいい兄妹ってこんなものなんだろう。


 そんな様子を年上組の神々はまるで気にしていない。

 どうやら耐性があるようだ。

「我が名はポセイドン」

「ヘスティアと申します」

 それぞれが威厳と貫禄を感じさせる一礼で余裕を見せた。

 思わず返礼する。

 海を支配する神、それに生活を守護する女神だな。

「最初、貴方に違和感を感じたのは私でした」

 女神ヘスティアの掌の上に炎が踊った。

「ある日、我に信仰を捧げる信徒達を通じて貴方を見ました。しかし我は貴方の正体を見抜けませんでした」

 女神様は何か集中して炎の中を見つめ続けていた。

 炎が消える。

「今も貴方の事は何も見えません。当然、予言も働きませんでした」

 海神ポセイドンが言葉を継ぐ。

「そこで我もまた貴公の予言を託されたのだ。しかし何も見えぬし予言も紡ぐ事ができなかった」

 この神様は気難しい顔を全く崩そうとしない。

「恐ろしい。知ることが出来ない存在があることが恐ろしい。知らねばならぬ、とも思ったが」

 今度は女神ペルセフォネーに語りかける。

「我は今も恐れている。知りすぎてはならないのではないか、とな」

 うわあ。

 本当にAIなのか?これ。

「今日は難しい話はよしておきましょう」

 女神ペルセフォネーが一旦話を区切った。

「互いを良く知ること。そこから始めませんか?」

 女神の誘いにドラゴン達も巨人達も同意したようだ。

 それぞれが楽な姿勢をとると話し合いを始め出した。図体が大きいのが混じってるだけで世間話の様相になってきた。

 唯1頭、漆黒のドラゴンだけが周囲を警戒し続けていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 無論、オレ達の身に着けている装備は根掘り葉掘り聞かれる事になった。

 どこまで明かしていいのか、自分なりに判断するしかない。

 2人のフロスト・ジャイアントと2頭のドラゴンを素材とした鎧兜であることは明かす事にした。

 彼らも過去に屠られた仲間がいたことは知っていたようで、そのこと自体に怒りを覚えるような雰囲気はなかった。

 ただ、彼らの死体、何よりも魂の在り処を気にしているようだった。

 オレ達の装備には魂の残滓はないものの、彼らの精神、即ち魔力が感じられるらしい。

『我らの肉体も精神もいずれは滅する運命だ。だが魂は違う。彼らの魂は救わねばならぬ』

『然り。魂は不滅であり、いずれは世界の糧とならねばならん』

 そういえば巨人とドラゴンを倒した際、その死体はすぐに封印術で保存していた筈だ。

 封印を解いたのは鎧兜の素材を剥がした時だけだ。

 オレがゲーム離脱した後、どう利用されたのか、或いは放置されているのか、オレには分からない。

 今探している2人が知っている可能性がある、とだけは彼らに伝えておいた。

 何故、オレがそんな事を知りえるのか、彼らも疑問なのだろうが、そこは不問にして貰えたようだ。


 それにしても。

 真剣な話がそこで終わると後は雑談になってしまった。

 神々は態度の差はあれど社交的だ。

 殊に女神ヘスティアはオレ達が普段やっている冒険譚を面白がって聞きたがった。

 サーシャ達も最初はさすがに遠慮があったようだが、柔和な女神の雰囲気の前に会話が尽きる事がなかった。

 なんか会話で誘導されてるような気もするが、サーシャ達は楽しそうだしいいか。


 だが気になる事もある。

 サーシャは巨人達を恐れる様子がちょっとおかしい。

 恐れている、ではなく畏敬の念、と言うのが正しいかも知れない。

「どうした?」

「あ、はい。さすがにフェンリル様と共に戦ってきた方々が目の前にいるので緊張しちゃいます」

 えっと。

 フェンリル様?

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