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先にゲームを進めてみた

 体感時間で10分ほどだろうか。

 ついにモンスターに遭遇した。

 なんかなつかしいぜ。

 白と黒の毛皮につぶらな灰色の瞳のニードルラビットだ。


 額に小さい角みたいなものが付いている以外、まんまウサギだ。

 か、かわええ。撫でてみたい。

 モフモフしたら気持ちよさそうだ。


 そんなオレの気持ちに関係なく襲ってくるモフモフウサギ。

 目がキレてます。

 そんな目で見ないで、オレってば怖がりなんだしさ。


 鯉口を切って抜き撃ちを試みる。

 まあなんちゃって居合い切りだ。

 切っ先が腹に吸い込まれて・・・通り抜ける。

 失敗か?と思ったらウサギちゃんは上下に両断されている。

 あっけない。

 なんなの?チートなの?

 オレがチートなの?刀がチートなの?

 ウサギのレベルにもよるが、種族が最低レベルで初期装備がダガーあたりだったら3回程度攻撃を当てないといけないと思うが。

 まあ多分、チートなのは日本刀だろう。

 前作にはなかったしな。


 ウサギちゃんの死体から何かが浮かびあがってくる。

 魔石だ。

 大きさ2センチほど、歪でやや鈍く光っている。

 このあたりは前作と一緒だ。

 一般的な店では通用しないが、ギルドに持ち込めば換金して貰える筈だ。

 魔石をリストバンドにくっつけておくと、魔石に手を触れるだけで魔石を吸収する仕組みになっている。

 マジック・アイテム作成の燃料のような働きもする。

 戦闘で倒したモンスターの魔素は、経験値としてプレイヤーキャラに還元されるが、還元されなかった残りが魔石となるのだという。

 モンスターは普通にお金を持っていない。お金の代わりにこういった仕組みが導入されている、とは前作の運営の弁だ。


 魔石をリストバンドの手のひら側にくっつけておく。


 ドロップアイテムはない。

 前作の場合、感覚でいえば、4匹から5匹を倒したら1個程度はあったように思う。

 レアドロップは100個に1個あるかどうかだ。


 倒したウサギからは肉や毛皮も採取できるだろう。職業で料理人があると職業経験にプラスされるし、モンスターの肉を食べたら得られるスキルもあるかもしれない。

 毛皮は小銭稼ぎに売ることができるし。

 でも刃物は日本刀しかないからな。ここはスルーだ。


 日本刀は血糊が付いたように見えない。脂のシミ一つないよ。

 初期装備としては間違いなくチートだ。

 日本刀は切れ味を維持するのに手入れが欠かせない。でも手入れ道具なんてないし。最低限でも仕上げ用の砥石が欲しいな。

 念のために裾で拭いて鞘に戻す。


 しばらく丘を下ると人が通れる程度の幅の小道のような所に出る。獣道に毛が生えてるような感じだ。

 これを辿ればいいか。

 下っていく・・・が登っていっちゃうぞ?

 と思ってたらまた下りだ。

 眼下に小さな渓流が見える。

 おお、水がある。


 と思ったら何かに奇襲されたようだ。

 

 ・・・・・


 「・・・いってええええええええええええええ!!!!!!」


 なにこれ、マジ痛いんですけど。


 左腕に激痛が走っている。

 見るとニードルラビットの角が刺さってやがる。

 ウサギさんの重さもあってか痛さ倍増だ。

 かわいい姿のくせに。憎さ倍増だ。

 モフモフじゃなくてブスブスと刺してあげたい。


 振り払ってウサギに相対する。


 って2匹いるじゃねえか。

 怒りにまかせてオレを突き刺してくれたウサギちゃんに抜き打ちを見舞う。

 切っ先はウサギをかすめて外れる。

 いかん、気持ちだけ先走っておる。

 もう一匹が突撃してくるのをかわし・・・きれずに頬を掠める。

 ジャンプ力すげえな、おい。


 刀を下段に構えて体勢を整える。

 また突撃してきたウサギに合わせて切っ先を跳ね上げてタテに2等分してやる。

 もう一匹は横に薙いでこっちも2等分だ。


 「C-1!」

《痛覚カットされていません。バイタル・リアクションをカットしますか?》

 「いや、今はいい」

《ナノポッドのエマージェンシー・コールはアテンションとして通報済み。D-2以外からインフォメーション要求はありません》

 「切れたままか・・・」

《PDCA精査ルーチンに優先順位割り込みで解析開始します。D-2の思考ルーチン作業領域を拡げます。0-2に仮想作業領域を追加設定》

 D-2も動き出す。

 いやはや、これはちょっとない。

 ここまでプレイヤーが不快になるような情報をバーチャルで与えるのは違法行為だ。

 生体反応が鈍化しないよう、5%以内であれば痛覚も条件付で許されているが、最低限、プレイヤー側で全面カットできるように選択できなければならない。

 運営マジ鬼畜か。

 嫌がらせなんだろうか。

 なんにせよこんな仕様にした真意は最優先で問い質すべきだな。


 「D-2、0-2からリアルフォース社の情報を検索しろ。取締役向けの資料がある筈だ。組織図は最優先」

 モンスターの死体に浮かんでくる魔石に手をかざして消していく。

 ドロップアイテムはない。

 痛い割りに実入りがないのが悲しい。

《2ヶ月前の株主総会用の資料、先月の臨時取締役会儀の資料に添付確認。提示します》

 仮想モニターが2面開き、資料インデックスと組織図を提示する。

《カイザード・オンライン2についてはマスターの開発したバーチャル技術の導入を3度稟議にかけられています。導入決定は2年前です》

 オレがリアルフォース社の株式を買う前だな。

 あそこの株は全体の14%ほど持ってる。個人では筆頭だ。

《ナノマシン技術対応のゲーム開発は後発でした。従ってカイザード・オンライン3の開発は急ピッチで進められていたようです》

 開発室は5つか。仮想モニターを操作し、各開発室の業務報告書のインデックスを閲覧していく。

 ああ、ここだな。

《第2開発室が主導、第3開発室が支援で始まってますが、半年前に社長直下の企画室が関与するようになってますね》

 思い当たる節がある。同業他社に先を越されたからだろう。

 というかこないだオレがやってた戦争モノがベータテストもそこそこに一般ユーザーに開放された時期だ。

 反響は大きかったと記憶している。

《ナノマシン関係の専門家は3名を開発当初に急遽雇い入れてます。その後、随時増員もされて最終的に8名になってます》

 直接文句を言ってやりたい。つか8名全員に説教だ。

 それをやらせた奴がいるなら更なる厳罰だ。

 お尻ペンペンで済ますわけにいかねえぞ。

 こちとら心の狭い非常勤役員様だ。役員といっても名前だけだけどな!

 「こんな仕様にしたお馬鹿さんはどいつなのか分かるかな?」

《手持ちのデータだけでは精査不能です。外部との情報連結が必要です》

 まあそうか。

《本アルファ・テストを開発室メンバーで現在も行っているようです。詳細な報告はデータありません》

 ふむ。

 ゲーム世界でとっ捕まえて説教か。

 悪くないがなんかめんどくせえ。

 「C-1、この件は進展が見込めない。痛覚カットは当面しなくていい」

《C-1了解》

 オレに対する挑戦と受け取ったぞ、運営め。

 痛覚ごときでオレがビビるとでも?


 いや、痛いのはイヤですよ?

 しかしゲーマーたるもの、挑戦されたら受けてたつのが基本だ。

 たとえ廃人であるのだとしても。

 痛いのがイヤだからって逃げたと思われたくもないしな。


 前作でオレは精神魔法で回復していた。僧侶系はプレイするのに縛りがあったから回避したんだよなあ。

 試しに精神魔法の【自己ヒーリング】を念じてみるが何も起きない。


 仕方がない。

 どうやら種族レベルも職業レベルも1のつもりで慎重にいくしかあるまい。

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