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魔法陣

 そこは坑道の行き止まりだった。

 キマイラは坑道の一角でなにやらゴソゴソと貪るような動きを見せている。

 図体がデカくて後ろ向きだから何をやっているのかは全く見えない。

 まさか。

 まさか、ね。

 (ラクエル、凍らせて仕留めにいくぞ。カティア、ヤギの頭に攻撃を集中しろ)

 念話でそれだけ指示すると、すぐさま魔法を構築させていく。全力で、駆けながらだ。

 オレは両手の2本のショートソードに【収束】と【粒子加速】を念じる。

 引き続き棒状の結界をショートソードに沿うように構築し、属性魔法の【フリーズ】の魔法式を転写させていく。

 両手の剣の間で氷の槍が一気に増殖した。

 8本の氷の槍をキマイラ目掛けて解き放つ。精神魔法の【誘導】によって手足と胴体を串刺しにしてやる。

 ラクエルの精霊魔法発動も速い。雪精ジャック・オ・フロストがキマイラの体を這い回り始めた。

 先制できたのは大きい。

 キマイラはデフォルトで獅子と山羊と蛇の融合した魔物だが、食い荒らした個体の特性を取り入れる能力を持つ。

 見た目が一緒に見えても油断がならない。

 そして体を両断してもそれぞれが独立して動き回るほどの再生能力と耐久力がある。

 それを見越して先制で冷却系魔法で細胞レベルで氷結させ、再生を抑えるのがオレの狙いだ。

 オーガの再生とはまた一味違う厄介な再生能力はどうにか抑えなければならない。


 キマイラがオレ達の方を振り返った。蛇の頭が空気を震動させるかのような威嚇音を発している。

 獅子の頭もこちらを向いている。喉元が膨らんでいるようだった。

 ブレスを吐く構えだ。

 【転移跳躍】を念じると獅子の頭の上に跳んだ。

 眉間に剣を突き立てた。柄の近くまで深々と埋まっていく。

 そのまま獅子の頭を真っ二つに裂いてやる。吐きかけようとしたブレスの元である液体が溢れ出して一瞬で気化した。

 そして火が付く。

 巨大な炎の球が周囲の岩盤を焼き払う。

 オレは当然、キマイラも、そしてサーシャ達も巻き込んでいた。

 熱気こそ浴びたが鎧兜のおかげで大したダメージを喰らうことはなかった。

 かといって熱くない訳でもダメージがゼロな訳でもない。


 熱いじゃないか、このヤロウ。


 痛みと怒りを上乗せして魔物の背中を駆けて蛇の尻尾の根元を叩き斬る。

 しかし切り落とされた蛇はその切り口から新たな蛇を生もうとしていた。

 キマイラのこういう所が嫌いだ。

 胴体に突き刺さっていた氷の槍を【誘導】を使って引き抜くと蛇の胴体を貫き岩盤に縫いつけた。

 氷の槍にまとわりつくようにジャック・オ・フロストが這い回る。

 蛇の胴体は急速に氷漬けにされていく。氷の槍はオレとラクエルの魔力同調による相乗効果でその威力を大幅に拡大していた。

 

 オレにヤギの頭が迫っていた。角が淡く光りその赤い目と眉間に魔力が集まっているのが見える。

 獅子はブレス、ヤギは魔法、ヘビは毒。

 これに噛み付きやら体当たりやらが加わり多彩な攻撃を繰り広げるのもキマイラの嫌いな所だ。

 ヤギの喉元にカティアのクレイモアが撃ち込まれて魔法式が強制的に破壊された。

 絶妙のタイミングだ。

 ヤギの眉間に氷の槍を突き刺す。

 さらに首元に剣を連続して撃ち込んで行く。オレとカティアでヤギの首を切り落とすと地面にそのまま氷の槍で縫い付けた。

 暫くは魔法攻撃は気にしなくていいだろう。

 これで終わるとは思えない。

 キマイラの怖さはまだこんなものではないだろう。


 サーシャが脚を1本潰し、サビーネの放つ矢が胴体を抉っていたが、キマイラはダメージを受けた場所から異様な変形を果たしていた。

 新たな生物が這い出すかのようにも見える。

 クソッ。

 デカ過ぎて埒が明かない。凍らせきれていないのだ。

 新たに4本の氷の槍を創出して魔物の脚に撃ち込んでいく。

 まだ氷の影響を受けていない肉の部分が奇妙に蠢いたかと思うと新たな顎が生まれ牙を剥いた。

 それも1つや2つではない。

 新たに生まれた獣はアリのような表皮にヘビの牙を持っているようだ。

 投網のようにオレとカティアを押し包んできた。

 咄嗟に距離を置いてキマイラから離れる。元の姿が何であったのか、まるで原形を留めていない。

 昆虫のような脚と触角が生え、魚の鱗らしき肌が露出していた。

 もう何が何やら。


 ラクエルの元に駆け寄ると全員に念話で指示を出す。

 (一旦距離を置け!)

 ラクエルの肩に手を置いて同調を上げていく。また一層、周囲が冷気に包まれていった。

 新たな精神魔法を心の中で紡いで行く。

 【振動】と【位相反転】を組み合わせた魔法の【振動減速】だ。

 そして魔物に突き立てられた氷の槍に【共振】を加えて【振動減速】を重ねて発動させた。

 氷の槍で囲まれた領域が一気に冷却されていく。

 いくつもの魔法の相乗効果を得て魔物は全て氷漬けになった。


 氷の彫像と化したキマイラに剣を撃ち込んでみる。

 なんとなくMPが回復しているような感触がある。つまりまだ死んでいないようなのだ。

 「細かく砕いておくぞ」

 オレ、サーシャ、ラクエルが剣で大雑把に斬り飛ばしてやり、カティア、サビーネがメイスで肉片を砕いていった。

 魔水晶を残してキマイラは文字通り粉々になった。


 間に合ったのか、間に合わなかったのか。

 それが問題だ。

 ドワーフの子供の姿は見えない。

 「・・・匂いはあります。でもここで途切れています・・・」

 サーシャの顔は蒼白を通り越してしまいまるで幽鬼のように見えた。

 ダメか。

 ダメだったのか。

 「いやーもしかして大丈夫かもよー?」

 「ラクエル?」

 無言で壁の一角に手を当てる。

 「うん。ここだねー」

 ポンポンと手で叩くと精霊語らしき言葉を紡ぎだした。

 岩盤の一部が消えてなくなると小人の姿が出現した。地精ノームだ。

 白いひげに丸い瞳の優しげな老人は何か呟いたかと思うと岩盤に溶けるように消えてしまった。


 そしてあのドワーフの男の子が頭を抱えた格好でガタガタと震える姿がそこには残されていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 少しだけホッとした。

 男の子は周囲の状況が分かっていないようだった。目は見開いたままだ。

 恐慌状態なのだろう。

 ラクエルが男の子に手を当てて目を閉じる。

 「大丈夫。恐怖を感じているうちは生きているんだからねー」

 そう言ったかと思うと男の子の胸の辺りから何かが浮かんできていた。

 闇の精霊シェイド。オレのプレイヤー名と同じ名の精霊だ。

 こいつは恐怖も司る精霊だ。

 「怖かったかなー?」

 男の子の目に精気が宿り始めるのが分かる。だがまだ足りなういようだ。

 「ねえご主人様、黄のオーブはあるかなー?」

 そうか。

 精霊魔法を使って岩の壁を作り隠れたのはいいが、魔力を消費しすぎているのだ。

 黄のオーブを取り出すと男の子の手に握らせてから念じてやる。

 「・・・あ、あの、あ、あ・・・」

 「無理して喋るな」

 男の子の体全体をさすって怪我の有無を確認した。どうやら五体満足なようだ。

 武器も持っていた。戦闘用にも使えそうな小さめのピックだ。

 それでも子供が振り回すには重すぎる得物だろう。

 探していたものが背中のリュックにあった。

 石版だ。真ん中に魔結晶が埋まっている。

 【魔力検知】で見る石版には魔法式が4層に渡って重なって組み込まれていた。

 4層も、だ。

 手の込んだ魔法陣を組んだ奴がいるな。

 もしくは運営がやったことだ。

 あのキマイラはこの石版を追いかけていた訳か。


 ラクエルは闇の精霊シェイドを男の子の目の前で操って見せていた。

 「・・・こ、これは?」

 「闇と恐怖の精霊シェイド。見るのは初めてなのかなー?」

 「・・・う、うん」

 「これは君の恐怖。これは君自身。そして君の分身。キミの中にいたんだよ?」

 「えっ」

 「大丈夫。キミならちゃんとこの子と仲良しになれるからさー」

 臨時で精霊魔法の授業が始まりました。

 ラクエルが精霊語で何事かを呟くのを男の子に復唱させている。

 何度か繰り返しているうちにシェイドの動きが変わっていった。大きさも変化させながらシェイドをコントロールしていく。

 男の子が精霊語を呟くとシェイドは男の子の胸の前で消えていった。


 「そろそろいいか?」

 「あ、うん」

 「名前はアントン。そうだな?」

 「うん。もしかしておじさん達と逢った事あったかなあ?」

 忘れかけてるようだな。子供だから仕方がないが。

 それにおじさん、だと?

 確かに中身はおじさんなんだけどさ。

 「ライネルの酒場でお前さんは見たよ。母ちゃんに尻を引っ叩かれていたさ」

 さっきまで震えていたくせに今度はむくれてやがる。立ち直るの早いよ。

 石版をアントンの目の前で見せた。

 「これを外した。そうだな?」

 「・・・うん」

 「何が起きるのか、知っていたか?」

 「・・・ううん」

 「興味があったから外した。そういうことか」

 「・・・うん、ごめんなさい」

 あるよね。

 何のボタンなのか分からないのに押しちゃうのって。

 あれって何だろう。

 「覚えておくことだ。知らずに失敗をするのと知っていて失敗するのでは意味が違うぞ」

 そう言うと石版を振ってみせる。

 「今日、君はやってはいけない事を知った。分かるな?」

 「・・・うん」

 まあ分かるようになるのは先のことになるんだろうな。

 「サビーネ、この子を後ろに乗せてやれ。出来るな?」

 「はい。問題ありません」

 ロープと古着を使ってサビーネの馬体に臨時の乗鞍を拵えた。

 アントンを持ち上げる。見かけは小さく普通のドワーフよりもはるかに細いのだが鉛のように重たかった。

 意地で持ち上げましたとも。

 アントンの体はサビーネの体に帯革で固定した。

 「いいかアントン。このロープを掴んでいろ。走っている間は話しかけるな、舌を噛むぞ」

 簡単に注意を与えるとサーシャ達に指示を出す。

 「この石版のあった魔法陣に行く。まずい事態になっているかもしれん」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 さすがに全力疾走は控えた。

 それでもアントンには恐怖に近い体験だったかも知れない。

 だがそこまで気を遣う余裕はないのだった。

 魔法陣の仕掛けを潰した場合、必ずガーディアンが出現する罠が伴うのだ。

 あそこの魔法陣の石版は3つ。

 1つだけ外したからと言って魔法陣が無効化されるタイプはない。

 少なくともオレは知らない。

 歪んでしまった魔法陣は歪んだ結果をもたらす可能性があるのだ。

 イヤな予感しかしない。


 魔法陣のあった場所に到達した。

 石版は2つしかないが、新たな魔法陣が形成されているのが【魔力検知】で見てとれていた。

 「アントン、あそこの魔法陣だが何が召喚されていたのか分かるか?」

 「・・・ゴブリンとロックワームだよ」

 「そうか。弱い魔物しか出ない魔法陣なら潰しても大した奴は出ないと思った。違うかな?」

 「・・・うん、ごめん・・・」

 「謝らなくていい、確認しただけだ」

 魔法陣で石版3つの構成は最も簡単なものだ。

 三角形の基本魔法陣形に召喚魔法の魔法式を組み込んでいき、動力源となる魔水晶や魔結晶を繋ぐことで作動する。

 【魔力検知】で残った石版を見てみると、既に異なる魔法式が駆動していた。

 例えこの石版を戻してみても元の魔法陣として作動することはあるまい。

 これでは残された手段は石版の残り2つも外すか、放置するしかない。

 放置するのなら召喚される魔物が面倒のないものである必要があるのだが。

 全く面倒のない魔物っている訳もないのだ。


 どんな魔物が召喚されるのか、確かめる機会はすぐに訪れた。

 オレ達が到着して程なく新たな魔法陣が魔物を召喚しようとしていた。

 何か大きなものが地面に落ちる重厚な音が坑道に響く。

 ジャイアントクラブだ。

 生態系無視で海の魔物が目の前にいた。


 最大級のジャイアントクラブは停泊する大型帆船をも沈没させるようなカニの化け物だ。

 実際に前作で戦ったこともある。

 やたら堅くタフな相手だ。脅威として考えるならばバグベアを遥かに上回る魔物だろう。

 動きが鈍すぎてオレ達ならば戦うのに問題はないが。

 やっぱりこれを放置するのはマズイ。

 バグベアを上回る巨体は先ほどのキマイラにも匹敵する大きさだ。

 カニの魔物ならば食ってみたら旨いんだろうか、といささか不謹慎な考えが脳裏を過ぎる。


 魔物はオレ達と正対している。

 カニだけに前後に動くのは機敏ではない。

 (サーシャ、あいつの裏側に回れるか)

 (あ、はい。大丈夫ですが)

 (オレも行く。石版の残り2つを外すぞ。あの魔物には暫く手を出すな)

 オレとサーシャがカニの両脇を抜けてカニの後ろに回りこむ。

 まだ淡い光を放つ魔法陣にはあっという間に到達した。

 (同時に外すぞ。合図を待て)

 (あ、はい)

 サーシャにも苦無を渡しながら指示をしておく。

 ガサゴソと蠢くカニを横目に石版の境目に苦無を差し込んで目詰まりしている土を掻き出す。

 サーシャも見様見真似で同じ作業をしていく。

 (境目に差し込め・・・今だ)

 苦無を境目に差し込んで梃子の原理の要領で石版を外す。

 石版を持ち上げると魔法陣は雲散霧消するが。

 空気が一瞬、震えたかと思うと目の前の一点に魔力が集中しているのが見える。

 ガーディアンが召喚されようとしていた。


 (サーシャ、一旦戻るぞ)

 再び魔物の両脇を抜けてカニの正面に戻った。

 思惑通りに事態が進んでくれたらいいのだが。

 カニはオレ達を攻撃しようとゆっくりとした歩みではあるが接近してきている。

 坑道を大きな音が響く。

 その後方でガーディアンが召喚されたようだ。

 何が来るのか。

 サーシャから苦無と石版を受け取ると石版は【アイテムボックス】に全て放り込んでおく。

 ガーディアンは石版を外した者を対象に追いかけてくる筈だ。


 ガーディアンはストーンゴーレムだった。坑道の高さギリギリの大きさである。

 小さいといえば小さいがそれでもラグベアを上回る体躯だ。とてつもない脅威だろう。

 だがその大きさが仇になったいた。

 坑道をジャイアントクラブが塞いでいるのでこちらに来れないのだ。

 時間稼ぎになればいいと思って仕掛けたのだが、思惑以上の効果をもたらしていた。

 ゴーレムはこちらに来ようとするのだが、ゴーレムに体をぶつけられたカニはゴーレムを敵と認識して攻撃を始めた。

 カニは意外なことに大健闘している。

 普通、ゴーレムにしてみたらコマンドされている事以外の行動ができない。その弊害が出ていた。

 飽くまでもオレ達を攻撃しようとするのだ。

 カニの攻撃を一方的に受けている形になっている。

 だがこのゴーレムはストーンゴーレムだ。普通の攻撃がそうそう通用する筈もないのだが。

 カニの大鋏はゴリゴリとゴーレムの足を削っているのだ。

 褒めて遣わす。

 上から目線で勲章でも差し上げたい気分だ。

 とは言え時間稼ぎにしかならないのだし、なんとか2匹まとめて倒さねばなるまい。

 ゴーレムか。

 しかもストーンゴーレムか。

 手持ちの攻撃オプションでどう倒せばいいのか。

 厄介な相手だ。

 スピードを活かして叩き続けるにしてもリスクが大きすぎる。

 足を止めての殴り合いは論外だ。防具がいいからといってダメージをゼロにしてくれるわけじゃない。

 魔法はどうか。魔法に対して高い耐性を持っているゴーレムにいい方法とは言えない。

 オレとラクエルで同調して、更に相乗効果を重ねたとしても、耐久力の高いゴーレムを倒すには効果的ではないだろう。

 オレ達の武器には魔法が既に付与されているのだから近接戦闘で力押しする方がまだマシだ。

 あれをやるか。

 ドワーフの子供がいるから見せたくないんだけどな。


 (あのゴーレムにはオレの合図があるまで近づくな)

 それだけ指示するとショートソードを2本とも抜いてみる。

 キマイラと戦ってMPは十分すぎるほど回復しているし、ショートソードにはまだ残留思念が残っている。

 僅かに【収束】と【粒子加速】を追加して念じておく。

 一旦、剣を鞘に納めて苦無を引き抜きタンガロイメイスを【アイテムボックス】から取り出した。

 【転移跳躍】を念じてゴーレムの肩に跳んだ。

 右手に持つ苦無に属性魔法の【サンダー】を付与する。

 ゴーレムの頭に向けてタンガロイメイスを叩き込む。ゴーレムを駆動する魔法式の一部が四散したのが【魔力検知】で見ることが出来た。

 魔法の耐性を失い唯の岩塊となった箇所に苦無を突き刺す。

 同時に雷撃がゴーレムの中を通電していく。その衝撃でゴーレムにかけられた魔法式が浮かび上がった。

 そして動力源である魔水晶の位置も腰の辺りにあるのが確認できた。

 苦無を更に奥へと差し込んでいく。そして。

 魔法式へ介入する。

 ゴーレムを作成する魔法は付与魔術と錬金魔術を組み合わせる方法と呪符魔術を使う方法がある。

 こいつは前者だ。

 魔法式を吹き飛ばせるなら面倒が無いが、生憎オレの今の実力では無理だ、

 やろうとしているのはもう1つの方法だ。魔法式に介入して、付け足す。

 左手に持つタンガロイメイスでゴーレムの右肩口を叩くと、右手で適当に構築した魔法式を付与してやる。

 ついでに頭にも食らわせて魔法式を転写した。

 ゴーレムの右手の動きが一気に緩慢になる。成功した、のか?

 首の方も動かなくなった。

 頭を飛び越えて左肩口にも同じ要領で魔法式を挿入する。

 ゴーレムの背後に降り立つと右足首、左足首にも喰らわせてやる。

 まともに歩けなくなったゴーレムは背後へ倒れていった。


 ゴーレムの下敷きになるのをなんとか回避するとサーシャ達に念話で指示を出す。

 (カティア、剣を使ってゴーレムの腰の辺りを削れ!サーシャとラクエルはカニを仕留めろ!サビーネは弓矢で援護!)

 右手にショートソードを抜く。

 ゴーレムの胴体をメイスで叩いて魔法式を吹き飛ばし、そこへに剣を撃ち込んで削ってやる。

 MP吸収の効率は下がるがダメージ優先だ。

 オレの反対側でカティアも剣を打ち込み始めた。

 カティアの持つクレイモアは元々魔法式破壊がある。岩を削るのに剣だと効率が悪いが、この場合は仕方が無い。

 オレの目には魔水晶が魔法式を再構築しようとする様子が見えていた。

 一方的に削ってはいるが、一瞬でも遅れたら命取りだ。

 タンガロイメイスを握る手に汗が。それに焦りと緊張で手が震えていた。

 ゴーレムの右脚が魔法式の再構築を終えたようだ。まだか。

 カティアの打ち込んだ一撃が魔水晶の近くまで達していた。もう少し。

 ゴーレムの右腕も魔法式の再構築が終わろうとしているのが横目に見えた。ヤバイ。

 次の瞬間、ゴーレムの腰が両断されて魔水晶が地に落ちた。

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