なんかおかしなことになっていた
どこかで見た風景だ。
いや、前作でも見たな、こんな感じの丘陵地。
てかラウンジを通過してないぞ。
キャラ作成結果の確認も当然ない。
チュートリアルぅ・・・
支援AIを呼んでコメントを残すよう脳内だけでコマンドする。
オープニングはなんかないのかな?
チュートリアル抜けてるし。
引継ぎはさておき新規組にはもっと親切な設計にしないとダメだろ。
《D-2、記録しました》
視覚・聴覚では前作と大して変わりない。
だが明確に違う点もある。空気には匂いがするし、皮膚に風を感じる。
やや乾いた、少し寒気を感じる風は本物により近づいているようだ。
C-1に環境情報の記録を指示する。
《C-1、了解。0-1にエラー発生を確認》
はあ?
《0-1から0-2への書き込みが失敗しています》
《0-2への情報閲覧は問題なし》
《0-2のアクセス履歴確認できません。0-2から0-1の認識ができていません》
予備回路あったろ?
《予備回路での認識ができていません》
警報ものだろ?これって。
《ホームセキュリティの作動状況は通常》
訳分からん。
《状況の確定ができません。リスク評価最優先。D-2にて対応開始》
まあ情報精査ならオレよりも支援AIのほうが適任だ。
任せておいていいだろう。
ログアウトを試みてみる。
前作と同じくメニュー呼び出し操作を念じてみた。
プレイングメニューが出ない。
・・・・・・
まあこれはあれだ。
運営掲示板に最優先でカキコだな。
リアル世界に用事を抱える現代人、ログアウト操作が一般的なフィールドで不可能とか不自由すぎる。
前作でログアウト操作ができないのはダンジョン関係、イベント関係、戦闘中といったところだ。抜け道対策だね。
なんにせよ冒険者ギルドを真っ先に探すべきか。掲示板は冒険者ギルドにある筈だ。
状況確認もしておこう。
左手首を見る。
かつて見慣れたリストバンドだ。感触でプレートが挿し込まれているのが分かる。この感触は前にはなかったものだ。
差し込まれているプレートを抜いて確認する。なんか古ぼけてる気がする。
文字は魔力で刻まれたもので、冒険者ギルドにおける身分証明書になる。
なんかルーン文字っぽい。前回は読もうとするとウィンドウが立ち上がって自動翻訳してくれたんだよな。
このままじゃ読めねえよ。
キャラ名も前作ゲームと同じかどうかもワカンネ。
サブ・プレートもあった。
こっちは都市の出入りの通行許可証などに使われているものだ。
魔法をかけないと文字が浮き上がらない仕様なのでのっぺらぼうだ。
プレートをリストバンドに戻すと他の装備の確認をする。
着ている上下はチュニックにズボン。麻製だろうか、ちょっとゴワゴワする。
履いているのは簡素な靴、というかサンダルに近い。
右肩から腰へ革製の肩ベルト。小さなアイテムや硬貨を収納できるようになっているが中身は空だ。
腰には帯剣できるようになってる幅広の革ベルト。
そして帯剣しているのは・・・刀が一振り。
日本刀っぽいな。
鯉口を切って抜いてみたらまんま日本刀だ。
柄元から切っ先までまんま日本刀だ。
鍔もある。武骨な質感があって頑丈そうだ。実戦刀だね。
鞘の拵えも日本刀のものだ。
色も艶消しの黒で渋いねえ。いやそうじゃなくて。
ここって西洋系のファンタジー世界じゃねえのかよ。
デザイナーに聞いてみたい。
いや、問い詰めたい。
小一時間問い詰めたい。
日本刀出してみたかっただけじゃないんかと。
正眼に構える。
はるかな昔にひい爺様に持たされた刀よりだいぶ重たい。
刀身は短めだろうか。反りはさほどじゃない。重ね幅がなんか厚いような気がする。
てゆうか・・・なんかオレの体って小さくねえか?
「なあ、C-1」
《はい、マスター》
オレの声もなんかトーンが高い。
剣道で習った型をなぞってみる。刀身を持つ感触に違和感がないのが逆に不気味だ。
刀は重たいが振ってみても支障はないように思える。
「オレってば小さいよな?」
《そのようです。》
どんなキャラに設定されてるんだ。
ひい爺様に習った剣術の型もゆっくりとなぞってみる。
同じ型を速度を上げてもう一度。
支援AIに答えを求めるにしても色々とデータ提供しないといけない。
《生体反応リンクの反射数値は運営側で補正されているようです。想定される身長は165cm》
ちっけえ。
リアルのオレ様は180cmある。
鏡で顔の造形も見たいが生憎そんなものはここにない。
髪の毛は黒いことだけは分かるが。
前回では黒髪黒髭のチョイマッチョの豪快ネタキャラだった。そのまんまで小さくしてあるんだろうか。
身長もリアルと同じにしてあった筈だ。
体格はまだいい。
運営もプレイヤーとゲーム内キャラの体格差が大きく生じている場合のデータも欲しいことだろう。気持ちは分からなくもない。
せめて・・・アルファテストとはいえ顔くらいは自由度が欲しかった。
どういう基準でキャラメイクしたんや運営・・・
《生体反応の感受性評価ですが若干過敏のようです》
ファジーな報告だな。
まあこれも並列型有機コンピュータの特徴だ。
《バイタル・ブーストの可能性評価は皆無。D-2の評価でも同様です》
あったら困る。違法だからな。
なんだろう。ナノポッドの設定はいじってないよな?
《ナノポッドによるものではありません。運営側サーバーの出力データ基準です》
なんか調整したんだろうか。
まあこれだってテストだ、上手に付き合ってみるとしよう。
さて、この場所から移動してみようか。
情報が欲しい。
当面は誰からでもいいから情報を得ておきたい。
どうもここは標高の高い所にある丘陵地のようだ。アルプスっぽい景色も近くに見える。
空気がうまいがちょいとばかり薄いような気がするし、ちょっと肌寒い。
それに薄着だし。
このままでは進展がないしな。
刀を鞘に戻して周囲を見回し第一歩を・・・
そうだ。
移動前にやっておきたいことがある。
使うのは【フィールドポイント】、要するに目印を任意の場所につける魔術だ。
前作では魔術師系統の職業で最初に取得できた。
職業設定をしていなくても、人間の自由民なら種族LV5あたりで取得できていた記憶がある。
消費MPは最小単位の1だ。
前作キャラのデータを引き継いでいるのなら使えるかもしれない。
足元の地面に手をつけて【フィールドポイント】と念じる。
地面が一瞬光って見慣れた固有サインが紫色でスタンプされてすぐに消えた。
前作通りだ。
つか呪文詠唱破棄で使ってしまった。慣れって怖い。
それに呪文詠唱破棄は使用できるようになるのにいくつか方法があるが、どれも初期状態で取得できない。
呪文リストもメニューから呼び出せないし、呪文も忘れてしまっている現状、使えるのは大きなアドバンテージだ。
今のレベルはどうなっているのだろう。うかつに魔術使えないぞ・・・
前作の場合だと・・・
LV1の初期状態ならMPの最大値は知力+精神力だ。
能力値は、体力・膂力・器用・俊敏・知力・精神力の6つで設定。
隠れ能力値に幸運度とカルマ(業)がある。
各能力値は古めかしい方法で決められていて、6面体サイコロ3つ振りだ。
種族が人間だとキャラ作成時の補正はない。
もし今の状態がLV1であるとして、平均的なキャラであればMPが21だ。
これに職業ボーナス、装備ボーナスが入る。最初のうちは僅かなものだ。
前作で呪文はある条件をクリアすると詠唱省略と詠唱破棄とが可能だった。
詠唱省略には基本となる魔術のMPが必要となり、詠唱破棄だとこれに加えて基本となる魔術の2倍のMPが必要だ。
今の場合だと、【フィールドポイント】の消費MPが1。
効果拡大は何もつけてないのでMPの追加消費はない。
詠唱省略にはさらにMPが1必要になる。
詠唱破棄だとさらにMP2が必要だ。
さっき使った【フィールドポイント】だと、1+1+2で消費MPは4だ。
MP最大フルにあったとしても、最大値が20前後だとするとMP3を余分に使ってしまったことになる。
移動系の呪文が使えるようなら使っておいて損はないんだが。
なんにせよ呪文が分からないのに詠唱破棄でのみ呪文が発動できるという変な状況になっている。
詠唱破棄で雷雲生成も念じてみる。
前作では終盤で攻撃魔法の効果上乗せをするのによく使っていたお馴染みのものだ。
さすがにこれができるようではチート決定だろう。
・・・失敗した。
まあ当然だな。
MPが足りないってことだろう。
これで運営に確かめたいことが増えた。C-1に念じてコメントを残しておく。
さて、先にゲームを進めて地道にレベル上げに行くとしよう。
人がいる所も探さねば。