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鑑定

 フェリディには着いたが、夕飯にするにはまだ早い時間だった。

 ついでに買い物を済ませておくか。

 ラクエルはオレが何も言わずとも金髪エルフに早変わりしている。

 サビーネの突撃槍は街中では剣呑なのでオレが受け取って【アイテムボックス】に放り込んでおく。


 色々と買い足すために雑貨屋へ直行した。

 サビーネの分の普段着を買おうとしたら制止されちゃいました。

 「勿体無いのでは?」

 え、どうゆうこと?

 「自分で縫えますから」

 どうやら既製品を買うのはぜいたくだと主張しているようだ。

 「そういうものなの?」

 サーシャにも聞いてみた。彼女も労働奴隷として仕込まれていたと思ったが。

 「あ、はい、大体はそうです。普通の家庭でも縫い物は自前で賄う所が多いと思いますけど」

 「サーシャもできるの?」

 「あ、えっと。すみません、あまり得意ではないです」

 いや、そこまで恐縮することじゃないって。

 「みんなの分もまとめて針仕事は私がやってもいいと思います。お金が節約できる事なのですからやるべきです」

 サビーネってば真面目か。

 いや、言ってることは正しい訳ですが。

 オレとしてはサビーネにも冒険の方に集中して欲しいってのが本音だ。

 「針と糸に布地があれば結構ですけど」

 「それでいいのか?」

 「毎晩少しづつ針仕事を許して頂けるのでしたら」

 どうしようか。

 普段からやっていそうだな、こういうの。

 日頃やってることなら任せてもいいか。

 「じゃあ針仕事の道具も好きに見繕っていいぞ。布地もいくつか選んでくれ」

 「ありがとうございます」

 サーシャもなんかモジモジしているがどうしたのか。

 「あ、あの、私も手伝えると思います」

 「ん?そうか。ではサーシャの分もついでに買っておけ」

 オレはオレでサビーネ用の水筒やらリュックやらを選んでカウンターに置いておく。

 

 サーシャとサビーネが何やら相談しながら布地を見ていた。

 時間がかかるかと思っていたがあっさりと生地は決まったようだ。

 針と糸、それらを収納する小さな皮ケースを加えてまとめて購入しても銀貨20枚といった所だった。

 高いのか安いのか良く分からん。

 布地をカティアがまとめて抱えて店をあとにした。

 「あ、すみません」

 カティアにまで丁寧だなサビーネ。

 「いいさ、力仕事ならいくらでも」

 いつもの宿屋で部屋をとると早めの夕飯は部屋で摂った。


 「明日はラクラバルに跳ぶ。暫くはクレール山脈の大トンネルを中心に冒険を進めたい」

 「トンネル、ですか」

 サビーネが食事の手を止めて聞いてくる。

 シチューが冷めるぞ。カティアを見ろ、もう自分の分は食べ終わってラクエルの分を食ってる。

 ラクエルはヒマワリの種をポリポリと食べ続けているが。聞いてる、よね?

 サーシャも食事の手が止まっていた。

 「探索しきれない位に広いし強い魔物も多い。やり甲斐は十分にあるだろうな」

 「少し緊張します」

 少し緊張する位でいいよ。慣れすぎて油断するのが一番いけない。


 食事が終わると早速サビーネが縫い物を始めた。

 傍で見ると適当にしか見えないが、布地をハサミでザクザク切って出来たパーツを縫い始める。

 サーシャは古い布地で何やら縫い始めていた。

 見ていても何が何やら。

 ラクエルは瞑想し始めた。最近、時間があれば瞑想するようになっている。

 首飾りのオーブに宿っている精霊と語り合っているのだ。

 カティアは防具の手入れをしている。全員分の装備を1人でやるつもりのようだ。

 どうやら役割分担は事前に決めてあったのか。


 オレはオレでやっておくべき事はさっさと済ませておくか。

 【遠視】と【遠話】を念じる。

 真っ先に【ムービングポイント】を仕込んだダガーを見てみるが変化はない。残念。


 緑の竜がいた廃墟の町を見る。

 いやがった。

 というかその大きな影が増えていた。

 6匹は確実に、いる。

 もう沈みかけている夕日のわずかな光を竜鱗が反射させている。

 様々な色彩の競演だ。実に美しく雄大な光景なのだが。

 ヤバイ。

 直視してられない。

 恐怖がオレの中で際限なく膨らんでいく。

 次に行こう。


 【ムービングポイント】を仕掛けた兜を見る。

 まだ迷宮の中のようだ。率いるメンバーも変わっていない。

 というか戦闘中だった。

 相手はジャイアントスパイダーのようだ。脚が半ば失っていて満身創痍である。

 殿下とやらは先頭に立って体を張って蜘蛛を押し込もうと盾を振り回していた。

 善戦といっていいだろう。

 よく見ると体のあちこちに蜘蛛の糸が絡まっている。よく動いてるな。

 後衛から魔法が飛んできて蜘蛛を焼き、胴体が剣で両断された。

 どうやら彼らも勝ち抜けたようだ。

 周囲の洞窟は規模が大きい。クレール山脈の大トンネルっぽいが。

 経験値稼ぎなのか。何かを求めて迷宮に挑んでいるのか。

 これだけじゃ良く分からんな。


 ホールティも見ておく。

 変わらず盛況なようだ。もう火は沈んでいるがあちこちの松明が見える。

 前よりも増えてるな、明らかに。

 繁盛しているのは何よりだ。


 【遠視】と【遠話】を解呪すると背後に気配が。

 サビーネがオレの背中を凝視していた。

 「どうかしたのか?」

 「いえ、おおまかにサイズを把握したかったので」

 「縫い物か?」

 「はい」

 「オレのは後回しでもかまわないのだが」

 「主人が奴隷の縫い物を着ていない、というのは奴隷としては沽券に関わる重大事です」

 えー。

 そこまで重たいものなの?

 「あ、古着は適当に雑巾にしていってます」

 サーシャが手に雑巾を持っていた。

 なんか血で汚れてるように見えるが。オーガの血にどっぷり浸かった奴か。

 「サーシャさんの針仕事はなかなか上手です。肌着でも問題ないと思います」

 「そうか」

 分からないからな。任せるしかあるまい。

 「あ、がんばります」

 サーシャまで真面目か。


 オレはオレで他にも確認しておきたいことをやっておこう。

 今まで先延ばしにしていた事があった。鑑定だ。

 【鑑定の鏡】【遠見の水晶球】【魂の香炉】、そして指輪を目の前に並べた。

 【アイテムボックス】から魔水晶も1つ出しておく。

 鑑定の鏡に手をかざし魔力を僅かに送ってみる。

 鏡の淵に並ぶのは魔法式を内包した魔結晶の筈だが反応がない。

 強力な魔道具にありがちな弊害が出ていた。

 込められた魔法式が高度で強力であるが故に起動させるのに多くの魔力を消費するのだ。

 一般に出回っている【鑑定の鏡】ならオレでも簡単に操作できるんだろうが。

 困ったものだ。


 魔水晶を手に持ちながら【鑑定の鏡】の真上でMPを下へ送るイメージで念じる。

 【鑑定の鏡】に組み込まれている魔結晶に淡い光が点った。

 【鑑定の鏡】で【遠見の水晶球】を鑑定してみる。

 使い方は簡単、鏡の前にアイテムを置くだけだ。

 【鑑定の鏡】に嵌め込んである魔水晶に手を当てていればアイテムの情報を読み取ることが出来る。


 だが。

 頭の中をよぎっていく情報は読めない文字でした。残念。

 いや、そういう訳にいくかっての。

 支援AIに助けを求めた。ゲーマーとしては屈辱だが仕方がない。

 読めないんだし。

 (D-2、翻訳頼む)

 《了解。仮想ウィンドウに表示します》


 【遠見の水晶球】

 ・コモン魔法【マジック・アイ】付与アイテム

 ・使用者MP要

 ・魔力量 基準魔結晶2.58

 ・効果 MP使用時継続

 ・素材 真球水晶、白金

 ・製作 シェイド、テレマルク


 ちゃんと機能するようだ。

 【魂の香炉】も試してみよう。


 【魂の香炉】

 ・神聖魔法【輸魂】付与アイテム

 ・使用者MP要

 ・魔力量 基準魔結晶7.12

 ・効果 MP使用時継続

 ・素材 魔結晶3、オリハルコン、銀、白金

 ・製作 ガルズ、テレマルク、ジュディス


 神聖魔法付与アイテムなだけある。

 基準魔結晶とは魔結晶に必要な最低限の魔力量を1.00としている数値だ。

 数値が高いほど強力かつ高度な魔法が使用できると考えていい。

 それは当然、売り買いする価格に反映される。

 魔結晶の取引価格は変化するものだから飽くまでも参考になるって程度だ。


 さて次は本命だ。

 日本刀を鑑定してみる。


 【***】

 ・付与不明

 ・使用者MPの要、不要不明

 ・魔力量 測定不可

 ・効果 不明

 ・素材 不明

 ・製作 ***


 なんですか、これは?

 不明点ばっかだし。それに***は何だ。

 謎アイテムが謎であるってことが分かっただけだった。


 指輪の鑑定もしておくか。

 『微笑』のパーノールの持ち物で4つある。

 見覚えはあった。だがいずれの指輪も魔道具化された所までオレは見ていない。

 その前にゲームを離脱してしまっていたからだ。

 パーノールが魔法陣で長期間の儀式を行い魔道具化しようとしていたのは知っている。

 基礎となる指輪を作ったのはガルズだが、指輪に付与魔法で結界を施したのはオレだからだ。

 儀式でどんな魔法を封じようとしていたのか。

 パーノールは教えてくれなかったが、相当に大掛かりなものなのは間違いあるまい。


 黒く光る指輪を鑑定してみる。


 【相克の指輪 黒】

 ・天使封印アイテム、MP供給、魔力活性

 ・使用者MP不要

 ・魔力量 測定不能

 ・効果 常時継続、相克効果***

 ・素材 オリハルコン、銀、金、白金、昇華魔結晶5

 ・製作 ガルズ、シェイド、パーノール


 文字だけではない。封印されている天使の姿が見えた。

 それも数多くの天使が蠢くように、互いが互いを貪るかのように絡み合っていた。

 異様な風景だ。

 魔物を隷属させて封印するアイテムは珍しくはないが、これはちょっと想定外。

 前作のイベントであった天の御使いとの大規模戦闘。そこで一時的に封印して捕えていた天使達だろう。

 こんな形にしていたとは。


 他の指輪はまさか。

 白く美しい指輪を鑑定してみる。


 【相克の指輪 白】

 ・悪魔封印アイテム、MP供給、魔力活性

 ・使用者MP不要

 ・魔力量 測定不能

 ・効果 常時継続、相克効果***

 ・素材 オリハルコン、銀、金、白金、昇華魔結晶5

 ・製作 ガルズ、シェイド、パーノール


 こっちは悪魔か。

 不定形で絡み合う醜悪な悪魔達の姿が見えた。

 昇華魔結晶とは魔結晶の最上位で結晶ですら魔力をこれ以上チャージできなくなった状態を指す。

 尋常じゃない。

 いかに魔法陣を用いて時間をかけて天使や悪魔を封印するのだとしても、この程度では足りない。

 どうやって封印したのか。


 相克、とあるのは対応する魔道具が他にあることを示している。

 まさかね。

 天使の封印に悪魔の力を、悪魔を封印するのに天使の力を流用しているのか。

 2つの指輪を同時に鑑定してみる。


 【相克の指輪 黒/白】

 ・相互封印アイテム、MP供給、全能力活性、限界突破、相克共鳴同調

 ・使用者MP不要

 ・魔力量 測定不能

 ・効果 常時継続

 ・素材 オリハルコン、銀、金、白金、昇華魔結晶5/5

 ・製作 ガルズ、シェイド、パーノール


 やはりこの2つの指輪はペアだ。

 文字を見てるだけで頭が痛い。

 パーノールめぇ。

 ヤバそうな文字が並んでいた。

 MP供給は読んだ通りだ。封印した天使や悪魔からMPを使用者に与える効果だ。

 魔力活性は魔法ダメージ向上、そしてより高位呪文を使用可能にする効果になる。

 全能力活性は全てのステータスを底上げする効果だ。それも上限の限界値にまで、だ。

 限界突破は更に限界値をも無視してダメージを底上げする。

 最後の相克共鳴同調。

 天使と悪魔の間に相克関係を封印で強いて共鳴させるとどうなるか。

 とてつもない力が生じる。

 その力を利用できるのだとしたら。

 限界突破の効果と併せて、とんでもない力を行使できるだろう。

 似たような構成で組んだ装備がある。『暁』のジュリアの鎧兜に大剣がそうだ。

 あれだってチート紛いの代物だったのに。

 この指輪はチートそのものだ。


 まだ2つ指輪がある。

 イエローリングとシルバーリングだ。

 イヤな予感しかしない。


 【***の指輪】

 ・***封印アイテム、***、***

 ・使用者MP不要

 ・魔力量 測定不能

 ・効果 召喚

 ・素材 オリハルコン、金、白金、昇華魔結晶3

 ・製作 ガルズ、シェイド、パーノール


 イエローリングには何かが封印されている筈だが、その姿は何なのか見えない。

 なんじゃこれは。


 【***の指輪】

 ・***封印アイテム、***、***

 ・使用者MP不要

 ・魔力量 測定不能

 ・効果 召喚

 ・素材 オリハルコン、銀、白金、昇華魔結晶3

 ・製作 ガルズ、シェイド、パーノール


 シルバーリングも同じだった。

 謎だ。

 パーノールめぇ。

 この4つの指輪は危険だ。

 余程のことがない限り使用するのはやめておこう。

 ゲームバランスを大きく破壊するだけだ。

 では日本刀はどうするか。

 こっちは今更だな。

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