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反省点

 懸念していた事が現実になりそうだ。

 部屋の天井が高くなってる時点でイヤな予感がしてたけどさ。

 6階で現れた魔物はケルベロスだ。3つ首の猛犬でオルトロスの上位種になる。

 ギリシャ神話では2つ首の犬の魔物オルトロスの兄に相当するんだっけ。

 オルトロスと同様にブレスを吐くし、唾液には毒もある。尻尾はヘビだ。

 機動力でオルトロスには劣るが恐ろしくタフな相手だ。

 なによりデカい。


 ちょっと強くなり過ぎだろ。


 「サビーネ、距離をとって弓矢で援護しろ!」

 「はい!」

 指示してる間にカティアは真っ直ぐ突っ込んでいった。

 サーシャは右回りに迂回するように迫っていく。

 真ん中の首がブレスを吐く気配を見せたその時。

 矢が真ん中の首の奴の目を貫いた。

 目から火が吹き上がって周囲の肉を焼き始めた。

 ラクエルの援護だろう。矢に火の精霊力が宿っていたのだ。

 不意を突かれた形の魔物の足元をカティアが駆け抜けた。

 左前脚にクレイモアを叩き込んでいたのが見えた。魔物が体勢を崩して前傾していく。

 なんとか立ち上がろうともがき始めた。

 どうやら脚は両断にまでは至ってなかったようだ。

 カティアの背後を突こうとした尻尾のヘビをサーシャがダガーで斬り付けた。

 だがこちらも両断には至らない。

 オレも日本刀の鯉口を切って隙をうかがう。

 サーシャとカティアにブレスを吐こうと後ろを向いた右首の奴を狙った。

 喉元を裂くように斬り込んだ。

 喉から大量の液体が噴出して床を濡らしていく。

 頭に降って来る液体を避けながら右前脚を薙いだ。

 間違いなく大ダメージの筈だが両断に至らない。

 オーガの手足をも両断したことがあるんだが。

 ケルベロスの前脚は太いことは太いがオーガほどじゃない。


 足の速さを活かしてその場を離脱する。

 床を濡らした液体はブレスで吐く予定のものだったらしい。

 火が点いた。

 「こいつの足を止めろ!」

 魔物の後ろに回っていく。ついでに右後脚を薙で斬りにしてやった。

 炎に包まれながらオレの方に首を向けてくるが、その首元に矢が次々と突き刺さる。

 魔物が壮絶な悲鳴を上げた。

 一瞬の隙が生まれる。

 さらに右後脚に撃ち込んでようやく両断できた。

 遅れて左後脚が両断されたようだ。サーシャかカティアだろう。

 もがく尻尾のヘビも日本刀で両断しておく。


 まともに動けなくなった魔物の体の下ではまだ炎が燻っている。

 肉が焼ける匂いが充満していた。奇妙な匂いも混じっている。

 「この匂いは毒だな。一旦距離をとれ。首の前に出るなよ、まだブレスを吐いてくるぞ」

 全員で魔物の後ろに回って距離をとった。

 「毒をまともに吸い込んでないだろうな?」

 「あ、大丈夫です」

 「全然平気ー」

 「まあ大丈夫だろ」

 「離れてましたので大丈夫だと思います」

 鎧は竜鱗が組み込まれることで解毒効果も備わっている。だが毒による苦痛まではどうだろう。

 前作では痛覚を感じることがなかったから、どうなっているのかは分からないのだ。


 ケルベロスは前脚だけでこちらを向こうとしている。

 なかなかしつこいな。

 「サビーネ、この突撃槍はこういう使い方も出来る」

 馬体に沿うように固定してある槍を引き抜くと逆手に持つ。

 視線は腹の真ん中で固定する。

 投げつけた。

 槍が魔物の腹の真ん中に吸い込まれていく。直径1mほどの大穴が空いた。

 槍は部屋の反対側の壁に突き刺さっている。

 仕留めたか。

 とか思っていたら、まだこちらを向いて攻撃を試みようとしてやがる。

 もうちょっと力を込めて投擲すべきだったか。

 だが一度大きく痙攣したかと思うと動かなくなった。あれだけの大穴空けられてもしばらく動けるとは侮れない。

 「・・・あの威力はなんなんですか?」

 「あの槍には魔法がかかっている。効果は見ての通り、貫通力の強化だと思えばいい」

 「・・・貫通、ですか?」

 「そうだ。使い慣れたら体ごと突撃してみるといい。効果は高いぞ」

 「投げるのは得策じゃないように思えますが」

 うん。

 回収するのは面倒だしね。

 「まあな。今みたいな使い方もできると覚えているだけでいい。奥の手だな」

 「はい」

 サビーネは真面目だな。

 投擲槍ならジャベリンがあるが、そこまで持ち歩かせるのはもっと先でいいだろう。

 弓矢もあるしな。

 【アイテムボックス】があるにせよ、荷物を増やしすぎるのは宜しくない。


 ケルベロスの死体が消えた。

 壁に刺さった突撃槍を引き抜きサビーネに渡す。

 「その弓矢も魔法がかかっている。同じく貫通力の強化だと思っていいぞ」

 「普通に使っていていいんですか?」

 「それでもいいが、意識を集中させるだけでいい。そのうち慣れる」

 「もしかして、このメイスも、なんですね?」

 「そいつは神聖魔法で強化してある。アンデッドに有効だ」

 なんか真剣な顔で悩み始めた。疑念を払拭できない理系女子ってこんな感じだ。

 「ではこの盾も、なんですね?」

 「ああ。ま、普通に盾として使ってくれていればいいさ」

 盾の方は高い種族レベルが必要だが、面白い機能が組み込んである。

 弓矢を使っている間にも盾による防御ができるようになっている。オレがそういう風に魔法式を組んで付与したのだ。

 今のサビーネでは使いこなすのは無理だろうから説明は省いておく。


 7階へと進む。

 相手次第では【転移跳躍】で離脱することも考えないといけない。

 あまり悩ましいのが出現しないで欲しかったのだが。

 また部屋の天井が高くなっている。6階よりも更に高かった。

 どんだけデカいのが出るのかと思ったら。

 オーガが徐々に出現し始めていた。


 「あ、あの、オーガです、よね?」

 「まあオーガだねー」

 「だな」

 「・・・オーガは初めて見ました・・・」

 ちょっとこれは勘弁。

 サビーネの力を見るためだったんだが、それどころじゃなくなる。ここは逃げるか。

 サーシャ達を見ると・・・戦う気満々で得物を構えていました。

 「この辺で止めてもいいんだが」

 カティアはもう腰を落として突撃の構えを見せている。

 「ちょっと暴れ足りないんだよねえ」

 うわ。

 ちょっとだけだがカティアの【半獣化】が進んでいるのが感じられる。

 仕方ないか。

 やる気になってるのを挫きたくはないしな。

 「・・・サビーネは弓矢で援護だ。オレ達の戦い方は良く見ておくように」

 「はい」

 「そこまで緊張しなくていいぞ」

 「・・・相手はオーガなんですけど」

 うん。普通はサビーネの反応で正しい。

 サーシャ達はオーガ相手に戦った経験があるからな。

 「先鋒はオレがやるぞ」

 オーガが時間をかけて出現し終えたのを合図に。

 こちらから攻撃を仕掛けた。


 サーシャが右側に迂回するのを横目に確認しながらオレは真っ直ぐにオーガへと突進していく。

 1つ、試してみたいことがあった。

 精神魔法の【自己加速】を念じる。同時に【身体強化】と【重力制御】も追加した。

 元々、サーシャ達の【半獣化】の影響でオーガの動きはゆっくりと見えるようになっていた。

 これに【自己加速】を上乗せしたのであれば相乗効果も期待できるだろう。

 効果が高まることにより顕在化する問題が1つある。

 重力加速度。

 月の上で走るような感覚になってしまうのだ。

 ジャンプすると地面に降りるまでの時間が迂遠に感じられるようになる。

 これを補正するのに【重力制御】を使うのだ。【念動】の応用で慣性制御を加えた魔法で、これで普段どおりの感覚で戦える。


 オーガが左拳を振り上げ、ゆっくりとオレに向けて叩きつけようとしていた。

 鯉口を切って抜き撃ちを右足首に見舞ってやる。

 切っ先がオーガの足に触れる。

 滑るように切っ先が肉の中に吸い込まれていく。

 包丁で肉を切るように、腕を引いていった。

 肉を、両断する、感触が、触覚で、手を、伝わって、くる。

 明らかに皮表面程度しか切っていない筈なのに。

 オーガの足首は両断寸前になっていた。

 おかしいよな。


 日本刀を両手で持って左脚も薙いでやる。

 戦果を確かめずにそのまま駆け抜けた。

 部屋の壁を利用して左へと迂回しつつオーガの様子を見る。

 肩口に矢が刺さっている。矢から炎が生まれて何かの形を成して行く。

 鳥だ。赤と黄の極彩色で炎を纏っている。

 フェニックスか。

 それにしては小さすぎるが。

 炎の鳥はオーガの肩を翼で叩いて焼きながらオーガの顔を嘴でつつき始めていた。

 オーガは鳥の攻撃に手で払おうとするが、その手も炎で焼かれてしまっている。

 カティアがクレイモアを右脚太ももに叩き込んだ。だが両断は出来なかったようだ。肉の鎧に阻まれていた。

 (手を離せ!)

 念話で指示すると、オレもオーガの背後に迫る。

 カティアがいた場所をオーガの拳が素通りしていた。

 (思いっきり殴れ!)

 サブウェポンのメイスを掴もうとしていたカティアを制して殴るよう指示する。

 カティアがオーガの右脚のふくらはぎに拳を叩き込んだ。

 その一撃だけでオーガが転ぶ。

 ついでに右脚のふくらはぎからは大きな肉片が削り取られていた。

 同時に空気を震わせる音が甲高く響いた。サーシャがダガーの能力を発動させていたようだ。

 オーガの右脚太ももに大穴が空く。太ももに食い込んだままのクレイモアが地に落ちた。

 炎の鳥がオーガの顔に覆いかぶさるように駆け上がると再度目をつつきだした。もちろん顔を焼きながらだ。

 えげつねえな。

 卑怯だ。つまり素敵ってことだ。

 オレもオーガの右肩口に日本刀を斬り降ろす。一撃で肩から両断され右手が地に落ちた。

 オーガの腹に矢が食い込み周囲の肉を大きく削いでいく。

 カティアの右拳がオーガのこめかみ辺りに叩き込まれた。

 頭の反対側から血が大量に噴出していく。

 オーガが全身を痙攣させ始めた。

 身体の各所で傷が自己修復しているが、ダメージが修復してゆくのを黙って見過ごすはずもない。

 反撃することもできなくなったオーガを5人で囲んでタコ殴りにして止めを刺した。


 「・・・すごい・・・」

 サビーネは息を呑む、といった感じで驚いているようだ。

 うん。すごかったよな。

 それはさておき。

 「ラクエル、さっきの鳥は何だ?」

 「んー、最近仲良しになったフェニックス・パピー。まだ幼鳥だからー」

 フェニックス・パピーか。

 「そんなのがいたのか?」

 「シナモンの枝が手に入ったから。暇を見て仲良しになってたんだー」

 そういえばシナモンはフェリディの町で買っていたな。

 フェニックスはシナモンの枝で巣を作るってのは伝説だと思っていたのだが、何か関連があるのか。

 「召喚はサラマンダーより大変なのか?」

 「うん。カーシーみたいなもんかなー?」

 中位精霊といった所なんだろうな。


 カティアは不思議そうな顔で自分の拳を見ていた。

 「この鎧はもしかして」

 「殴って戦ってもいいぞ」

 「やっぱそうか」

 カティアの拳の一撃は身体を回すようにしたパンチだった。ボクシングのフックだな。

 広背筋が強すぎるとストレートやジャブといいた真っ直ぐ当てるパンチは打てない。

 格闘をこの先も鍛えるのなら訓練はしておいた方がいいか。

 「まあ様子見ながらでいいかな?剣を振り回すのも性に合ってるしな」

 どっちにしてもカティアは男前だ。


 さて、次の階はどうしようか。

 間違いなくオーガよりも強い魔物が出てくることが確実だ。

 「次は相手次第だが跳ぶぞ」

 全員が頷くのを確認して8階に挑んだ。


 部屋の天井は高いままだ。またデカいのが来る。

 ロックビーストが出現しようとしていた。

 ドラゴン亜種としては小さいほうだ。ドラゴンパピーを一回り大きくした位になるだろう。

 それでもオーガ並みに大きい。

 4本の脚で支えているその巨体の表皮は岩のようにゴツゴツと硬く分厚い。大抵の通常武器による攻撃は通じない。

 救いがあるとすれば動きがやや鈍い位だ。

 だがオレ達の武装であれば削るのは容易いだろう。

 「こいつなら倒せる。噛み付きとブレスには注意しろ。動きは止めるなよ」

 オレにはさっき使った魔法効果が残っている。

 少し試してみたいこともあった。こいつは今日最後の相手としよう。


 思いっきり、やってみるか。


 ロックビーストの全身が出現し終えた。

 同時に真正面から突っ込んでいった。

 いきなり迫るオレに向けてブレスを吐こうと喉を膨らませていく魔物に。

 一気に迫る。ブレスを吐く前に攻撃するのであれば。

 【転移跳躍】

 魔物の喉のちょうど下へと転移した。

 膨らんでいる喉に手を当てて魔法式を構築する。

 掌の上に球体の形で結界を構築し、属性魔法の【フリーズ】を込めていく。

 さらのは結界そのものを中心に収束させてから一気にその効果を拡散させた。

 魔物の喉元が一気に凍結した。

 ショートソード2本を引き抜き【収束】を念じる。

 脚に、胴体に、次々と斬りつけていってMPを吸い取ってやる。

 魔物の動きは恐ろしく鈍く感じる。遠慮なしだ。


 魔物は凍結されているにも関わらずブレスを吐こうとして失敗した。

 オレの居場所を見失った魔物の身体に矢が次々と突き刺さる。

 ダメージは通っているだろうがなにせタフな相手だ。

 致命傷は1つもない。


 矢の1つが魔物の右前脚に突き刺さると、そこから冷気が噴出していた。

 雪精ジャック・オ・フロストが矢にまとわりつくように顕現して脚を凍らせつつある。

 カティアは右手に持つメイスで左前脚を何度も殴りつけていた。

 戦果は大きかったが足を止めたせいで反撃を食らったようだ。

 振り回された尻尾がカティアを直撃していた。

 かろうじて盾で受けてはいたものの、部屋の壁にまで吹き飛ばされる。

 (ラクエル、カティアの治療をしろ!)

 【位相反転】を念じて不可視の壁を目の前に築くと、ショートソードに【フリーズ】を念じてやる。

 魔物の脚を斬る度にMPを吸い取る。

 同時に魔物を少しづつ凍らせていく。


 凍りついた左前脚にサーシャがダガーで斬り込む。

 高周波振動で強化された剣先は固形化した表皮をバターのように切り刻んでいった。

 残る脚は3つ。

 高速で移動しながら攻撃する脚を変えていく。ついでに尻尾にも攻撃を加えた。

 半ば凍りついた左後脚にカティアがメイスを叩き込んでいた。

 もう戦線復帰したのか。

 怒りの一撃で脚が見事に吹き飛んだ。

 左側の脚を喪失した魔物は横に転がりながらも尻尾を振り回して攻撃を継続してくる。

 その尻尾の根元に槍が飛んできて大穴を空けていた。

 サビーネが投擲した槍だ。

 それでも尻尾は動くのをやめようとしない。

 オレとサーシャで何度も攻撃を当ててようやくその動きが止まった。


 まだ蠢いてオレ達に凶悪な眼光を向けてくるロックビーストだが、最早反撃する術を失っていた。

 5人全員でフルボッコタイム。

 止めを刺したのはカティアの放ったクレイモアによる斬撃になった。


 まあ倒せたし結果オーライ、と言いたい所だが反省は早めにしておかなくちゃな。

 「カティア、足を止めたのは失敗だったな」

 「わりい」

 オレよりはるかに体格のあるカティアが怒られる様は滑稽に写るのだろう。

 ちょっとだけサーシャが笑うのが聞こえたぞ。

 「身体のほうは大丈夫だったか?」

 「頑丈だから。ラクエルに回復魔法をかけて貰ってるし」

 「まあ余裕だねー」

 サビーネもちょっと呆れ顔だ。

 「ラクエルさんは精霊魔法だけでなく神聖魔法も使えるんですか?」

 「まあねー」

 「ご主人様もやはり魔術師だったのですね・・・呪文の詠唱は聞こえませんでしたが」

 「そういうものだと思ってくれ」

 細かい説明は放棄した。長くなりそうってのもあるがオレがボロを出しそうだしな。

 サビーネの疑念はこの先も晴れることがないかもしれない。


 「今日はここまでだ。フェリディに行って泊まることにする」

 そう宣言を残して塔を出ることにした。

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