表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/87

観光?

 今、新たに手元にレイジオ、ベネト、オスター、ジズの道標がある。

 そして行き先不明の道標も行き先2つ分が残っている。

 どれから行こうか、実に悩ましい。

 行動範囲を一気に拡げようとしたらこれだ。

 町に入らずに【フィールドポイント】を作りに行こうか。

 オスターからフェリディ寄りにはピエモレもあるから、ついでに寄るのがいいだろう。

 現実世界のイタリアに相当するかなりの地域をカバーする筈だ。


 レイジオの南はどうなっているのか。

 前作では魔物の領域で埋め尽くされていた。それだけに魔物討伐にはいい狩場でもあったんだが。

 縁のあった土地にはできるだけ回っておきたいが多すぎて困る。

 忘れてる土地も多いがその辺りは気にしてもしょうがない。

 いずれ思い出すこともあるだろう。

 「今日は転移のオーブを使って各地を回るぞ」

 「あ、はい」

 「はいはーい」

 「おうよ」

 今日くらいは観光旅行気分で行こう。


 転移のオーブに購入したばかりのジズの道標を突き刺して転移した。

 跳んだ先は港町を見下ろす丘の上だ。すぐ下に町の城門が見える。

 リグリネに比べるとややこじんまりとした港町だが、それでも立派なものだ。

 むしろ塔の数はリグリネよりも多い。町を取り囲む城壁に塔も併設されている。

 随分と個性的な構造の町だ。

海峡を跨いで大きな陸地が見えている。半島のように見えなくもないが、人の住んでいる気配がない。

 おっと。

 詮索するのは後回しだ。

 地面に手を当てて【フィールドポイント】を念じる。

 次の道標を取り出すと転移のオーブに突き刺して跳躍した。

 

 次に跳んだ先は遺跡のような場所だった。周囲に人気はない。

 眼下には開けている。街並みが重なるようになっている。都市と言って差し支えない規模だろう。

 レイジオ、ローマに相当するメリディアナ王国の首都だ。

 さすがに首都なだけあって広大である。

 前作でここは拠点にしてた時期もあった。眼下の建物の中で一際目立つ宮殿と巨大な教会には見覚えがあった。

 それにここは魔術師にとって重要な都市でもあった。学問を修める施設、通称で魔道協会があったのだ。

 今もあるのだろうか。

 前作、カウンターストップの1人『双天』のサーラは魔道協会を破門されており、その仲間と見做されたオレも賞金首になったことがあった。

 おっかない暗殺者達には閉口したものだ。

 賞金首は取り下げになったが、若干のトラウマになってあまりここには足を向けなくなった。

 だがここを拠点に冒険をすることもあるだろう。

 レイジオの南は強い魔物の巣窟が数多くあったのだ。稼ぎ所なのである。

 今もそうあって欲しいものだ。

 遺跡の床に手を当てて【フィールドポイント】を念じる。

 次に行こう。


 次に跳んだ先は水路の脇だった。街道の先に見えるのは水門に船着場だ。

 ベネト、名前からして分かるが現実世界のヴェネチアに相当する水上都市だ。

 但しこのベネトは現実にあるヴェネチアの数倍以上の規模があるだろう。

 現実世界のヴェネチアは世界遺産保護指定都市になっている。

 数ヶ月前にはニュースにもなった。住民を全て退去させて停滞フィールドによる半永久保護措置が検討されていたのだ。

 21世紀には海面水位の上昇で水没の危機が叫ばれていたが、継続的に保護する努力がなされていた。

 24世紀には海面水位は逆に下降してしまっているが、保護が必要であることに変わりはない。

 京都やローマといった歴史ある都市は宇宙にそのまま移築されている。コロニーまるごと1つを占拠する形で、だ。

 ヴェネチアは若干事情が異なっている。海がなければヴェネチアではない、という意見が多く、地上で保存される可能性が高いのだそうだ。

 人口1億人を誇る拡大EUですらかつての都市開発を放棄していた。

 観光資源となるヴェネチアのような都市も、観光のバーチャル化が進んでいて収入が見込めなくなってきている。

 これも時代の流れだ。

 そういえばお世話になった交易商のリッティさんもこの都市にいる筈である。あの奥さんも、だが。

 訪ねてみるのもいいだろう。

 次だ。


 次に跳んだ先は巨石の下だった。うおっと、危ねっ。

 どうやら丘の上にある古代の遺跡跡のようだ。周囲を見回すと山だらけである。空気は薄いが気持ちいい。

 ラクエルなんかはうっとりした表情になっている。

 眼下には山々の間に町が横たわるように見えている。牧歌的で可愛らしい小さな町だ。

 オスター、現実世界のアオスタに相当する町になる。

 城壁は設けていないのは地形そのものが天然の要塞となっているからだ。

 3つある峠道は頑丈な関所が塞いでいる。

 ここは内陸地への交通の要衝であると同時に他国との国境の町だ。前作でもちょくちょく訪れていたっけ。

 鉱石の流通が多いので付与魔術師がアイテム作成材料を調達するのに都合のいい町だったのだ。

 今もそうだといいんだが。

 転移のオーブはいくつ持っていてもいい。

 ここは寄っていこう。


 城門を守るのはドワーフとエルフのペアだった。

 ドワーフがオレの冒険者ギルド登録のプレートを確認してる間、エルフの男がラクエルを熱い目で見ている。

 こらこら、私のだから。

 つか外見は普通のエルフだけどダークエルフですから。


 町の中は農村のような雰囲気を残していた。

 街道沿いに石造りの建物が密集しているが、それ以外は牧草地と家畜の放牧地になっているようだ。

 こんなんだったっけ?

 尖塔は町の規模の割りに多くて5つある。

 街道が交わる三叉路に出た。ちょっとした広場のようにもなっており、ここが町の中心なのだろう。

 ここが町の中心だろう。

 そしてその一角に冒険者ギルドはあった。


 町の大きさに比べるとギルドの規模は立派なものだ。

 いや、ギルドが酒場と宿屋を兼ねているのだろう。ギルドの1階の酒場には商人らしき人影が多い。

 当然ながら冒険者もいる。だが前作に比べると魔術師が少ないように思える。

 石を投げれば魔術師に当たるって位に多かった覚えがあるんだが。

 ギルドは小さいながらもプレイヤー掲示板と運営掲示板になる柱がちゃんとある。

 まあ今は無視だ。

 

 カウンターにいるドワーフに声をかける。酒臭い。

 でも酔ったように見えない。片手にエール酒を持っているが客に出すんだよな?

 「転移のオーブが欲しいんだけど」

 「銀貨7枚だぞ」

 そう言うとエール酒を飲みだした。期待を裏切らないなあたりはさすがドワーフだ。

 しかしなあ・・・微妙に高いな、転移のオーブ。

 「3つほど欲しいけど。あと道標はどこのがあるのかな?」

 「レイジオ、ベネト、リグリネ、メディオラ、フェリディだな」

 メディオラ以外は行った事のある所か。

 メディオラは覚えている。現実でのミラノに相当する都市になる筈だ。フェリディから見たら山をいくつか越えた北側になるだろう。

 「じゃあメディオラの道標を1つ追加で」

 「銀貨8枚だ」

 金貨1枚と銀貨4枚をカウンターに置く。

 「じゃあ転移のオーブ3つで。この辺りに適当な迷宮はあるかな?」

 ドワーフが転移のオーブとメディオラの道標をカウンターに出しながら壁の一角を指し示す。

 「この辺りは迷宮が多いんでな。簡単な情報は掲示してある」

 ほう。覗いてみるか。

 オーブと道標を【アイテムボックス】に放り込むと掲示板に向かう。

 

 掲示板には羊皮紙の断片を重ねて綴じられている冊子がいくつもぶら下がっているタイプだ。

 表紙に迷宮の場所が記されてあり、細かい情報を冒険者たちがその後ろに追加していく形になる。

 適当に1つ選んで読んでみる。

 支援AIが自動で仮想ウィンドウを立ち上げて翻訳していく。


 [山猿のねぐら] 

 場所:ピエモレに向かう峠近辺

 難易度:初~中程度。

 探索:完遂報告あり、但し魔物の定着は常時確認される。簡易地図あり。

 生息:ウッド、ゴブリン、コボルト、スライム、マッドボア、マッドエイプ。

 特記:マッドエイプ変異種、カーバンクルの出現報告あり。

 採取:水晶、銅鉱。


 結構細かく記載してあるな。

 これならば初心者にも優しい。

 冒険者に支持されるよう努力しているギルドなのだろう。

 前作の運営もこういうちょっとした工夫は見習って欲しい。

 他の情報にもそそるものがあるが今は時間が惜しい。

 ギルドを出てピエモレへ向かうべく町を出た。


 ピエモレ、現実世界のトリノに相当する町になる。

 リグリネとオスターの中間に位置するから転移のオーブで跳ぶには中途半端な距離だ。

 それだけ近いってことだし、オレ達の移動速度であれば昼過ぎあたりで行けるだろう。

 「さて、ここからは山道を駆けていこう。先頭はオレが行く」

 「は、はい」

 「はーい」

 「おう」

 城門を出て門番の視線が届かないのを見届けると一気に駆け出した。


 高度があるので空気が薄い。

 少しだけ【代謝強化】を強める。呼吸が少し楽になった気がする。

 山道を行き交う冒険者を尻目に道を少し外れて野を駆けていく。

 当然、足場は悪いが【野駆け】がよく効いていて苦にならない。

 道を外れるのなら魔物にも遭遇するかと思ったのだがその気配はない。

 ラクエルが風精を先行させている訳だが、道行く人々の報告しかなかった。

 いささか退屈と言えなくもないが。

 それにも増してこの大自然の風景が素晴らしかった。

 臨揚感がすごい。

 ナノマシンを利用したバーチャル・リアリティで観光体験サービスか。

 現実に戻れたら絶対やろう。

 というか基礎特許の請求項目にあったよな、バーチャル観光。

 そんなことを考えながらの移動だ。退屈しなかった。


 ピエモレの城門前にはちょうど昼あたりでたどり着いてしまっていた。

 早すぎる。

 現実世界のトリノはもはや地上にない。都市ごと数基のスペースコロニーに移転してしまっている。

 歴史上、フランスとイタリアの国境に位置するこの場所は軍事と経済の要衝であり続けた。

 近代化してからは工業拠点として大きく発展している。

 だがこのゲームでは辺境の都市国家の1つといった所だ。

 町そのものも見事だが西に見える高山の峰はより一層美しかった。

 アルプス山脈に相当する山々だ。

 このゲーム世界では魔物が棲む魔境でもあるのだが、思わず見とれてしまう。


 道から外れた見晴らしのいい丘の上で【フィールドポイント】を念じる。

 ここから東に行けばメディオラだ。やや広い道が山々の間を縫うように延びていた。

 東側の風景もなかなかのものだ。

 転移のオーブにメディオラの道標を突き刺し跳ぶ。

 美しい風景を見てみたい、という思いに後ろ髪を引かれるようだ。


 次に跳んだ先は何の変哲もない川べりの荒地だった。

 地面に手を当てて【フィールドポイント】を念じておく。

 やや遠目に城壁が見える。メディオラの様子は見えない。

 「ラクエル、町の様子は見えるか?」

 「うん。結構大きい町だねー」

 このまま町を観光していってもいいが。

 まだ道標が残っている。

 ホールティで得た3種の道標のうちまだ2種は使っていない。

 敵陣の様子を探っておくのも悪くない。


 「携帯食と水を摂りながら少し待っていろ」

 サーシャ達に指示しておいて【遠視】と【遠話】を念じる。

 最初に確認するのは混沌と淘汰の迷宮16階の武具庫だ。

 机の上の石版に変化はない。


 次に【ムービングポイント】を仕掛けた兜を見る。

 どうやら洞窟かなにかの中の光景が見えた。

 光精ウィル・オ・ウィスプが宙に浮いている。

 その光の元にいくつかの人影が確認できる。

 見覚えのあるダークエルフの男。確か名前がゲフラ。

 ローブ姿で顔が見えない魔術師風の影が2つ。

 あの神官戦士の女。確か名前がラシーダ。

 見たことのない全身漆黒の装備の騎士が1人。顔は兜で分からない。

 軽装の戦士が2人。

 視線の基点は間違いなくルシウス殿下とやらだろうから8人パーティだ。

 彼らもどこかで探索行動でもしているのだろうか。

 

 次に緑の竜がいた廃墟の町を見る。

 遠くに見える崩れかけている尖塔の上に、いた。

 あのドラゴンだ。

 【知覚強化】を強めて凝視する。

 こちらに気がついている様子はない。

 だがドラゴンだけではなかった。

 ドラゴンに匹敵する大きな存在が、いた。

 見間違えようがない。

 大昔の大理石の彫刻のような偉丈夫だ。立派な髭を蓄えている。

 だがその肌は灰色が沈んだような色だ。まるで病人であるかのような。

 フロスト・ジャイアントだ。

 そしてもう1つ巨大な影がある。こっちも巨人だが背中側しか見えない。

 何者なのか。

 肌が赤茶色であればファイア・ジャイアントの可能性がある。

 だが今見えている巨人は小麦色の肌をしている。

 フロスト・ジャイアントに匹敵する体躯の巨人か。


 魔物として極上レベルの個体同士が至近距離で佇んでいるというのに争っているような気配がない。

 謎だ。

 聞こえてくるのも風音だけだ。

 見ていると遠近感が狂いそうになる。

 その場にオレはいないのだが、異様に緊張してしまう。

 暫く待ってみたが何も進展していないように見える。

 心残りになってしまうが先に進めよう。


 夜寒過ぎて転移した帝国拠点らしき場所を見てみる。

 城門からかなり離れた荒地に【フィールドポイント】を仕掛けてあるので拠点の様子は見えない。

 天候は荒れておらず快晴のようだ。

 周囲に魔物がいる様子もない。

 もう一度行って見るか。


 目を開けて【遠視】と【遠話】を解呪すると目の前にラクエルがオレを覗き込んでいた。

 おどかすなよ。

 「なんかドキドキしてる?」

 うん。伝わってしまっていたか。

 「大丈夫だ・・・ここから跳ぶぞ」

 サーシャとカティアが携帯食を食べ終わるのをしばし待つ。

 【転移跳躍】を念じてこの場所を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ