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探索行再開

 食欲を満たしたら性欲を・・・じゃなくて睡眠欲を満たすことになった。

 爆睡だ。

 夢なんて欠片も見ることもなく寝てしまった。

 気持ちよく起きたらまだ外は暗い。

 満月が西の空に沈もうとしていた。

 だがフェリディよりも遥か東に位置するホールティならばもう朝になっているだろう。


 宿の1階で昨日の夕飯と同じメニューの朝飯を摂る。

 ラクエルはヒマワリの種をカリカリ食っている。

 金髪エルフが珍しいのか、宿の主人の子供がラクエルにまとわり着いていた。

 ラクエルは胡桃やナッツを与えている。

 親御さんに内緒で餌付けするんじゃありません。

 まあ見てる分には微笑ましい。


 広場に寄って水筒に水を補充しておく。

 冒険者ギルドも開いているが、転移のオーブが補充できないのでは用事はない。

 広場の喧騒はやや治まってるようだ。

 幌馬車で睡眠をとっている人も少なくなってきている。

 まだ暖かい時期で良かったね。


 城門を出て門番に見えない位置まで到達した。

 【遠視】を念じて最後に目印しておいた【フィールドポイント】の様子を探っていく。

 朝焼けの光に浮かぶように廃墟が見えている。緑の竜の姿はない。

 そこから周囲をぐるりと見回していく。

 跳んで大丈夫なようだ。


 「よし、集まってくれ。跳ぶぞ」

 【転移跳躍】を念じる。

 探索行も今日が最終日だ。波乱がないようにお願いしたい。


 巨石の根元に跳んだ。

 周囲の様子を窺う。

 野鳥の鳴き声も聞こえる。

 森林の朝の空気が気持ちよい。

 そしてどうやらドラゴンの気配はない。

 事前に【遠視】で分かっていたとはいえ、少しホッとする。


 「大丈夫そうだな。ラクエルは元の姿に戻っていいぞ」

 暫時、目を閉じると金糸の髪の毛が銀糸に、白磁の肌が小麦色に変わっていく。

 いつもながら見事だ。

 「じゃあいつも通り始めるぞ」

 【知覚強化】【知覚拡大】【身体強化】【代謝強化】【自己ヒーリング】【魔力検知】【念話】そして【野駆け】を念じる。

 サーシャとカティアが【半獣化】する。

 ラクエルは精霊魔法で風精の【シルフィ・アイ】を発動した。

 サーシャ、ラクエル、カティアと手を繋いで【感覚同調】を念じる。

 目指す方向は南西、遠目でクレール山脈が見えていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 MP回復に適当な相手はすぐに見付かった。

 クリムゾンマンティス。

 ・・・適当だろうか?

 人間の倍近い大きさのカマキリで、表皮は硬いし両手の鎌で捕まったら酷いことになるだろう。

 1匹でも油断できない。なかなかの強敵だ。

 特徴的な真紅の羽が毒々しい。

 でもこっちはこっちで動きは早いし、身に着けている防具も優秀だ。

 問題なかろう。


 ショートソード2本を両手に抜いて【収束】を念じると赤い魔法式が浮かぶ。

 (カティア、メイスを使ってみろ)

 念話で指示を出しておく。

 サーシャが先行して突っ込んだ。

 待ち構えていたカマキリが攻撃しようとするタイミングで真横にステップする。

 普通の獣ならば虚をつかれる動きだろうが生憎こいつは昆虫系の魔物だ。

 その複眼はサーシャの動きを追っていることだろう。なんの感情も浮かべずに。

 カマキリの攻撃も速かったがサーシャはさらに速かった。

 追撃を楽々と回避すると距離をとった。


 カティアが盾を構えたまま突撃していく。

 カマキリはその盾に鎌を引っ掛けて引き寄せようとするが。

 カティアの方が速い。

 一気に飛び込むと脚にメイスを叩き込む。

 関節を砕いて脚1本を吹き飛ばした。

 おお、凄いな。

 オレも追撃をかける。

 脚2本に次々と剣を叩き込んでいく。MPが満たされていくのが分かる。

 体を反転させて胴体に剣を突き刺して・・・そのまま斬り裂いた。

 胴体の腹側だけは比較的柔らかい表皮になっているのだ。

 大ダメージを喰らいながらもカマキリは動きを止めようとしない。

 まともに動く最後の脚がラクエルの長剣で両断する。

 地に伏せたカマキリの背中をサーシャが駆け上がり、頭をショートソードで薙ぎ斬りにした。


 うん。

 昨日よりもいい感じだろうな。

 「メイスはどうだ?」

 「一発だけじゃ物足りないねえ」

 えーと。

 そうじゃなくてだな。

 「手ごたえはいいね。で、これにも何か魔法があるんだろ?」

 「まあな。意識を集中すれば使える。装甲が硬い相手に使うといい」 

 メイスやフレイルのように威力が通る武器はパワーファイター向けの武器だ。

 カティアが以前に使っていた戦槌も殴打武器だったし、メイン武器にしてもいいのだが。

 メインにしているクレイモアはやはり捨てがたい。

 魔法式破壊は呪文を唱えている対象に詠唱中断を強いるし、体力回復もあるから様々な局面で役に立つ。

 今オレが佩刀しているショートソードと同類の魔法式も複数あるし。

 サーシャのダガー1対も同様だ。

 元々はオレが使っていて『剣豪』のオベルに譲ったものなんだし。


 ただ剣や刀だけに武器が偏るのは好ましくない。

 刃物が通じ難い魔物は結構いるから備えておきたくなるんだよな。

 気分的なものではあるんだが。

 ゲーマーとしては備えておきたくなるんですよ。


 魔石をさっさと回収して先を急ぐ。

 MPの方はフル回復してるように感じない。もう2匹くらいは生贄が欲しい。

 そして法則が働いた。

 碌な獲物にありつけない。

 遭遇したのはウッドウォーカーだけだ。

 サーシャに一撃で屠らせた。魔石を拾う気が起きない。

 (ラクエル、進行方向から多少外れてもいい。獲物はいないか?)

 (探してるけどねー)

 森林地帯を抜けて草原を駆けていくと念話で報告がやっときた。

 (この先は湖沼地帯になるよー)

 またか。

 (そうか。ラクエル、【サーフェス・ウォーク】を用意しておけ)

 (うん。あとリザードマンが6匹見えるよー)

 ちょっと多いな。

 だが今の戦力ならばやれる。

 (よし。案内してくれ)

 (サーシャちゃん、もうちょい左ねー)

 4人が一陣の風のように駆けていった。


 この感覚は、間違いない。

 サーシャが【半獣化】をやや強めたようだ。

 カティアもそれに倣う。

 同時に駆けて行く速さが加速していく。

 これまでになく速い。

 オレの体感で言えば100m走全力疾走みたいな感覚になる。

 リザードマンが見えた、と思った時には既にサーシャが群れの中央を疾駆していった後だ。

 致命傷ではないにせよ、ダガー2本で散々斬り付けていった。

 オレも慌ててショートソード2本に【収束】を念じていく。

 カティアがメイスをリザードマンの構える盾に叩き付けた。

 一撃で粉々になる。ついでにリザードマンの腕も砕けたようだ。

 初撃でこれか。

 サーシャの使っているダガーは斬るために高周波振動を刃に生じさせる魔法式を組んでいる。

 カティアの使っているメイスは砕くために低周波で共振を起こすように魔法式を組んでいる。

 なかなかいい組み合わせになるだろう。


 オレも無傷のリザードマンの脇を通り抜けながら腹に剣を突き立てる。

 戦果を確認せずにその場を離れて次の獲物を求めて周囲を見回す。

 魔物達の動きがやたら鈍いように感じられた。

 【半獣化】の影響が強くなっているようだ。

 足を止めずに半包囲していく。MPをおいしく頂かなければならない。

 まだ1匹も止めを刺していなかった。まるで嬲っているかのようだ。

 いや、嬲っていた。

 (そろそろ仕留めていいぞ)

 オレの不遜な指示に斬撃が応えた。

 ラクエルが1匹の胴を裂き、倒れ伏した所を首元に剣を突き刺した。

 サーシャのダガーが脚を切り刻む。

 たまらず転げ回るリザードマンをカティアが蹴り飛ばした。


 カティアの3倍以上は重量がありそうなリザードマンが吹き飛んだ。

 

 なんかシュールな構図だが、オレは『剛腕』のグレーデンで散々見ている。

 なつかしいな。

 全身血まみれのリザードマンを次々と仕留めていく。

 尻尾を切断された個体が逃げ出していた。

 (カティア、斧を使え)

 【感覚同調】を追加で念じる。

 カティアがメイスを盾に戻し戦斧を取り出した。

 (斧に意識を向けろ。そして獲物から視線を外さずに・・・投げろ!)

 投擲武器でないのに戦斧が飛んでいく様はやはり何かがおかしい。

 いや、オレ達が使ってる武具の殆どは、何処かが、おかしい。


 最後に残っていたリザードマンは脳天を真っ二つに裂かれて沈んだ。

 (カティア、そのまま手に意識を向けていろ)

 戦斧がカティアの手元に戻ってくる。

 柄が丁度手に収まった。


 「・・・これも凄い」

 まあな。

 投擲用に【念動】の応用呪文【誘導】の魔法式を組んであるだけなんだけどな。

 それ以外は軽量化の魔法を付与された普通の戦斧だ。

 「目で視認できる範囲ならば投擲しても届く。遠距離の獲物に使え」

 「・・・この鎧も、なんかある?」

 「意識を集中させたら身体を強化してくれる。攻撃でも、防御でも、何にでも、だ」

 こう言ってはなんだが超人化しちゃうんだよ、その鎧兜は。

 ただ、装着者の能力に依存していることも事実なので、種族レベルも職業レベルも高いことが望ましい事に変わりはない。

 『剛腕』のグレーデンの戦い振りは超人のそれのようであり、悪夢のようでもあった。

 「まあそのうちに使いこなせるようになるさ」

 サーシャもダガー2刀流とショートソードの両手持ちを自分の判断で使い分けるようになっている。

 要するに経験を積めばいいのだ。


 魔石を回収していくと、4つ目で魔晶石に昇華した。結構魔力が貯まっていたようだ。

 残り2つは別にして回収する。

 リザードマンの得物は今の戦闘でいくつか壊してしまっていた。

 メイス2つに戦槌2つ、円形の盾3つを回収して【アイテムボックス】に放り込む。

 早くホールティでも武具屋が開いて欲しい。

 かなり売りたい代物が増えてきている。

 

 そこから南西へ沼地を進んでいく。

 遠くに霞んで見えたクレール山脈が大きく見えてきている。

 その峰は白く輝いている。

 さすがに雪山超えはする訳にいかない。

 雪山用の装備は用意していない、というのもあるが。

 あの山脈の峰は『霜の巨人』フロスト・ジャイアントの領域なのだ。

 前作では4箇所が住処としてよく知られていた。


 クレール山脈は北のほうで途切れて平野部になるが、そこは延々と続く沼地になっている。

 リザードマンを始めとした魔物の巣窟だ。

 いずれも人が往来できる地形ではない。

 だが、このクレール山脈には3つのトンネルがドワーフ族の手により造られている。

 陸路ではそれだけが物流の頼みの綱だ。

 一番北のトンネルは帝国側に確保された、と聞く。

 フェリディでもドワーフ族が冒険者や傭兵として多く見かけたものだ。


 残り2つのトンネルのうち、最も大きなトンネルで帝国側と小競り合いが続いている、と聞いた。

 となると、山脈の東側は帝国陣営がいるってことになる。

 (まだ沼地が続きそうか?)

 (・・・もうちょっとで抜けるよー)

 しばらく走ると沼地は抜けた。その代わりに大河を渡ることになった。

 川面は実に穏やかだ。

 川幅も広いことは広いが、オレ達の行軍スピードならば1分とかからずに渡りきるだろう。

 渡りきった瞬間。

 後ろで大きな水音が爆発した。


 川原から森へと入ろうかとしていたオレ達がそこに見たものは・・・

 でかいナマズだった。

 額に魔石が付いている。いや、魔晶石のようにも見える。魔物決定。

 その大きな口の中には細かい牙がたくさん並んでいる。サーシャあたりなら丸呑みにできそうだ。

 全長は10m近くあるのではないだろうか。胴体は太く黒光りしている。

 体に匹敵する長い髭が2本、周囲の地面を叩いていた。

 目が燃えるように赤い。こっちを見る目は威嚇するように思える。

 気のせい、気のせい。


 ・・・お馬鹿さんなの?

 川原の上に這い上がってのたうち回ってるだけだ。


 この魔物は知らない。

 「ふーん、キラーキャットフィッシュかあ」

 ラクエルは知ってるようだ。

 「川で遭遇したら怖い相手だけどねー」

 こうなっては形無しだよなあ。


 ビチビチと川原を跳ねている。

 その度に地面が揺れるような錯覚に陥りそうになる。

 どうしよっか、これ。


 「近づいちゃダメ。髭には毒があるよー」

 そういう事は早く言ってね、お願いだから。

 「あ、じゃあ私がやります」

 おお、サーシャちゃん積極的。任せていいか。

 ダガー2本を両手で構えて平行に持つとナマズに向ける。

 空気が徐々に震え出し、ピアノ線が弾け切れたような音が周囲に鳴り響く。

 ナマズの頭に大穴が開いた。

 大量の血を撒き散らし悶絶する。タフな奴め。

 「髭がなければいいんだよな」

 カティアが戦斧を投げつけて髭を切り落とした。

 ふむ、妥当な判断である。

 少し時間を置く。血まみれになりたくないから出血が治まるのを待った。

 「・・・じゃあ囲んで倒すか。尾の方には近づくなよ」

 安心してフルボッコにしてやった。

 ・・・それでも結構時間をかけてしまったのは内緒だ。

 タフにも程があるぞコノヤロウ。


 でもドロップアイテムに翡翠を落としてくれた。

 魔晶石も回収する。そこそこに強力な魔物であることは確かだろう。実入りがいい。

 「水辺はここまでか」

 「ここから先は森。山の方には行くのかなー?」

 そんな危険な事はしませんってば。

 「山沿いに南へ向かおう。少し急ぐぞ」

 サーシャとカティアが少しだけ【半獣化】を強めたようだ。

 オレも【野駆け】にMPを少し注ぎ込む。

 今日のうちに拠点になるような場所をみつけておきたいものだ。


 太陽は真正面で輝いている。

 ちょうど真昼といった時間だ。

 ここまでの森の中は獣や魔物の匂いも濃かったが、戦闘は回避しつつ進んでいた。

 というか大して稼げそうな相手がいない。

 サーシャ曰く、山が近いのでゴブリンの匂いが多くなってるそうだ。

 ゴブリンが起点になって造り上げられる迷宮もこの辺りは多くなっていることだろう。

 人間の集落の気配がまるでないから、為政者が討伐隊を派遣しないし、冒険者も当然こない。

 強力な魔物がいてもおかしくない。


 そして森を抜けたら唐突に現れたものが。

 海だ。

 砂浜だ。

 これでは先に進めない。


 クレール山脈から続く険峻な崖が海へと続いていた。

 さすがにあそこを抜けていくことはできない。

 かといって【サーフェス・ウォーク】では海原を行く事はできない。

 波が高いんですよ。

 川のようにはいかない。

 「・・・戻るか」

 「えっと、これはしょうがないと思うのですよ?」

 「ま、こんなこともあるよねー」

 「無駄骨か」

 いっそカティアみたいにクールに言い切ってくれた方が助かる。


 太陽を背に森の中へと戻っていった。

 色々と時間をロスしている。

 なんか今日はツイているのかツイていないのか、良く分からん。


 そんなことを考えている時にそいつが現れた。

 巨大な獅子だ。

 だが獅子の首元から山羊の頭も生えている。

 尻尾の巨大な蛇が威嚇してくる。


 キマイラだ。

 これはツイてるって言っていいんだろうか?

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