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カティア2

 今日も今日とて探索任務なのだろうか。

 やっぱり違うんだろうな。

 集まっていたのはもうお馴染みになりつつある面子だ。

 ここ数日は概ね6つのパーティが周辺探索を行ってきている。


 ここでも互いの功績を争う構図がある。

 オレは大して気にしていなかったが、確かに存在していたのだ。

 「今日からはこのホールティからより遠くへ探索範囲を広げていって貰う」

 ジエゴの爺様の狙いは明白だ。

 帝国の拠点を探ること。

 おおまかな地形を把握すること。

 この城砦だけでは点でしかないが、もう1つ拠点を得ることができたら線になる。

 さらにもう1つ得ることができたら面となる。

 「2つのパーティには東西の街道沿いをそれぞれ入って貰う。全員が馬に乗れるのは?」

 3チームが手を上げる。

 オレ達はもちろん挙手しない。

 その後はジエゴの爺様が担当を割り振った。

 オレ達は南西に向かうことになった。

 大まかな指示だが、そうするしかないよなあ。


 さらに転移のオーブを2つと道標を渡される。道標はフェリディのものだ。

 「可能な限り遠方まで到達して欲しい。故に戻る手段に転移のオーブを渡しておく。フェリディ経由でここへ戻れ」

 大盤振る舞いだ。

 今のオレは【転移跳躍】が使える。手持ちに転移のオーブが何個か残してあるし、フェリディの道標もある。

 戻ってくる手段ならば余裕がある。

 「探索範囲は3日じゃ。探索途上であっても3日後の夕刻にはここへ戻ってきて欲しい」

 ふむ、まあそんな所か。

 「携帯食と水も支給して貰えるか?」

 またあの傭兵だ。要求が細かい。

 だがこれだってプロとしての矜持なのだろう。自分の腕は安売りしないってのは見上げたものだ。

 「分かっておるとも。用意させる」

 ジエゴの爺様も苦笑するしかない。


 受け取った転移のオーブとフェリディの道標はカティアに渡しておく。

 「いいのかい?」

 「オレにはもうあるからいいさ」

 準備を整えるといつものように城門を出る。

 

 【知覚強化】【知覚拡大】【身体強化】【代謝強化】【自己ヒーリング】【魔力検知】【念話】そして【野駆け】を念じる。

 サーシャとカティアが【半獣化】する。

 ラクエルは精霊魔法で風精の【シルフィ・アイ】を発動した。

 この魔法では風精シルフを用いて広い範囲を監視・盗聴ができる。最近では偵察の補助に多用していた。


 そしてサーシャ、ラクエル、カティアと手を繋いで【感覚同調】を念じる。

 互いにかけたスキルの効果を共有する。

 それだけでなく相互作用でその効果はより強化されていく。

 オレですらマラソンランナー並みのスピードで半日以上走り続けることができるようになっている。

 蓄積する疲労も【自己ヒーリング】で解消できていた。

 ドーピングと言えなくもない。


 (では行くぞ)

 (あ、はい)

 (はいはーい)

 (おう)

 各々の思念が脳内に響いてくる。

 最初はゆっくりと、そしてホールティが見えなくなると一気にスピードを上げていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 隊形も確立してきている。

 先頭はサーシャ、匂いで異常を察知できるので都合がいい。

 進行ルートの選択も任せている。【野駆け】があるとはいえ、効率よく移動するにはどうすればいいのか、知っているのが大きい。

 狼人族は群れで行動することが多い。幼いころだけではあるが、その経験が活かされている。


 サーシャの後ろにカティアだ。

 装備している戦槌も盾も重量級だが、ハイペースで移動していてもまるで苦になっていない。

 サーシャが戦闘に入る際には、盾を使って体躯ごと体当たりを使っている。

 ここ数日の探索ではブラックベアやらマッドボアに遭遇することがあったが、サーシャに攻撃がいかないように牽制する動きも早かった。

 それに【感覚同調】で分かったことだが、視野が広く皮膚感覚が異様に鋭敏なのだ。

 危険察知はパーティ内では一番早いだろう。

 装備は一番見劣りするのだが、それを感じさせない。


 そのカティアの後ろがオレだ。

 ハッキリ言ってここ数日はあまり活躍していない。

 サーシャとカティアだけで魔物は仕留めてしまっているのだった。

 前作では職業は狩人系統は真っ先に育てていた。

 最上位職の遊撃兵レンジャー偵察兵スカウトはカウンターストップ状態だった。

 狙撃弓兵スナイパーも上位職としてあったが取得はしなかった。弓矢はあまり使わなかったせいだ。

 それだけに探索技能には馴染みがあるし、探索任務は好ましいとも思える。

 が、サーシャほどには役に立ってないよな。


 最後尾にラクエル。

 カティアがいるのでまだ普通のエルフの格好のままだ。

 風精シルフを上空に放ち、広域を探索させている。

 オレから戦闘回避の指示があればいつでも【姿隠し】を使うように言い含めてある。

 だがこれまでその機会はない。

 彼女も元々身軽だが、【感覚同調】の効果で実に素早く移動できている。


 ・・・

 実はオレが一番足が遅いのだ。


 成り行きでパーティメンバーがそうなっただけだ。

 オレ以外が女性なのも偶然だ。

 全員処女なのもきっと偶然だ。

 どうしてこうなった。

 もはや追加で男性をパーティに入れることが憚られるではないか。


 だが冒険者パーティとしての組み合わせは申し分ない。

 ラクエルに精霊魔法と神聖魔法を任せてしまう分、効率が悪いとも言えるが、オレの【自己ヒーリング】で十分カバーできている。

 追加メンバーは逆に選択の幅が難しいかも知れない。

 機動力が第一優先にすべきだろう。


 今回の探索では魔物は見つけてもスルーを基本にしている。

 途中、サーシャやラクエルから魔物の確認情報があっても進路上にいなければ無視だ。

 戦うのに適当な相手がいたらいいんだが。

 オレが結構MPを使っているがMP回復薬を使っていない。補給はどこかでしておきたいものだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 出会いたい時に限って出会えない。

 法則って怖い。

 森と草原を交互に幾つか抜けていったが、適当な相手は見つからない。

 見つかっても遠くて迂回しなきゃいけないし。


 半ば諦めた時にようやくその機会が訪れた。

 草原を横切っている中、水無川沿いに駆けていたその時だった。

 サーシャから念話で警告がきた。

 (前方からオークの血の匂いです。それに多分ブラストタートルもいます)

 ラクエルが確認の報告を念話で入れる。

 (オークは複数で横たわって動いてないね。多分亀さんたちが食事中)

 そうか。

 魔物同士でも全てが仲がいいって訳じゃない。

 こっちの都合だがMP回復の生贄になってもらおうか。

 (数は10匹確認)


 ・・・多いじゃねえか。


 ショートソード2本を両手に抜いて【収束】を念じる。

 赤い魔法式が浮かぶのを確認すると念話で指示を出す。

 (砂のブレスが面倒な相手だ。回避と防御は確実にしておけ)

 回答は行動で示された。

 サーシャとカティアが加速して先行する。

 つかサーシャが滅茶苦茶速い。

 カティアも速い。

 ええい、獲物を取られたらMP回復が出来ないじゃないか。


 オレも駆ける速度を上げていく。

 ラクエルはオレの左後方をキープしながら追随してくる。

 亀の食事場所に到達した時には既に3匹がカティアの攻撃を受けて悶絶していた。

 彼女は戦槌を甲羅に叩き付けていた。思いっきり。

 その一方でサーシャは得物のダガーで悶絶する亀の首に攻撃を集中させている。


 オレもようやく追いついた。まだ元気な亀共に攻撃を当てていく。

 MPが少しずつだが回復してくるのが感じ取れた。

 元気な亀が砂のブレスを吐き始める。

 もっとも、オレ達にブレス攻撃は当たっていない。こっちの動きが速すぎるのた。

 ブレスを吐くために首を伸ばしている所を狙っていく。

 オレが3匹目を仕留めた所で魔物は全滅していた。


 「全員、大丈夫だな?」

 力強い頷きが返ってくる。


 カティアの戦いっぷりだが、最初出会った時のような様子が見られない。

 戦闘狂、下手したら狂戦士のように見えたしな。

 連携が心配だったのだが、その懸念はここ数日で払拭されていた。

 今の戦闘でもサーシャとの位置取りで被らないよう、要所ではあえて足を止め、盾を使った防御をしていた。

 前衛に求められる役割をよく理解していると言える。


 戦闘能力も高い。

 基本パワーファイターだが、気配を消して接敵することも苦も無くやってのける。

 さすが虎人族、天性のハンター。

 狼人族は群れで狩りをするが、虎人族は単独で狩りをする。

 その適性がよく現れていた。


 その実、奴隷商人から買い取る気になっていた。

 サーシャは就寝時に抱きかかえられるのを嫌がる様子を見せていたが、それが唯のポーズなのは分かっていた。

 ラクエルは普段どおりニヤニヤしてるだけで今ひとつ反応が不分明だ。

 自然に振舞っているようだし大丈夫なんだろう。


 「サーシャ、オークの匂いは?」

 「あ、はい。目指す方向とは別方向に向かってますね」

 追跡はやめておくか。


 「よし、先を急ぐぞ」

 亀はドロップアイテムを残さなかった。死体で利用できそうなのは甲羅だが、下処理する時間が惜しいのでスルーだ。

 魔石を回収し終えたら探索行動に戻る。

 また森林地帯に突っ込んでいく。森の闇が深いがあまり苦にならない。

 先行するサーシャの感覚の一部が流れ込んでいる。

 オレ自身が狼か虎になったかのように駆けていく。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 体感で1時間ほど走ったあたりでサーシャから念話で報告が来た。

 (ご主人様、濁った水の匂いがします)

 (ラクエル、水場までの距離は分かるか?)

 (ちょっと待ってねー・・・まだだいぶ先だけど、湿地が続くみたい)

 湿地か。

 移動が面倒なんだよな。

 迂回するか。

 とか思ってたがラクエルから念話が飛んでくる。

 (水場なら【サーフェス・ウォーク】ができるけど?)

 (・・・水精は大丈夫なのか?)

 (うん。仲良しさんも出来たし)

 ほう。ステータスは見えないが順調に成長できているんだな。

 【サーフェス・ウォーク】つまりは水上歩行だが、これで探索範囲に制限が少なくなるだろう。

 (・・・水場になったら呪文を頼む)

 (了解)

 カティアがオレを振り向く。念話が飛んできた。

 (湿地だと厄介な魔物も出るけどいいのか?)

 (かまわない。皆が揃ってたら怖くもないし、厄介な相手なら回避するさ)

 (まあそうだね)

 (戦闘はなるべく回避する方向でいくぞ)

 全員に念話を飛ばすと先を急いだ。


 湿地帯では意外に通り抜けるのに苦労した。濃いブッシュは回避しながらだから仕方ないのだが。

 体感で1時間もせずに湖岸になった。対岸が見えない。

 西よりに方向を変えて湖岸を駆けていく。

 オレ達の気配に水鳥達が飛び立つ。

 いや。遠すぎる。

 何かいるのか。

 (匂いで何がいるか分かるか?)

 (すみません、匂いでは分からないです)

 (シルフの目でも見えてないよー)

 カティアが速度を上げてサーシャの前に出た。

 影の濃いブッシュが遠方にある。

 (カティア?)

 (勘だけどいるね、あの辺りにさ)

 勘なのか。


 ブッシュから大きな影が飛び出してきた。

 サーシャがそのまま進んでいたら奇襲に逢っていただろう。

 だがその影をカティアの構えた盾が受け止めた。

 いや、盾を使って何かを叩き落した。

 鉄と鉄がぶつかり合う甲高い音が響く。


 現れたのは・・・リザードマンだ。


 大きい。カティアも大きいが背格好で言えば体半分ほど更に大きい。

 尻尾を振り回してくるのをジャンプして避けると、戦槌を叩き付ける。

 リザードマンも左手に持つ盾で受けた。

 パワーならばカティアと互角以上だろう。あっさり受けきった。


 カティアの左側にサーシャが回りこむのが見えた。

 (ラクエル、その場で援護だ。こいつには火が効きにくいぞ)

 オレは右側に回って半包囲を狙った。

 そうしたら出会い頭でブッシュからもう1匹出てきやがった。

 日本刀を抜き放ちそのまま薙いだ。

 腹の辺りに切っ先が吸い込まれていく。手ごたえはあった。

 頭上にリザードマンの持つ戦槌が振ってきた。

 半身に転じてスカしてやるが今度は盾が振り回されてきた。


 体ごと吹っ飛ばされた。


 あわてて体勢を整える。やってくれたなコノヤロウ。

 カティアとやりあってる1匹がすぐそこにいた。

 頭上に戦槌が振り下ろされてくる。


 ヤバイ。


 オレの目の前に影が飛び込んでくる。カティアだった。

 戦槌を盾でいなすとオレとリザードマンの間に割り込んでくる。

 牙を剥いて咆哮をあげる。

 オレも刀を構えなおす。

 冷静になれ。

 速さならこっちに分があるのだ。

 

 さっき腹を斬った1匹が迫ってくる。

 かわしたい所だがカティアが挟み撃ちになってしまう。前に1歩踏み出して足元を狙う。

 盾で受け止められた・・・が、刀が盾ごと斬っていく。

 脚のどこかを傷つけた感触を残していた。

 リザードマンがその場ですっ転んでしまっていた。

 威力が明らかに上がっている。

 切れ味で日本刀は一線を画しているのだが、こんな手ごたえはオーガ戦でもなかったことだ。

 それにリザードマンの表皮は鱗で覆われており、竜種に準じるほど刃を通し難い天然装甲になっている。

 ついでに魔法防御力も高い。特に火に高い耐性がある。


 湿地にのたうちまわるリザードマンの首に刀を振り下ろす。

 一刀で斬り飛ばした。

 一撃か。

 これはやはりカティアとの【感覚同調】の効果なのだろう。

 カティアの持つ力強さがパーティ全体の戦力を底上げしている。

 確信できた。


 もう1匹は、と見ると決着がつきそうになっていた。

 リザードマンの脚が完全に止まっている。

 両脚が氷に包まれているのだ。動ける状態ではあるまい。

 尻尾も切り落とされ満身創痍だ。

 得物の戦槌もラクエルの剣の一撃を受けて落としてしまう。

 カティアの戦槌が胴体を叩くと口から盛大に血を吐いて絶命した。

 

 よく見るとカティアは体のあちこちにダメージを負っていた。

 そりゃそうだ、自分よりもデカい相手に突っ込んでるんだし。

 ラクエルが無詠唱で呪文を完成させてカティアの背中に手を当てる。

 「ちょっと無茶だったかな・・・」

 カティアもちょっと苦笑いだ。

 オレもそう思う。だがオレだって奇襲でダメージを負ってるし人の事を言える立場じゃない。

 それでも言わねばならないこともある。

 「体を張るのはありがたいけどな、それでも1人で突入するのは感心しないぞ」

 「ちゃんと助けてくれるって思ってたからね」

 いい笑顔で言われちゃった。

 サーシャもなんか言いたげだ。でも感情は伝わってしまう。

 心配しているのだ。

 「ご主人様も回復魔法はいる?」

 「オレならもういいさ」

 カティアも大丈夫なようだ。


 確かにああいった戦い方はオレ達ではできない。

 体格が足りないからな。

 かといってカティア1人に押し付けるのはどうなんだろう。

 少なくとも、カティアの両翼の片側はオレが位置するのがいいだろう。

 「・・・そうだな、大怪我されても困る。もう仲間だしな」

 カティアも和んだ表情を見せる。

 サーシャも喜んでいるようだ。

 相変わらずラクエルはそんな様子をニヤニヤ見ているだけだ。だがまんざらでもないのも分かる。


 もうオレ達は1つのチームになっていた。

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