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連戦2

 乱戦になった。

 オレとサーシャとラクエルでバラバラにならないように行動するだけで精一杯だ。

 こっち側にも神官達にエルフ、魔術師の援軍があり、オーガを抑え、ワイアームを撃退しながら戦闘し続けることができている。

 消耗戦ともなれば神官が揃っているこちら側が有利だ。


 それでも損耗は無視できないだろう。

 3匹のオーガが並んでドワーフの戦列と対峙していた。

 精霊魔法の【アイビー・プリズン】を仕掛けられながらも、オーガは奮戦しているようだ。

 ドワーフの戦列の上を飛び越えてヘルハウンドが乱戦を仕掛けてくる。

 そのヘルハウンドをケンタウロスが追撃する。

 戦列を維持できなくなった所からオークが溢れてくる。

 上空からはワイアームが襲来してくる。

 1匹のワイアームに矢が集中して命中していく。エルフの放った【シルヴィン・ボウ】だ。

 地に落ちたワイアームに戦士達が殺到して屠っていく。

 乱戦故に魔術師も大規模魔法が使えないし、身近に脅威が迫ってくる始末だ。

 優勢ではあるものの、突破口が見えない。


 (ラクエル、【姿隠し】は使えるか?)

 (もちろん)

 (オレ達3人にかけてくれ)

 効果的に排除するならまずオーガをどうにかしたい。


 不意に周囲が少し遠くなるような感覚が襲う。

 「もういいよー」

 「・・・音を出して大丈夫なのか?」

 「うん。カーシーで【姿隠し】を使ってるから平気」

 普通はスプライトで発動させている呪文だ。

 そういえばラクエルが支配している精霊にスプライトはいなかったな。

 彼女自身がスプライトっぽく変身はできてるが。


 戦場の端から森の中へと飛び込み選んでオーガの列に近付いていく。

 【感覚同調】でサーシャやラクエルと感覚を共有しているせいか、森の中の移動が苦にならない。

 オーガ3匹はダメージを負いながらも戦い続けている。再生してる様子が分かる。

 その首には【隷属の首輪】だ。

 オーガを無視してその後方の様子を探るとやはりいた。


 オークシャーマンらしき3匹がいる。

 例の首飾りも持っているようだ。

 周囲には護衛らしきオークが10匹ほどいる。

 「あれをやる。【姿隠し】のままできるか?」

 「いけるいける」

 「後ろから首を狙えよ」

 「は、はい」

 サーシャとラクエルに護衛は任せる。

 オレはオークシャーマン3匹の背後から次々と日本刀を振るう。

 首飾りを回収する。

 護衛のオーク共も全滅した。

 卑怯だ。実に素敵だ。

 暗殺稼業も出来そうな気がする。


 オーガ3匹の様子に変化が生じた。

 思い思いにバラけて動き出す。

 統率がとれなくなったのならば、集団戦で片がつくだろう。

 「一番右の奴から仕留めに行くぞ」

 いかにオーガと言えども1匹ならば囲んでいける。

 「味方にもオレ達は見えてない。ぶつかるなよ」

 「は、はい」

 「うん」

 オーガの後ろから膝裏に日本刀で薙ぐ。もう一方の脚にもサーシャがダガーで膝裏を攻撃していた。

 膝をついて地に伏した。

 戦士やドワーフ達のポールアクスが次々と叩き付けられて行く。

 あっという間に絶命させた。


 さらに1匹に向かう。

 ラクエルが火炎呪文で焼いているようだ。

 そのためか動きが鈍っている。

 やはり膝裏を狙う。

 日本刀での斬撃で両断した。オーガの脚って両断できるものなのか?

 出来すぎだ。

 転げまわるオーガにドワーフが群がってフルボッコである。

 あのデカいオーガがあっという間に肉塊になってしまった。


 残った1匹の上半身には【ファイヤ・ボール】【ファイヤ・ランス】それに矢の攻撃が集中している。

 それでもまだ絶命に至っていない。

 戦士の戦列がパイクを並べて突撃した。

 仰向けに倒されたオーガにもはや為す術はなかった。


 それでもオークの群れはそんなに減っているように見えない。

 しかしオーガが倒れた様子にオークが散り始める。

 どうやら、勝ったな。


 「ラクエル、周囲の様子を精霊魔法で探れるか?」

 「うん。探し物は?」

 「オーク共の繁殖地だ。こいつらの手がかりがあるかも知れない」

 「あ、オークの群れの匂いなら辿れます」

 ほう。分かるか。偉いぞサーシャ。

 「・・・匂いの判別がすごく良く分かるんです。何でなのか分からないんですけど」

 それはオレの【知覚強化】【感覚同調】の効果なんだろうな。

 塔の方では鬨の声が響いてくる。

 その声を背中に聞きながらオークの匂いを追っていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 いくつかのオークともすれ違っていった。

 奴等にはこっちが見えていない。

 片手間に屠りながら先を進む。


 城郭と思われる高い城壁が見えてきた。この拠点のものだろう。

 城門もある。かなり立派なものだ。

 ここまで走ってきた距離を考えると相応に大きいのだろう。

 「匂いが大きく2つに分かれます」

 「どこへだ?」

 「1つは城門の方で一番多いです。オーガの匂いは城門の方だけです」

 「他には?」

 「あれですね」

 サーシャが指し示すのは城郭の一角であった。

 それはちょっとした砦のように見えた。城壁が高い。門も頑丈そうである。

 「城壁の上まで跳べそうか」

 「【グライド】はまだ効いてる。いけるんじゃない?」

 サーシャが先行してジャンプする。楽々と跳び移った。

 ラクエルも続く。これも楽勝だ。

 オレも楽勝だろうと思ってました。

 ・・・ギリギリでした。


 そこは建物もない平坦な場所だった。演習場のようにただ平坦な所だが、そこは天幕で埋め尽くされていた。

 漂ってくる匂いの中に糞尿の匂いもする。

 蠢いているいくつかの影はオークだ。

 いや、オーク以外もいるようだ。

 魔術師のようにローブを羽織った格好をしているのが2名いる。


 「あの2人に接近する。周りのオークは殺すな」

 「あ、はい」

 「はーい」

 下に降りて最初に目に付いたオークは・・・オークシャーマンだった。

 こちらに気付く様子はない。

 何やら他もう1匹のオークに何事か喚いている。

 天幕の1つの中を覗いてみた。

 天幕を支える太い杭が6本ある。

 馬房のように藁が敷いてあった。だがそこにいるのは馬ではない。


 人間が4人、エルフが1人、獣人が1人。

 首輪と鎖で杭に繋がれていた。

 いずれも目は虚ろだ。


 別の天幕を見てみる

 こっちも同じだった。

 人間が3人、エルフが1人、獣人が1人、ドワーフが1人。

 さっきの天幕のと様子が違う点がある。全員の腹が膨らんでいる。

 彼女達は妊婦だ。


 気持ち悪い。

 吐きたくなっていた。

 そうか、ジエゴの爺様が言っていた繁殖場がここか。

 牢獄も兼ねているのだった。

 確かに無残だ。


 サーシャもラクエルもそれぞれが別の天幕を覗いていた。

 「オレがあそこにいる2人の魔術師を確保する。お前たちはオーク共を殺せ。音は出すなよ」

 サーシャは無言で頷いた。目に殺気が浮かんでいた。

 ラクエルも無言で頷いた。その目に暗い表情が沈んでいた。

 オレの目にはどんな感情が表れているんだろうか。

 だが今は気にしている余裕はない。


 2人の魔術師が1つの天幕に入っていくのを確認する。

 彼らの跡を追ってオレも中に忍び込む。

 中はなかなか立派な物だ。そこそこに広い。糞尿の匂いもしない。

 むしろ香水の匂いが立ち込めていく。

 机が1つあり、天幕の一番奥には大きめのベッドが2つある。

 ベッドの上にはそれぞれ女が寝転がっていた。

 いや、寝転がされていた。

 彼女達は首輪に手枷、足枷を嵌められて鎖でベッドに繋がれていたのだ。


 1人は人間、1人はエルフだ。いずれも美人だが、表情は虚ろである。

 何をやられていたのか、彼女達の股間を見なくとも分かる。


 2人の魔術師は言い争っているようだ。

 よく見たら魔術師ではないようだ。素っ裸の上にローブを羽織っているだけだった。

 彼らの装備らしきものが机の側に散乱している。

 さっき戦った黒騎士のと同じデザインの装備だった。

 「クソッ!塔のほうはもうダメだ!逃げるぞ!」

 「攻め込んだ奴等はどこのどいつだ?何も報告できなかったら懲罰ものだぞ?」

 「メリディアナのフェンサーがいたそうだ。ベネト、リグリネ、ピエモレ、オスターの戦士もな」

 「・・・転移のオーブとドネティークの道標だ。逃げるぞ」

 裸の格好のまま机に駆け寄ると転移のオーブと道標を机の上に取り出した。

 その男の右手を日本刀で斬り飛ばした。

 ついでに右足も両断した。

 手のひらに【ファイア】を念じると斬り飛ばした傷口を焼いてやる。

 男が口から泡を吹いて気絶した。


 「な、なんだ・・・まさか・・・」

 天幕の外へ逃げようとするもう1人の男の足を引っ掛けて土に這わせる。

 後頭部を柄頭で殴りつけて昏倒させた。

 【アイテムボックス】からロープを取り出して縛り上げる。


 畜生め。

 ゲーム世界で行われるようなもんじゃないだろ、これは。

 明らかにやり過ぎだ。


 怒りの感情を抑えてベッドに近付く。

 今オレには【姿隠し】がまだ効いている。彼女たちには何も見えていないし多分聞こえてもいないだろう。

 男たちを拘束するのに女たちの手枷、足枷を使うことにした。

 女たちは四肢に力が入らない様子だ。股間を閉じることすらできない。

 オレに出来たのは毛布をかけてやることだけだった。


 机周りを調べていく。転移のオーブが8つ、見たことがない道標が3種あって全部で7つ。

 男共の装備品も調べていく。

 塔で出くわした黒騎士のものとデザインは一緒だが【魔力検知】では何も感じない。

 まあこいつらは雑魚なんだろう。


 オーブと道標を【アイテムボックス】に放り込んで天幕を出た。

 天幕を出るとサーシャとラクエルが駆け寄ってくる。

 「全部、片付けました」

 「魔石も回収したよー」

 口調こそ普段どおりだが、さすがにいつもと表情が違っている。

 「天幕の中は?」

 「一通り見て回りました。オークがいる所もありましたけど始末しておきました」

 「それは上々」

 「そろそろ【姿隠し】も【グライド】も効果が切れそう。またかけ直す?」

 「今はいいさ」

 今はなんだか八つ当たりしたい気分だ。


 牢獄の門の閂を外して出るとなんか騒々しい連中が近付いてきた。

 さっきの男達と同じ装備の面々だ。

 中には鎧兜もつけていないのもいた。逃げてるんだろうな。

 「!!手前ら!!」

 声を荒げて誰何してくる先頭の男を袈裟懸けに一太刀。

 鎧ごと斜めに両断した。

 「悪いね」

 ほとんど裸同然の男が逃げようと背中を向けた。

 心臓のあるあたりを刀で突く。

 手ごたえあり。心臓が止まっていく感触も伝わってくる。

 「捕らえて尋問する気分じゃないんだ」

 オレの気分が伝染していたのだろう。

 サーシャとラクエルも男達に襲い掛かった。

 「・・・死ね」

 オークに同族の女性を与えて平気でいられるような奴等だ。

 当然だろう。


 だが一瞬で絶命させたのは最初の2人だけだ。

 3人目からは腕を斬り落とし、脚を斬り落としていく。

 苦しむがいい。

 ドス黒くも暗い愉悦に浸っていく。

 止めようがない。オレの口元に笑みが浮かんでいることだろう。

 転がって苦しむ男達を睥睨する。愉快で堪らない。

 「・・・た、助けてくれ・・・頼む」

 「助かりそうもないぞ・・・自分の手足を見ろよ」

 助命を乞う男に告げる。

 自分の手足を動かそうとするその男は人間とは思えない悲鳴を上げて気絶した。

 なんだ、つまらん。


 「ご主人様・・・終わりでいいのですか?」

 「死に切れていない奴は放っておけ」

 この男達への興味は失せた。

 もっと暴れさせてくれないものなのか。


 城郭の上への階段を登っていく。

 城門の外には森が拡がっていた。以前ここに来た時にオークやオーガがいた森だ。

 うじゃうじゃいやがる。

 そうか、さっきの男達は城門を開けに来てたのか。

 開かない城門の前にオーク共が群がっていた。

 そうか、城郭の中にいるだけであれ程の戦力がいた訳だ。


 ありがとう。


 まだ残っていてくれて、ありがとう。


 これは救いだ。福音と言ってもいい。


 思う存分、殺していい相手がこんなにいる。


 「ラクエル、【グライド】をオレだけにかけろ。オレが下に降りたら解呪してくれ」

 ラクエルが頷く。体が僅かに浮くような感覚が残る。

 「・・・ご主人様?」

 「ここの門は開けるな。お前達は来ないでくれ。酷いことになる」

 サーシャの顔つきが真剣だ。

 「お前達を巻き込まない戦い方じゃなくなる。いいか。絶対に来るな」

 かつての戦い方がどこまで出来るか、それは分からない。

 だが今は無性に戦っていたい。

 戦っている間ならば、さっきのような無残な光景も忘れていられるかもしれない。


 城門の上に移動して、オークの群れの中に降りていく。

 そしてオレは戦場へと逃げた。

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