連戦
2日後の朝になった。
ラクエルには普通のエルフの姿になってもらう。今日は周囲の目が多いだろう。
冒険者ギルドに向かうと、広場がもの凄いことになっていた。
各地から集められた正規兵が整列している。他にも様々な人々がいる。
傭兵に戦闘奴隷だ。
ギルドの中も似たようなものだ。
冒険者達で溢れそうだ。
どう統率するんだ?これ。
「よう、久しぶりじゃな」
ドワーフに声をかけられた。
誰だっけ。
ドワーフは皆外見がどことなく似ていて見分けがつかない。
なんとか思い出せた。
このゲーム初日で一緒にオーガを退治したドルゴンさんだ。
持っている盾に覚えがある。
「来てたんですか」
「フェリディに着いたのは昨日じゃ。泊まる所がなくて厩舎で雑魚寝じゃったよ」
泊まる施設を超える数が来てるんじゃしょうがないか。
「デリアリからは冒険者は10名程度じゃが派遣されてきとるよ」
「そうなんですか。今回の相手は・・・」
「オーク、じゃな」
顔に怒りの表情が浮かんでくる。
ドワーフにとっては不倶戴天の敵だ。
「先行してエルフ共が潜伏しておるそうじゃがの。オーガにワイアーム、ヘルハウンド、オルトロス・・・まだ他にもおるかもしれんな」
「規模が大きいですよね」
「ふむ。クレール山脈の大トンネルでは膠着しとるからの。直接派兵しとる本拠地を狙ったものと見えるが」
肉食獣の笑みを見せる。なんか怖いよ。
「逆にこっちから攻め込むきっかけになるとは、の。愉快でたまらんわい」
オレ、その発端に関わってます。
喜んでいただけて幸いです。
「クレール山脈の北トンネルでは我等が同胞も多く命を落としておる。復讐の機会がこうも早く来るとは」
背中をバンバン叩かれた。
「お前さんも冒険者らしくなっとるようじゃな。まあオーガ相手にあれだけ戦えるんなら当然か」
ガハハと豪快に笑い飛ばされた。
オレから離れると1階の端にドワーフが集まってる所へと行ってしまった。
どうやら酒盛りをしてるらしい。
こんな時にもやるのかよ。
喧騒が一斉に収まった。
あの老齢の魔術師、ジエゴさんがカウンターの上に立っている。
「集まってくれてまずは感謝を。伝聞で知っていようが、クレール山脈の向こう側から我等が土地にオーク共を送り込んでいる輩がいる」
怒りの感情が音もなく高まっていく。
「だが幸運にもその本拠を我等は突き止めた。ゲートの在り処はこのフェリディに程近い旧い坑道の中じゃ」
1階に集まった冒険者達が互いに顔を見合わせる。
「先行でエルフを中心に奴等の戦力を偵察しておる。確かに相手の数は多い。手強いのもおる」
あのペルセフォネーに仕える神官も並んでカウンターに立つ。
「この戦いに義は我等にある。生命を賭して戦うのに何の躊躇があろうか!」
「先陣は各都市の正規兵が行く。第二陣はドワーフ戦士じゃ。我等がその後に続く。神官に傭兵、戦闘奴隷も続々と投入される予定じゃ」
まあ寄せ集めなのは否めないよな。
「ゲートで先導する者に続いて戦闘に参加してくれ。手近な者と3名以上で組め」
「主神ペルセフォネーと戦神アテナの加護のあらんことを」
それで事前説明が終わりだった。
一抹の不安がなくもない。普段から大規模戦闘などしてはいないから連携が果たしてとれるのか。
演習しておく余裕がないって事なのか。
他の冒険者達に続くように広場へと出ると、あれ程いた正規兵がいなくなっていた。
もう出立したのだろう。
広場ではドワーフの戦士達が数十名整列していた。冒険者達の中からもドワーフが前に出てその列に加わっていく。
教会側からも数名のドワーフが列に加わった。ドワーフの神官戦士だ。
広場から西門へとドワーフ達が進んでいくと、残りの冒険者達が続く。
門を出た所で10名ほどが【半獣化】した。
人馬族だ。
彼らは戦闘に限れば【半獣化】の状態が最も効率的に戦える種族になる。
他の獣人族でも早々と【半獣化】し始めている者がいる。
「あの、私も【半獣化】はしときます?」
「向こうに跳んでからでも遅くはない。あせらなくていい」
種族レベルが低いうちは無理させたくはない。
熱気を孕んだまま戦列は坑道に向かっていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【ゲートポイント】のある坑道には松明で明かりが灯されていた。
前にここに来た時よりも酷い有様だ。
床や壁に大穴があちこちに開いている。
オーガとここでやり合ったのだろうか。
ゲートのある壁の前では1人の神官が転移のオーブを次々と使っている。
既に冒険者組の先陣が次々と跳んでいた、
実に手早く並んでいる戦列が壁の向こうに消えていく。
すぐにオレ達の番が来た。
「サーシャ、ラクエル、離れるなよ。サーシャは向こうに跳んだらすぐに【半獣化】しろ」
「あ、はい」
「はいはーい」
「いくぞ」
転移した。
サーシャとラクエルと手を繋いで次々と精神魔法を念じていく。
【知覚強化】【身体強化】【代謝強化】【自己ヒーリング】【魔力検知】【念話】そして【感覚同調】だ。
MPがごっそりと減ったのが自覚できる。黄のオーブをまとめて4つ取り出してMP回復する。
壁に12の星座が刻まれたホールは冒険者で溢れていた。
出口の先から喚声が間断なく聞こえてくる。
なんかヤバい咆哮が聞こえる。
「よし。まずは戦場の状況を見てみる」
こっち側が圧倒してるなら物見遊山の気分でゆるゆると戦っていればいい。
問題なのはこっちが不利な場合にどうするかだ。
殺到してくる冒険者達にぶつからないよう出口に向かう。
戦闘の様子を窺うと・・・カオスだ。
3つ並ぶ塔の前では殺到するオークが見える。
盾を並べてまるで壁のように受け止めているのは各国の戦士とドワーフだろう。
オークの攻撃を跳ね返し少しずつ進撃しているようだ。
問題なのは真ん中の塔だ。以前ここに来た時には探索しなかった
周囲に小さい魔物が飛び交っている。
強化した視覚はガーゴイルの姿を捉える。
数が多い。間違いなく10匹以上はいる。
さらに大きな影はワイアームだ。
見える範囲で4匹、2匹には騎士らしき影が跨っている。
それらの影を追い越すスピードで飛び回る何かがいた。
ヒッポグリフだ。3匹は確実にいる。
戦列に急降下して攻撃しようとするが、槍で追い払われているようだ。
それでも戦列に突っ込んで何人かを蹴散らしている。
森へと続く坂の下には大勢のオーク、それにオーガの影もチラホラと見えた。
戦況はややこちら側に有利だろうか。
塔から【ファイヤ・ボール】が地上に向けて放たれた。
魔術師が塔にいる。
使っている呪文が大規模魔法じゃないのが救いだ。
一瞬、動揺が走り戦列にオークが割り込んでくる。
冒険者の援軍が駆けつけ乱戦模様になった。
塔からの攻撃は続く。
つかオークにも攻撃が当たってる。見境なしだ。
塔の入り口に何人かが取り付いているが中に入る様子がない。
魔法で施錠されてるならば解呪する必要があるが、手間取っているのか。
入れたとしても塔の中で抵抗に会うのは必至だ。
「ラクエル、【グライド】は使えるか?」
「うん。大丈夫」
風の精霊魔法【グライド】は空を滑空する呪文だ。
以前に【ダンジョンポイント】を残しておいた塔の方から飛び移ることができれば、より早く魔術師を排除できるかもしれない。
「よし、跳ぶぞ」
塔の部屋に残しておいた【ダンジョンポイント】の位置が脳内に知覚できる。
転移先の部屋の中が見えた。誰もいない。
そして跳躍する。
そこは一番上の部屋だ。以前来た時と同様にちらかっている。
窓から隣の塔を見ると、下へ向けて派手に【ファイヤ・ボール】を撃ち込んでいる。
窓からやや下にテラスがある。あそこに飛び移ればいいか。
振り返るとミスに気がついた。
オレ、サーシャ、それにラクエル・・・それとは別に3人いる。
通りかかった連中まで巻き込んで跳んでしまった。
「・・・!」
「なんだここは?」
「え?」
1人は剣士の男。サーベルを構えて周囲を警戒している。
1人は戦士の男。首には【隷属の首輪】がある。円形の盾にショートソードを持っていた。
最後の1人は獣人族の女戦士だ。首に【隷属の首輪】がある。方形の盾にウォーハンマーを持っている。
傭兵1人に戦闘奴隷2人ってとこだろう。
「巻き込んで済まない。ここは3つ並んだ塔の1つだ」
「なんだって?」
「今は急ぎたい。オレ達3人はあの塔に飛び移る」
「おい、どうやって」
「呪文で、だ」
何やら疑わしい目で見られる。まあそうだよな。
「付いて来れるなら来てくれ。下に降りていってくれてもかまわない」
部屋の中に何かが飛び込んできた。
ウッドゴーレムだ。
女戦士が戦鎚を叩き込む。しかも先端が鋭くなっているピックの方でだ。
ウッドゴーレムの胴体に突き刺し、そのまま壁に叩きつけた。
魔物は砕けて散っていく。力技だ。
「・・・どうせ下も魔物だらけなんだろ?」
女戦士がなんかニンマリと笑う。
「暴れられるならどこでもいいんだよねえ」
なんか怖いです。体格はオレよりもかなり大きい。【半獣化】してるせいで毛深くなっているが、縞模様になっている。
虎人族だ。
「おい、下に戻れないのか?」
「精霊魔法で降りることもできるさ。あんたら次第だよ」
剣士と戦士の2人の男は互いを見るとラクエルを眺める。
ラクエルは挑発するかのような目をしている。なんか危険な雰囲気が。
「ここにいてもしょうがない。階段もウッドゴーレムがいそうだしな」
剣士が戦士の男に声をかける。
「ラクエル、全員に【グライド】だ」
「はい」
僅かに風が周囲を取り巻く。
「あのテラスに行くぞ」
「じゃあ私から行きます」
ラクエルが窓から飛び出すと滑空していく。ほぼ平行に隣の塔に到達した。
そのまま下の方にあるテラスに降りてゆく。
「次はオレが行く。サーシャも続け」
「は、はい」
さすがに緊張するよな。
窓から身を乗り出し、窓枠を蹴った。
ラクエルよりも上の場所に到達してしまった。意識を下へと向けると徐々に降りていく。
テラスへと続く部屋ではラクエルがロングソードを抜いて警戒の構えだ。
サーシャもうまくテラスに来れたようだ。
戦士の男と虎人族の女戦士の戦闘奴隷2人も来ている。
「まあどこで暴れるのも一緒だしね」
女戦士は実に楽しそうに笑う。やべえ、戦闘狂っぽいぞ。
テラスから入った部屋に魔力を感じるものはなかった。
扉にも仕掛けはない。
階段に出ると、魔力が下から湧き上がるように上へと流れているのが見えた。
上か。
【アイテムボックス】からタンガロイメイスを出しておく。
魔術師が塔に篭もるのならば魔法結界の1つくらいあるだろう。
階段を登っていく。
途切れた所で扉だ。
扉には魔力が感じられる。間違いなく魔法で封印がしてあるのだ。
かまわずメイスを叩き込む。魔法式ごと扉を1発で木っ端微塵にした。
中は先刻の部屋よりも広い。上への階段も見当たらない。
最上階なのだろう。
平坦で綺麗に磨かれた石の床。
そこに様々な色の魔法式が浮かんでいる。
中央に魔術師らしき影が1つ。
戦士の男が先陣を切って距離を詰めに行く。
彼の目の前に突如として石の壁が出現する。【ストーン・ウォール】だ。
無詠唱で使ってきやがる。
石の壁を力技で女戦士が突破しようとウォーハンマーを振るう。
3発で突破してしまった。
さらに近付こうとする2人の前に更に石の壁が出現する。
サーシャに目配せしながら【念話】で伝える。
(ダガーを2本、平行に向けて)
(?!はい)
精神を集中すると【感覚同調】でサーシャの感覚が伝わってくる。
(よし。オレの意識と感覚に合わせて)
(はい)
サーシャが両手のダガーに魔力を込める感覚が分かる。
空気が震えて石の壁にも振動が伝わっていく。
(そこだ、放て!)
(はい!)
石の壁が一瞬で粉々になった。
ラクエルが放った矢が魔術師に突き刺さる。
床の魔法式が消えた。
一気に魔術師に迫ると日本刀を首筋に当てる。
「まだやる?」
魔術師は薄暗い顔つきの青年だった。
まだ余裕の表情をしている。
「やるとも。無駄なことを」
「じゃあ試そうか」
太ももに刀を突き刺してやる。
男らしからぬ悲鳴が部屋に響いた。
それでも右手に持つ杖を離そうとしない。
根性あるじゃん。
「・・・バカな。なんで効かない・・・」
「まだ試してみようか?」
杖をもつ右手首を刀で切り落とした。
先ほどとは比べ物にならない悲鳴が部屋を震わせる。
というか聴覚が強化されてるものだから耳が痛い。
床に血を撒き散らして男は倒れ込んだ。
何か違和感がある。
この塔の仕掛けは中々のものに見える。
この部屋を【魔力検知】で見る限り、この塔の魔法式は上位の魔術師でなければ組めないものばかりだ。
「・・・お前、本当にこの塔の主人なのか?」
あまりに簡単に過ぎる。護りの魔道具を他に備えていてもいいだろうに。
その時、オレの後ろから唸り声が聞こえた。
さっき侵入してきたテラスから魔物が入ってきていた。
ワイアームだ。
ついでに騎士らしき姿の乗り手までいる。
黒光りするフルプレートで重装備である。まさに黒騎士だ。
兜の奥の表情は見てとれない。そこにいるだけで迫力満点、威圧されそうな雰囲気がある。
ラクエルがロングソードを抜くと【フィールドアーマー】を展開した。
そのまま前へと進む。
ワイアームがブレスを広範囲に吐きかけた。
部屋の中の全てが火炎で満たされた。
オレ達にダメージは通らないが、全く熱くない訳でもない。
さっさと片付けるべきだろう。
ワイアームの頭を攻撃しようとしたが先客がいた。
女戦士が虎の咆哮を上げてウォーハンマーを叩きつけていた。
怯むワイアームの喉元に潜り込むと日本刀を一閃する。
切り口から液体が溢れて床を濡らして拡がっていくと、床が炎で満たされた。
黒騎士は怯むことなく近付いてきた。
こいつはヤバイ。
【魔力検知】でこいつの装備が全てマジックアイテムであることが見て取れる。
女戦士がウォーハンマーを叩きつける。
黒騎士が方形の盾で受ける。受けるどころか跳ね返した。
戦士の男がショートソードで突く。
手甲だけで受け切られた。
黒騎士が剣を抜く。ロングソードだが厚みがある。淡く紫色の魔法式が刀身に浮かんでいた。
刀で袈裟懸けに斬撃を浴びせる。
鎧に刀身が跳ね返されるかと思ったが・・・鎧を通して肩口を斬っていた。
牽制のつもりだったんだが。
オレの【魔力検知】で日本刀を確認するが魔力を捉えることはできない。
魔法のかかってる鎧を斬ることができるのか?
タンガロイメイスみたいな特性でもあるんだろうか。
黒騎士がオレから距離をとる。
再び暴れ始めたワイアームが目の前にきていた。
考えてる暇などない。
ワイアームが首を巡らせようとする所をラクエルが斬り付ける。
サーシャが横合いから翼の根元に潜り込んでダガーを振るった。
ワイアームの体勢が崩れていく。
それでもワイアームはまだ暴れまくった。
傷口から新たな血を撒き散らせていく。
振り回してくる首と尻尾に合わせて斬撃を与える。
徐々にだが血まみれになったワイアームの動きがゆるやかになっていく。
2人の戦闘奴隷も加わって5人で打撃を加えていった。
ようやくワイアームの息の根が止まった。
部屋を見回すとあの黒い騎士の姿がない。
魔術師の男は床に伸びたままだった。
「ラクエル、こいつの血を止めてやれ」
「はい」
情報源は確保しておかないとな。
テラスから外の様子を見る。
塔から地上へ撃ち込まれていた魔法は止まっている。
良く考えたらこれほどの規模の塔で魔力を集束しておきながら【ファイア・ボール】だけしか使ってこないのもおかしい。
本命は他にいる。
それだけは確信できた。
「まだ戦闘は続いている。いけるか?」
「あ、はい」
「いけるよー」
巻き込んでしまった2人を見る。
「さっきの黒いのがいない・・・どこへ?」
「さあね。いるとすりゃ下だろうさ」
女戦士の顔はまだ戦い足りていなさそうだ。
ワイアームから魔晶石が浮かんでいた。
「これ、どうする?」
戦士の男の顔に別の感情が見える。
戦場ではこれがあるのが厄介だ。戦闘が円滑に進まなくなることがある。
欲望って奴はどうしようもない。
「下へ行こう。オレが先行する」
あえて無視すると先に進むことを宣言する。
さっさと階段を降りていく。
塔の内側の螺旋階段を降りていくとさっきと同じような部屋だった。
ウッドゴーレムの団体で埋め尽くされていた。
「行きます」
サーシャが先行した。動きがいつになく早い。
【半獣化】の影響で好戦的になっているのが【感覚同調】で伝わってくる。
「じゃ、私も」
ラクエルもサーシャに続く。嬉しそうにロングソードを振り回してやがる。
積極的だなお前ら。
オレも日本刀を構えなおして参戦・・・しようと思ってたら女戦士に先を越された。
「グオラアアアアアアアアアアア」
すごく・・・虎です。
殲滅戦と言うべきか。
蹂躙戦と言うべきか。
ウッドゴーレムは魔法生物であり、生命などないのだが・・・なんか気の毒だ。
斬られるだけでなく砕かれてもいく。儚い。諸行無常だ。
オレが刀で仕留めたのは3匹ってところだ。
全て片付けた部屋は木材の破片で埋め尽くされた。
この部屋には【魔力検知】で仕掛けは見つからない。
さっさと下の階へ向かう。
だがその下は1階までずっと空洞のようになっていた。所々に補強の柱が見える。
だがその柱に魔力が流れ込んでいるのが見える。
塔を構成する魔法式だろう。
そして何かが飛び回っているのも見えた。
ガーゴイルだ。
この塔の守護石像が中にまでいるのか。
女戦士の盾に触れると属性魔術で【ヒート・ウェポン】を念じた。
方形の盾の縁が赤熱化した。
「奴らには魔法攻撃しか通じない。盾で殴ってやれ」
「これにも頼む」
ウォーハンマーを差し出してくる。
こっちにも触れて【ヒート・ウェポン】を念じる。
まだ精霊魔法の【グライド】が効いている。ラクエルが塔の中を柱を伝って降下しつつガーゴイルを剣で屠っている。
オレもそれに倣うことにした。
交錯しつつ刀を振るってガーゴイルを斬っていく。
やはりだ。
ガーゴイルには通常の武器が通じない。
だがこの日本刀では斬ることができている。
何か、おかしい。
だが今は逡巡する暇もない。
次々と襲来する魔物を追い払うのに精一杯だ。
途中で柱の上で立ち止まると3匹が一気に襲ってくる。
2匹を次々と切り捨てるが1匹に背中を叩かれる。
衝撃こそあるものの大したダメージは通らない。
攻撃してきたガーゴイルの方がダメージを負っているようだ。
サーシャが一番先に1階へ到達していた。
(石が降ってくるぞ!壁に寄れ)
(は、はい!)
念話で指示する。
ガーゴイルを屠る度にその死体はただの瓦礫となって下へと降り注ぐ。
ラクエルがサーシャの元に到達すると【フィールドアーマー】を展開した。
最後に残った1匹は女戦士が仕留めた。
「これで終わりか?」
「まだ塔の外にいる」
刀を鞘に納めるとタンガロイメイスを取り出す。
外への扉を見ると3つの魔法式が見て取れた。
いちいち解呪する時間もなければスキルもない。
力技で解決しに行く。
メイスを扉に叩きつけると魔法式が四散していく。
ついでに扉もぶっ壊れた。
扉を蹴飛ばすと、解呪を試みていた魔術師と鉢合わせになった。
「お待たせ」
唖然とする魔術師を放って置いて外に出る。
各国の正規兵とドワーフの戦列はまだ強固にオーク共を防いでいるようだ。
乱戦も静まりつつある。
だが新たな脅威が近付きつつあるのが見えた。
3匹のオーガが並んで迫ってきていた。
その足元にはヘルハウンド。少なくとも5匹いる。
背後にオークの群れが控えていた。
そして2匹のワイアームが飛び回っているのだ。
ちょっと厄介な様相だ。
明らかに統率している奴がいる。