表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/87

開戦前

 さらに塔の1階から鍛錬を開始する。

 「ラクエル、せっかくだから弓で仕留めてみようか」

 「はいはーい」

 別パターンで最初のウッドを倒したらどうなるのか、興味深い。


 ラクエルの放った矢はウッドを完全に貫通した。

 時間差をつけてウッドが倒れる。

 「魔力を込めたか?」

 「ん?全然」

 弓そのものはオレが知る範囲で最高クラスの代物だ。

 矢は普通の鏃にミスリル銀でコートした特製品である。

 だが外見だけならそうは見えない。

 「単に魔力を込めても威力が高まる。精霊力を込めたら更に効果がある。色々試してみるといい」

 まあ適当に放流してていいだろう。


 塔2階の相手は・・・なんだこれ?まるで石のようだが。

 「何か分かるか?」

 「ロック・ビートル。飛んできて体当たりしてくる虫だよー」

 床でモゾモゾ動いてると思ったら。

 飛んできた。意外に速い。

 ブーンブーンとイヤな音を立てて飛び回っている。

 日本刀を抜いて構えた所に正面から迫ってきた。

 防御するつもりで刀を軌道に合わせたら虫が両断されていった。

 あっけない。

 「・・・なんだったんだ?」

 「さあ?」

 よく分からない相手だ。


 塔3階の相手は・・・カマキリだ。デカいな。

 「あー!!グレートマンティス!結構強いよー」

 サーシャがショートソードを抜いて両手に構える。

 【魔力検知】では何も魔力を感じられなかった剣だが、今は僅かに淡く魔法の残滓が感じられた。

 入れられていた箱の他の装備から察するに、あの竜騎士か神官戦士の持ち物だったと思うんだが。

 普通に魔法で強化されたショートソードようにしか見えない。

 見覚えはあるんで変な装備ではない筈だが。


 サーシャの攻撃で片手を失ったカマキリだが、いきなり飛び始めた。

 オレに向かって・・・くる前にラクエルの放った矢がカマキリの胴体を貫いて壁に縫いつけた。

 「よく命中したな」

 「まあこのくらいはねー」

 風精シルフの加護があれば射程も威力も伸びて百発百中になる呪文が精霊魔法にあった筈だ。

 ラクエルも使えそうな雰囲気がある。

 種族レベルも職業レベルも結構高そうだし。

 カマキリはサーシャが止めを刺した。

 「使いこなせそうか?」

 「あ、はい。軽くて使いやすいですね、この剣」

 うむ。気に入ったようで何よりだ。


 塔4階はジャイアントクロウだ。

 天井が高くなったんで気になっていたが、カラスとは。

 ウッドを弓矢で仕留めたから空中を飛ぶ魔物が出てくるようになったのだろうか。

 そのカラスだが、飛び上がろうとする所に片方の翼を矢が貫いた。

 もう片方の翼をサーシャがショートソードで縫い付けた。

 「少しずつ削りますか?」

 サーシャが怖いことをサラリと言うようになりました。

 逞しく成長していると言うべきか。

 精神汚染されていると言うべきか。

 ちくちくと苦無でオレが削って嬲り殺しにしてやった。

 やはり教訓は活かすべきだろう。


 塔5階でゾンビクロウ。

 さっきのカラスがアンデッドになって戻ってきたでござる。

 サーシャが持つショートソードに魔法式が浮かぶ。淡い青だ。

 思い当たるのはホーリーウェポンだ。

 付与魔術で魔道具作成する際、魔術師系統の魔法式でなく神聖魔法を封じたものだ。

 さすがに門外漢なので分からないが、前作でもアンデッドに対するボーナス効果を付ける武器はたまに見ることがあった。

 でもいいのか?

 前作と今作では神様設定が違うようなんですが。


 サーシャの初撃をかわしたかに見えたカラスだが、翼端が崩れるように消失していた。

 直撃、しなかったよな?

 まともに飛べなくなったカラスを苦無で串刺しにしてみる。

 あまり効果がない。まあアンデッドだし。

 戦闘を長引かせることができないか、とも思ったが鳴き声があまりに耳障りだ。

 サーシャにショートソードで止めを刺してもらう。一撃で昇天した。

 「サーシャ、何か念じたか?」

 「いえ、何も」

 「最初の攻撃は掠っってたのか?」

 「え、あ、はい。ほんの僅かに手ごたえはありました」

 それであれか。

 やはりホーリーウェポンなんだろうな。


 塔6階でクラウドスライムだ。

 空中を漂うスライムな訳だが、体躯そのもので獲物を取り込んで捕食する厄介な相手だ。

 目の前にいるのは比較的小さいから魔法で対処するのがいいだろう。

 「ラクエル、焼いてくれ」

 「はいはーい」

 スライムの表面に炎が出現すると一気呵成に火達磨にしていく。

 焼ける匂いが一気に広がってくる。かなりの悪臭だ。

 近接戦闘では苦戦必至の魔物だが、魔法だと楽でいい。

 だがこの塔で瞬殺すると次の相手が強くなってしまう罠。

 困ったものだ。


 塔7階でハーピーになった。

 半人半鳥の魔物なんだが、戦う前から悪臭を振りまいている。

 それだけで長期戦とかしたくなくなる。

 ハーピーの武器は脚のカギ爪と噛み付き攻撃だ。

 「ラクエル、剣を使って防御を念じてみろ」 

 オレ達3人を囲んで【フィールドアーマー】が展開される。うまく制御できているようだ。

 ハーピーは高い位置から攻撃を仕掛けてくるが、ことごとく魔法の壁に阻まれてしまう。

 それはいいんだが、先刻のスライムといい、この悪臭はなんとかならないものか。


 魔法の壁に跳ね返されて床で悶絶してるハーピーの首を日本刀で薙いでやる。

 さっさと次に行きたい。


 塔8階はヒッポグリフになった。

 平原で遭遇したら相当手強い相手だ。

 難易度的にはグリフォンよりやや下といった所だ。

 塔の中の部屋程度の広さでは脅威は半減以下だろう。


 精神魔法で魔槍を構築すると【ウォーター】を念じる。

 ショートソード1対を使って6本ほどまで増やし、オレの周囲に展開させた。

 そのまま魔物に近づいていく。

 ヒッポグリフはオレを攻撃したがる様子だが、魔槍を掻い潜ることができない。

 槍を相手に自傷するだけだ。

 一旦、距離を置くように空中に舞う。

 部屋の天井近くにまで舞い上がった魔物に向けて魔槍を放った。


 魔物は天井で磔状態だ。

 魔槍を解き放ち、水の乱流で更にダメージを与えてやる。

 磔状態は解消したが、大ダメージを負ったヒッポグリフが床に堕ちた。

 あとは3人でタコ殴りである。


 8階クリアまで時間を掛けすぎただろうか。

 塔8階を離脱時点で相手がヒッポグリフだと消化不良に感じる。贅沢なのかもしれないが。

 (C-1、ここまでのトータルで何分かかった?)

 《移動時間込みで1時間25分です》

 ちょっと時間を掛けすぎたか。

 もう少し試してみたい気もする。

 オーガが8階で出ない程度に調整できればいいだろう。


 魔物もそこそこ強力な相手を倒せるようになってきている。魔石の収入だけでもそこそこ良い収入だろう。

 装備はこれ以上なく充実してきている。

 問題なのはあの伝言だ。


 「よし、今日はこれで終わりにしよう」

 「あ、はい」

 「はーい」

 「塔は出るな。そのままでいい。ラクエル、町に戻るから姿は変えておけ」

 「はいはーい」

 小妖精になるとポシェットの中に潜り込んだ。


 町に戻るなら丁度いい。

 そろそろ使えてもいい頃だろう。

 【転移跳躍】を念じる。

 今までに残してきた【フィールドポイント】と【ダンジョンポイント】の位置が脳内に知覚できる。

 転移先のフェリディの景色が見えた。

 跳躍する。

 軽い酩酊感を残して精神魔法が発動した。


 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 フェリディの町の西門に転移した。

 「え、あの・・・転移のオーブ、使ったんですか?」

 「いや。最近使えるようになった魔法だ」

 「へー便利ー」

 精霊魔法には転移系がないからな。


 フェリディの町の西門へと向かうとなんか騒がしい。

 ・・・オーガの死体が3つになっていた。見物人が増えていた。

 新たに2匹、誰かが狩ってここまで運んだのだろう。


 町の中はさらに騒然となってきていた。

 門近くの厩舎に繋がれている馬の数がスゴイことになっている。

 飼料の飼葉を積んだ馬車が倉庫に並んでいた。


 完全に戦争モードだ。


 広場にも雑多な人々が集まってきている。

 戦力編成とかどうするんだ、これ。

 収拾がつくように見えない。


 冒険者ギルドも盛況だ。

 1階の酒場でも種族混在で酒盛りをしている。

 体感で10分ほど待ってカウンターで魔石を買い取ってもらう。

 例のジエゴの爺様の姿は見えない。

 オーガ3匹分の魔水晶もあるが、これはまだ買取りには出さないでおく。

 1日分の稼ぎで金貨1枚に銀貨2枚になった。充分すぎる。

 「ああ、ギルドの者は全員に召集がある。明後日の朝だ」

 遂に始めるのか。

 何やら不穏な雰囲気が漂い始めたようだ。

 いいタイミングで装備が充実できたのは幸運だったのだろう。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 手には扇子、それに着物姿だった。

 何を舞っていたのか、覚えがない。

 ひい爺様に最初に習わされたのが日本舞踊だった。

 体を鍛えるために剣術を教わる筈だったんだが。


 常に姿勢を意識させられた。

 手の位置も。

 足の位置も。

 寸分も違えずに同じ所作を繰り返す。


 扇子の先端の位置が僅かに震えるだけで何度もやり直しだった。

 なんだってこうなってしまったのか。


 同じ所作をひい爺様が見せてくれた。

 美しい、と言うべきなのか。

 力強い、と言うべきなのか。

 体の芯がブレていないのだ。


 かつて高名な剣術師範が舞踊に嵌まっていたのだという。

 剣術の鍛錬を放り投げて遊び呆けているものと見られていたのだとか。

 だが舞踊を通して鍛錬をしていた、とは考えられないのか。


 ひい爺様は言う。


 心を鍛えるのに最も簡単な方法は体を鍛える事だと言う。

 体を鍛えるのに最も簡単な方法は心を鍛える事だと言う。

 何事も表裏一体なのであって、見る方向が違っているだけなのだと。


 拘ってはならない。

 侮ってもいけない。


 剣道はスポーツである。健全な心と体を育てるのだろう。

 だが剣術とは元々、人をいかに殺すか、そのための業である。

 そこに求道的なものなどないのだと。


 これから教えるのは、人を殺すための技、なのだと。

 舞踊を教えるのも、いかなる斬撃をも必殺とするための姿勢を保つのに役立つから、と。


 誤魔化しはしない。

 これから教えるのは。


 人殺しの業だ。

 躊躇わずに使えば、人を殺せる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 夢だ。

 なんだってこんな夢を。

 まだ蝋燭の火は消えていない。

 寝付いてすぐに夢を見たのだろう。


 隣のベッドではラクエルがサーシャを抱き枕にしていた。

 ここの所は仲良くなってきてる様子だ。

 戦闘でも連携が良くなってきている。


 (C-1、異常はなかったか?)

 《ありません。就寝直後の脳波パターンは半覚醒状態のまま推移。ゲーム内での聴覚異常の検知もありません》

 (そうか。早めだがD-2と交代だ。オレはもう一眠りする)

 《了解》

 夢見が悪いのは緊張のせいなんだろうか。

 戦術級であれ戦略級であれ、キャンペーンイベントはあまり好きではない。

 悪目立ちするのは避けたいからな。

 あの伝言も気になっている。


 あれこれと考えを巡らせているうちに意識を手放し眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ