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技術革新

 5年前に導入された新たなバーチャル・リアリティ構築システムは従来のものと一線を画している。

 とはいえ用いてる技術そのものは100年前からある技術の応用だ。

 一つはナノマシン。

 一つは並立型有機コンピュータ。

 これに医療用ナノポッド(再生医療で使っているやつだ)のセンサーの性能向上が実現したことで可能になった技術。


 まあ作ったのはオレなんだけどね。

 特許も独占している。


 オレが作ったものは従来のものよりさらに小さいのナノマシンだ。

 タンパク質とキレート構造を持つ化合物の組み合わせを持つ。

 特許の概要は、全身の神経細胞と脳細胞を複数のナノマシンでモニターし、外部からバーチャルでの経験情報をリンクさせるというものだ。


 つかどんだけデータ処理すればいいんだよって話になるが、まあ膨大の一言に尽きる。

 最初の論文は担当教授はもちろん、学会に相手にされなかった。

 自費で試作もした。最初は従来のシステムに大きく劣る粗末なものだった。

 それでも爺様の遺産を切り崩して特許維持したけどね。


 オレが狙っていたのは宇宙での作業効率化だった。

 人類が宇宙に生活の場所を得て200年ほど経過しているが、宇宙空間での作業はヒトの手で行うべきものが多数あるのだ。

 自律型作業ロボットで作業の軽減化はされているが、宇宙作業者の需要は尽きないのだ。

 それに宇宙にヒトを送り出すということは、生命維持装置も一緒に送り出すことを意味する。

 ほら、ヒトの命は○○より重いとも言うし。


 オレが粗末ながらも試作品を持ち込んだのは政府と企業の合資機関の外縁惑星調査局ってとこだ。

 木星から海王星にいたるまでの惑星系の調査と研究を行う機関だ。


 彼らは自立型ロボットを用いて探査を行うことを企図していた。 

 だが、オレの持ち込んだシステムならロボットに搭載するコンピュータの容量は半減以下になるし、衛星軌道から遠隔でヒトの器用さのままに作業ができる。


 プレゼンの1回目はうまくいったとは思えなかった。

 2回目にはコスト、特に研究開発に費やす時間について突っ込まれた。

 3回目には担当者が減っっていた。探査機があれば実演したいとオレは熱弁をふるった。

 

 天王星・海王星用の探査試作機を用いたプレゼンはオレにとって賭けだったろう。


 時代遅れの有機コンピュータを並列に繋いだだけの拙いオペレーション機材。

 試験結果を延々と記録するだけの携帯端末。

 中古の生体医療用ナノポッド。

 そして自作のナノマシン達だ。

 実演するのはどこにでもいそうな日本人男性。


 制御能力が足りなかったから右腕だけの実演になった。

 立ち会ったのはたったの3名。


 そしてオレは賭けに勝った。

 その場で独占契約と緘口令への協力を求められた。つか脅しだったな。


 立ち会った3名のうち一人は軍人さんだったのだ。

 戦場の最前線には無人の操り人形が跋扈する風景が想像できた。

 ああ、そうくるのか・・・


 特許が既に申請済みであり、審査中として公開されていたのも運がよかった。

 軍が隠蔽したくとも公知になっているのだ。

 こういった発明はいずれ誰かが実現する。

 オレの協力を得て先行開発し、ノウハウを先に得ることを軍も調査局も選択したわけだ。


 その後の3年間は凄まじい忙しさだった。

 ゲーム廃人のオレだがおっかない軍人さんのプレッシャーはヤバイ。

 

 すぐにタイタンや天王星・海王星の探査チーム用にシステムを組んだ。

 引っ越した住居はスペースコロニーまるごとが軍の施設の一角だった。

 監禁とも言えなくない。

 それでも満足していた。

 最先端の機器も使えたしね。

 余談だが軍の最新兵器の質量共鳴砲を試射させてもらったのは秘密だ。


 ありあわせのシステムを搭載したタイタン探査チームがこれまでに失敗した探査機材を回収したり、天王星でも海王星でも探査成功に貢献できたと思う。

 実にうれしい限りだ。


 軍の対地攻撃兵器群は全て無人化されていった。

 むろん、数多くの試作と量産がなされた結果だ。

 宇宙軍は地上に留まる国家に非介入の姿勢を表向き貫いている。

 しかしテロ組織への攻撃は常時行っているのをオレは知っている。

 未だに地球に3基ある軌道エレベーターへの攻撃を企図する勢力は多い。


 敵対する武装勢力は急速にかつ徹底的に潰されていった。秘密裏に。

 宇宙軍の人的被害はゼロだ。

 未公表だが軍としては大成功を祝っていることだろう。


 オレには正直、うれしさ半分だな・・・


 ま、民間向けに転用されたのもすぐだった。

 こっちはすごく嬉しかった。


 現在(西暦2,350年だ!)、地球圏には約7,000基のコロニーが存在する。

 住居用コロニーだけでも約3,000基、人口にしたらざっと約12億人だ。


 宇宙での事故で年間1,000人以上が死んでいたのが0になるのさ!


 これは誇っていいことだとオレは思っている。普段は口に出さないけどな。


 そしてこの技術は娯楽にも転用された。


 バーチャル・リアリティ構築システムを家庭に、というのも量産効果が一役買った。

 民生の工業用に爆発的に増加したからだ。

 普通の家庭にあるセキュリティ・システムとそう変わらない。

 大学生の奨学金より安いだろう。

 過当競争と思えるほど氾濫したのが生体医療用ナノポッド改めゲームポッドだ。

 ハードは民間各社が新しいハードを開発した。むろんソフトはオレの特許のものだ。

 各社はゲーム処理能力を、快適性を、デザインを競い合った。

 安いものなら新人社員の初任給程度といったところか。

 上はきりがなくなるのはいつの世も同じだ。


 もちろん、VRMMORPGの分野は最も盛り上がった。

 お約束のファンタジー、空想歴史ものが中心にだ。

 かつての地上の様子を仮想体験できる旅行プランは爆発的に普及した。

 オレもこれらソフトを供給するいくつかの会社に出資した。


 どうなったかって?

 いつのまにかオレはとてつもない資産を得ていた。

 個人で住居用コロニーをいくつも所有できるほどに。

 住居用コロニーはさすがにコロニー開発公社の専業だから買ってないが、工業コロニーを4つ、農業・牧畜コロニーを3つ保有している。

 運用は門外漢だ。収入も税金もホームコンピュータに丸投げだ。

 余裕があったりするから慈善事業だってやってる。


 もう何もしなくとも資産は増えるし、老後は悠々自適だ。

 老後っていう年でもないが・・・まだ30代だし。


 医療用ナノポッドの性能向上もあって宇宙で居住する人間の寿命は100歳を超えているのだ。先は長いよね!


 たまにくる宇宙軍からの相談にのりながら日々を過ごす事になるのだろう。

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